飲食トレンド カニ戦争、食べ放題で集客狙う 課題は仕入れ
不況の影響をうけて、店から遠のいた客をなんとか獲得しようと値ごろ感をアピールする食べ放題が盛んだ。なかでも、日本人が晴れの食材として尊ぶ“カニ”の食べ放題が米、ロシア産の輸入急増を形けて増えている。しかし一口に「カニ食べ放題」と言っても、カニの扱い方はさまざまで、食べ放題の中の一品にカニを入れて食べ放題、コースにバリエーションをもたせている店舗、短期のイベントとして投入する店舗、メニューの中の一つとして定着させている店舗、文字通り「カニの食べ放題」をメーンに一年中展開している店舗などさまざま。年末の最需要期に向けて“カニ戦争”が繰りひろげられそうだ。
カニ専門店の老舗「かに道楽」の今津久雄専務はカニブームについて、「不景気で低価格の食べ放題が増えているが、カニを扱うことによって食べ放題の価値があがる。昨年、カニが若干安かったので鍋物屋、季節料理屋、居酒屋など一般飲食店でカニ食べ放題を行う店が多くなった。カニ専門店で食べ放題をやっているところはないと思う」という。
高級食材のカニを食べ放題に使用できるのはまあまあの品を「安く」手に入れることができるようになったから。カニ消費の主流はズワイガニとタラバガニ。タラバは九〇年から、ズワイは九一年から急に輸入量が増えている。特にアラスカは捕る期間を一年のうち一週間ぐらいに集中しているが、ロシアは一年中捕っており、随時日本に入ってくる。タラバは平均して㎏当たり三〇〇〇円前後(ホールセラープライス)といわれているが、ロシア産では二〇〇〇円をきって出回っているものもあり、業務用が中心だったものが、スーパーなどにも流れるようになった。
都内に九店舗居酒屋を展開する「磯忠」は今年3月からズワイガニ食べ放題九八〇円を月のイベントとして五日間限定で投入。この10月まで七回行った。通常は客単価二九〇〇円である。「カニを比較的安く一年間まとめて卸してくれる業者があったので客の呼び戻し策として行っている。ほかにも生ビール半額、生ウニ低価格など随時行っているが、実際には安売りしている時しか大勢の客は入ってこない。これまで七回カニ食べ放題を行った知名度で11・12月の忘年会の客を集めたい」(磯忠)としている。
値ごろ感ある価格でシーフードメニューを提供している「レッドロブスター」も今年は春から10月31日まで期間限定でズワイガニ食べ放題二九八〇円を行っていたが好評だったため、さらに12月26日まで期間を延長している。
しかし、「キャンペーン中は集客になると思うがリピーターにつなぐのはむずかしい」という。あくまで集客の手段と割り切っている。
肉のディスカウンター花正が経営している「しゃぶしゃぶ花まさ亭」はオープン八ヵ月後の九二年春にしゃぶしゃぶ食べ放題メニューにセットしている寿司をカニに切り替えてみたところ好評で定番となった。カニ付牛肉・野菜・きしめん・フルーツ・ケーキで三八〇〇円。カニはそのまま食べてもよし、しゃぶしゃぶでもよし。カニの付いていない二三八〇円のコースもあるが、ほとんどの客がカニ付きのコースを選ぶという。
国産浜ゆでガニのバイキング専門店さっぽろ市場の「かにどろぼう」は、昨年11月にオープンし、当初北海道の産品を売るということで鮭やすじ子などを扱っていたが、今年の春からもカニ一本に絞った。「店で扱っているのは全て国産浜ゆで冷凍のカニ。花咲ガニまたはタラバガニプラスズワイガニ食べ放題におにぎりと鉄砲汁付で三九八〇円。一人平均三杯は食べる。採算度外視の価格設定です」(同店)毎日満席で断わる客は多数。「不況で食べ放題の店に人が入っていますが本物を出さないと、やがて客は離れていく。今一番大変なのはカニの仕入れ。毎日がカニ戦争ですよ」という。
“カニ戦争”いよいよホットになりそうだ。
(2面につづく)