地域ルポ 錦糸町、一大レジャー・ショッピング街

1994.07.04 55号 16面

JR総武線錦糸町は、かつては猥雑な街、風俗イメージの強い街であったが、駅南口に丸井が昭和58年9月に、西武百貨店が61年11月に進出してから、街のイメージは大きく変わってきた。大型商業施設の出店によって地域が活性化し、ショッピングやレジャー、文化ゾーンとしての性格を強めてきているのだ。錦糸町はこの状況を踏まえてさらに変ろうとしている。地下鉄二線の乗入れが計画されているほか、北口地区が再開発されて、平成9年3月にはそごうデパートの出店を含めて、事務所、店舗、ホテル、文化会館、住宅棟などの複合都市ビル群が完成するからだ。これらの都市施設の整備や交通アクセスの強化によって、錦糸町は都心とのつながりを緊密にし、来街動機の喚起を飛躍的に高めることになる。

錦糸町といえば、JR総武線錦糸町駅(一日乗降者約一六万人)の南口に商業集積が進んでおり、地方都市並みの賑わいをみせている。しかし、街の商業ゾーンは駅を軸にして東側の大横川、西側の横十間川との間約六〇〇m、南は京葉道路および首都高速七号線、北は蔵前通りまでの約一kmのエリアに展開する形で高密度の商業集積をみせている。

もっとも、高密度の商業集積といっても、大型の商業施設にしろ、小売店舗も南口に集中しており、錦糸町といえば南口地区をイメージすることになる。

駅のホームから南口に出る。駅は六階建てのステーションビル(テルミナ)と一体化しており、駅自体がショッピング施設に取り込まれる形になっている。

同ビルは昭和32年6月のオープンで、現在、物販、飲食、サービスなど約一〇〇店舗が出店している。

ステーションビルの正面はバスターミナルになっている。この地区の大きなポイントは西武と丸井百貨店が出店していることだ。ステーションビルの東側は四ツ目通りで、西武デパートはこの通りに沿って建っている。

実は、この西武デパートはキーテナントして出店しているもので、施設オーナーは地元資本の楽天地ビルだ。

同ビルが老朽化したことに伴って、昭和61年11月、スクラップ&ビルドしたことにより、西武が核施設となってオープンしたわけだが、商業施設はオーナーの楽天地ビル、西友系列のザ・プライムの三社が展開する形になっている。

ビルは地上九階、地下一階建だが、これを楽天地ビルとセゾングループが南北に二分する形で占有し、西武側は床面積約六〇〇〇坪を占める。

西武デパート側は一階がウェーティング(フロント)スペースと、建物の裏手(駐車場)に通り抜ける道路(コンコース)になっており、銀座のマリオンをイメージするビルデザインだ。

この一階空間にはハーゲンダッツやダンキンドーナツ、ファーストキッチン、ドトールコーヒーなどの大手チェーンが出店しており、独自の賑わいをみせている。

飲食施設はこのほか、チャイニーズフーズ「ジャスミン」、そば処「十和田」、イタリア食堂「まっ赤なトマト」、深川鍋「升本」、たこやき「蛸の壷」(地下一階)をはじめ、手打ちうどん、そば「杵屋」、とんかつ「和幸」(二階)、西洋フードシステムズのプライムガーデン「デリカテリア」(三階)、ディナープライム「小吃坊」(四階)などが出店しており、地下一階から地上四階までに計一八店が出店し、面としての飲食ゾーンを形成している。

飲食施設は楽天地側にも「すえひろ5」や「信濃路」など数店舗が出店しているが、この施設ゾーンには映画館六(計約一四四〇席)、サウナ(男女別)二、ゲームセンター二が展開しているので、西武の飲食、商業ゾーンと合わせて、楽天地ビルの集客力は絶大だ。

西武デパートの場合、レジ扱いで年間平均六〇〇万人の来客数というから、観劇(レジャー)客や飲食客を合わせると、この数は一〇〇〇万人前後になるものとみられる(楽天地ビル)。

そごうも進出

楽天地ビルの南角は京葉道路(国道一四号線)と四ツ目通りがクロスする交差点になるが、この角から対角線上の左前方、京葉道路に面して丸井が出店しているのがみえる。

地上九階、地下二階建ビルだが、八、九階部分に墨田区の産業会館が入居しているので、丸井の売場は地下一階(地下二階は駐車場)から七階までの八フロア。

延売場面積七〇〇〇坪で西武より一〇〇〇坪ほど大きい売場規模にある。しかし、年間平均客数は五〇〇万人で、これは逆に西武に比べて一〇〇万人アンダーの数字だ。

それはともあれ、これら二社の大型商業施設で、年間一五〇〇万人の集客力を発揮しているわけで、錦糸町はこの二つの大型施設で来街動機を大きく喚起しているということだ。

これに北口の再開発事業が完成して、そごうデパートが開店すれば、街はさらに活性化して商業集積を増加させることになり、将来的には都心の渋谷や新宿に迫る賑わいをみせることになる。

錦糸町商口の“風俗ゾーン”といえば、改札口を出てバスターミナル前面を西側に折れた「きんし町駅ビル通り」だ。

通りの入口に、右角に住友銀行が位置しているが、道幅五、六mほどの幅の狭い通りで、JRの高架に沿って西側に一五〇mほど伸びたエリアが、世に知られた歓楽街だ。

昭和20~30年代にかけては闇市的な雰囲気で、木造つくりの飲食店舗が軒を連ね、また、昭和40年から50年代前半にかけてはピンクサロンやソープランド、パチンコ、レジャーホテルで賑わっていた。

いまでもこういった類の施設があり、かつての通りの雰囲気をイメージすることができるが、現在は中・低層のビル化が進んできており、一連の風俗ビジネスに交じって、牛丼チェーンの吉野家ほか、つぼ八や村さ来、養老乃瀧といった大手居酒屋チェーンの出店もみられる。

“風俗産業”が廃業して通りの業種、サービス産業が様変わってきていることが読み取れるわけだ。

吉野家は五階建ビル一階での直営出店で、店舗面積二五坪、客席二五席で、昭和57年のオープン。客層は二〇、三〇代のサラリーマンや地域の専門学校の学生などで、日商五〇~六〇万円の水準を保っている。

つぼ八は地上五階、地下一階建のビルの地下店舗で63年11月のオープン。店舗面積四三坪、客席数九四席の直営出店だ。

客層はヤングから中年のサラリーマンまで多様だが、カップルを含めると女性客は四割近くになる。

女性客が多く来店するということは、それだけ地域が健全化してきているということだ。

客単価二三〇〇円。売上げは平均日商四〇万円前後だが、金・土には六〇万、五〇万円台にハネ上がる。

同じビルの二階には村さ来が出店している。FC出店でつぼ八と同時オープンだ。店舗面積四五坪、客席数一二〇席。客単価二六〇〇円。客層はほとんどつぼ八と変わらない。

錦糸町北口は改札口を出れば、駅構内デパートの「らがーる」で、ショッピング客と乗降客がぶつかるという、あちこちでよくみかけるニッポン的な駅商業ゾーンの空間を呈している。

この空間を外に出れば即再開発事業の工事現場で、空間の広がりが全くない無機質な環境を呈している。外に出る手前左のフロアに天丼チェーン「てんや」、さらにその奥にハンバーガーチェーン「ロッテリア」、海鮮料理の「海鮮問屋」などの大手外食チェーンの出店が目につくが、北口の飲食施設といえば、これくらいなものだ。

再開発工事現場は、東西に長く伸びており、横長の計画用地という感じだ。計画によると、第一~第三街区までのプロジェクトで、総事業費一八〇〇億円を見積っている。

施設の計画概要は別項のとおりだが、この工事現場の北側に出ると、そこは長崎橋通り(補助三〇七号線)で、道路北側に沿ってビルの一、二階に小さな店舗が軒を連ねている。

地番は錦糸一~三丁目だが、この道路一本裏手のブロックに入れば、中・低層のマンションや事務所(雑居)ビルが建並んでおり、一階あたりに飲食店などの店舗が散在する。

まだまだ“商店街”としてのボリュームにはないが、北口の再開発事業に伴っては、低層の住宅や老朽施設のスクラップ&ビルドによって、商業集積が進む可能性は大だ。

このため、錦糸町北口地区の再開発事業の推移と地域の活性化が注目されるところだ。

錦糸町駅北口地区第一種

市街地再開発事業(概要)

再開発地区=墨田区錦糸一丁目、二丁目、三丁目の一部

計画面積=約四・四ha

事業主体=錦糸町駅北口地区市街地再開発組合(四六人)、民間地権者三九人、東京都、墨田区、日本国有鉄道清算事業団、東日本旅客鉄道株式会社、参加組合三社(日本生命保険相互会社、株式会社そごう、東武鉄道株式会社)

総事業費=一八〇〇億円

着工=平成5年4月

完工=平成9年3月

第一街区(A1棟)=事務所・店舗/地上一九階、地下三階、敷地面積一一四〇坪、建築面積六〇〇坪

第二街区(A2棟)=百貨店(そごう)/地上一一階、地下五階、敷地面積二三三〇坪、建築面積一六三〇坪、延面積二万三八〇〇坪

第三街区(C1、C2・B・D棟)=事務所・ホテル・文化会館/地上二四階、地下三階、敷地面積五五〇〇坪、建築面積三五〇〇坪、延面積二万三八〇〇坪

第三街区(E1棟)=住宅/地上一四階、地下二階、敷地面積五五〇〇坪、建築面積一九〇坪、延面積二六〇〇坪

第三街区(E2棟)=住宅/地上一四階、敷地面積五五〇〇坪、建築面積一七〇坪、延面積二〇〇〇坪

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