高度成長する惣菜・デリ 和食ブーム“おふくろの味”から“ママの味”へシフト
「和食回帰」「和食ブーム」と言われて久しい。これまで一貫して洋食嗜好を強めてきたが、近年、その流れは変わり急速に和食へ回帰しつつあるというわけである。
例えば、最近の「もつ鍋ブーム」。九州ならではの鍋物が全国的に広がり、首都圏でも「もつ鍋元気」をはじめとするもつ鍋専門店が登場した。特に低脂肪、高タンパクのヘルシー性と、ボリューム感、割安感で若い女性層の高い支持を得た。九〇年~九二年にかけて雨後の筍のごとく新規出店が相次ぎ、中にはしゃぶしゃぶ専門店がもつ鍋店に業態転換する所も出るほどの一大ブームとなった。そしてさらにもつ鍋から、寄せ鍋、ちゃんこ鍋、すき焼き、水炊き、おでんなど「鍋物ブーム」へと進展していったのである。
不況下の外食産業界において、唯一活況を呈している居酒屋でも、「和食」がキーワードとなっている。大皿惣菜料理、屋台村などいずれも若い女性層に爆発的人気だ。特に「居酒屋は男同士が酒を酌み交わす所」から「OL同士で手軽に食事できる所」へとイメージ変革が起こっている。この背景に和食メニューの充実があるということだ。
さらに、ファミリーレストラン(FR)、ファストフード(FF)においても、和食パワーは顕著だ。FR大手のすかいらーくが和食FRとして「藍屋」を展開していることは周知のことだが、本体の「すかいらーく」でも丼物、和食御膳、雑炊など和食メニーを定番化している。これはその他のFRでも同様だ。
一方、FFでは洋風FFの「マクドナルド」「ロッテリア」「KFC」などが頭打ち状態にある中、牛丼「吉野屋」や、新興勢力の天丼の「てんや」、海鮮丼の「ザ・どん」など和風FFの躍進ぶりが目立つ。洋風FFでも和風メニューに着目し、焼きおにぎり、ライスバーガーなどの米飯メニューの積極投入や、宅配和風弁当事業を手掛ける企業さえ登場している。
「和食ブーム」は外食産業だけのトレンドではない。中食、内食においても大きな開発キーワードとなっている。百貨店の惣菜売場の売れ筋はやはり、和風懐石弁当、すし、そしてきんぴらごぼう、築前煮、切り干し大根、うの花、ごま和えなどの“おふくろの味”を代表するメニューばかりだ。この現象はスーパーの惣菜売場でも同様で、さらにCVSでも弁当、おにぎりに次ぐ重点アイテムと位置付けられているのが和惣菜である。
一方、内食を担う食品業界でも、こうした和惣菜を冷凍あるいはレトルト加工した食品が好調だ。また、従来、屋台でしか食べられなかった、たこ焼き、たい焼きなども冷凍食品の分野でヒット商品となっている。
外食、中食、内食にわたって「和食ブーム」の盛況ぶりを商品、店舗を例にあらためて取り上げてみたわけだが、これらの現象を本当に「和食回帰」「和食ブーム」と捉えて良いのだろうか。いま流行だからと言って「和風メニュー」「和食専門店」を安直に開発して、本当に消費者ニーズに対応したマーケティング戦略と言えるのだろうか。
「和食ブーム」が起こるべくして起こったその背景を考えてみることで、ブームの深層にあるマーケティングパラダイムを探ってみることにしよう。
消費者の食生活の現状と動向を次の五つにまとめてみた。
①女性(特に主婦)の社会進出
近年、女性の社会進出が大幅に進展している。特に育児に手のかからなくなった主婦の就業意欲は高く、雇用機会も多いことから、主婦のパート・アルバイトが急増している。「男は外で仕事、女は家事」という既成概念も次第に薄れているため、今後も有職主婦の増加は疑いないところだ。
②主婦の調理技術の低下とレパートリーの狭さ
核家族化の進展と女性の社会進出の増加により、家庭料理の伝承、調理技術の伝達が少なくなり、家庭内に伝統ある“おふくろの味”がなくなっている。
③簡便性志向、合理化志向
家庭内の食生活を全面的にコーディネートしてきた主婦が、家庭外で過ごす時間が長くなると、必然的に調理に手間を掛けられなくなる。ところが、「おいしいものを食べたい」というニーズは普遍的である。そこで、材料の仕込みから味付けまで比較的手間のかかる和惣菜は、外食・中食など外に求めるようになる。
④ライフスタイルの変化により「食事‐コミュニケーションの場」の図式が崩れている
核家族化の進展とライフスタイルの多様化により、家族が揃って食事する機会が減っている。また嗜好の多様化により、家族全員それぞれが好きな時に好きな物を食べるという風潮がある。よって、主婦一人が調理するのでは賄いきれず、比較的かためて作る和惣菜は買って帰るか冷凍食品、レトルト食品に頼るようになる。
⑤料理を作るのは、必ずしも主婦でなくなった
女性の社会進出と単身赴任者の増加などにより、男性が家事をするケースが増えている。調理に不慣れな男性層にとっては、食べたくても作れないのが伝統的な和惣菜ということになる。
以上、①~⑤のように「消費者の食生活」を取り巻く社会、経済環境が変化する中で、洋食メニューが外食(アウトドア)から中食・内食(インドア)へと浸透し、伝統ある和食メニューが内食(インドア)から外食・中食(アウトドア)へと飛び出して行ったと言うことができよう。グラタン、ドリア、スパゲティなどパスタ類やロールキャベツ、ハンバーグなどは、現代ママにとってまさに十八番のレギュラーメニューであるが、きんぴらごぼう、築前煮、切り干し大根などは作れない。これら和惣菜は外で食べるか、スーパーなどで買って帰るのが一般化しているのである。つまり“おふくろの味”は家庭内にはなく外にあり、現代の“ママの味”はもはや和食ではなくなっている。だから、非日常的食シーンである外食で“おふくろの味”がブームとなるのである。
そうした意味では、冒頭の「和風回帰」は適切な言葉ではないであろう。「和食のハレ化」「和食のアウトドア化」と捉えることができよう。
そして今、このマーケティングトレンドを背景に、主婦が調理を嫌う煮物、焼き物、揚げ物、蒸し物、炒め物、和え物といった分野での和食メニューが持ち帰り惣菜としてヒットしているわけである。