トップインタビュー ビーヨンシイ・石井宏治代表取締役 カッコいい焼鳥屋が目標
‐‐昭和50年代後半に六本木や赤坂に焼き鳥革命が起こり、サラリーマンの溜り場というイメージの焼き鳥屋がアメリカンチックに変身、若い男女を取り込むようになって久しいですが、その発祥の地は“調布”、しかも石井社長の「YAKITORI&WISKYい志井」と聞きました。常識を破って洋風焼き鳥屋を出したいきさつを教えて下さい。
石井 父が焼き鳥屋をしていまして手伝っていたのですが、六本木などに遊びに行って「何しているの?」と聞かれた時に「焼き鳥屋」と言うのはとてもカッコ悪かった。二五~二六歳の時に親に反抗してアメリカに飛び出したのですが、向こうにはカッコイイものがいっぱい。このカッコ良さ、アメリカで見た物を自分なりに自分の街に表現してみたかったんです。
それで昭和56年に星条旗をフラッグにしたりしてアイスクリーム感覚で若い女性が食べられる焼き鳥屋をイメージしてオープンしました。父にはこれが焼き鳥屋かと言われました。立地は駅には近いんですが、当時は通りが真暗で「チカンに注意」の看板が出ているほどでしたから人通りが少ない。自分としては暗い中にライトがいっぱい照って店がカッコ良く浮き出て人目を引くだろうなと思ったのですが、そもそも人通りが少ないうえにターゲットとした女性の通る路ではなかったですから、開店当時は暇でしたね。いよいよ困り果てて半年後には父に頭を下げてやきとり「い志井」ののれんを借りることにしました。
のれんを下げただけなのにその効果は絶大でした。頭が下がりましたね。やはり日本人はのれんを見ると安心するんでしょうね。それからはクチコミでお客が増え、ターゲットの若い客も入るようになりました。この一店目の経験がとても自信になりました。
‐‐洋食屋、バー、うどん店など従業員の独立店も含めてい志井グループは一六店。外食産業は厳しいといわれる中で全店順調ということですが、そのノウハウを聞かせて下さい。
石井 私の学歴は日大卒、有名な人に付いて料理の修業をしたことも無く、いわゆる日本人の好む肩書は持っていません。自分の持っている感性がすべてですので、効率よく感性を大切にします。
たとえば、銀行からお金を借りるにしても金利の高い低いではなく、私のやり方、気持ちを分かって納得してくれる所から。店舗の場所でも同様で立地や賃貸料より私を理解してくれる大家かどうかで決めます。店舗デザインからメニュー、スタッフ、使う備品まですべて同じ。コストには関係なく自分がここち良いと思うことしかしません。
若い女性をターゲットにした店作りも、招き猫的に若い女性に来て欲しいのではなく、自分の回りに若い女性がいると活力が出る。単純に若い女性が好きなだけなんです。儲けようという卑しい気持ちでなく(?)純粋に女性に来て欲しいという気持ちを表現した店づくりをしています。そうなると、手づくり、機械では自分を表現できません。
経営者としては失格です。
‐‐グループの店は雰囲気が良くスタッフの接客も良いと好評です。従業員教育はどうしているのですか。
石井 何もしていません。タイムカードも無くすべて自由です。マニュアルもありません。ただ人としての礼儀だけは守って欲しい。どの店にもお客の中で一番うるさく神経質な客は私と思えと言っています。それだけです。
ただ、自由が一番むずかしい。自由を与えられた人間は自分がやるべきことをやってからでないと自由を主張できません。ですから皆んなが自分を主張できるように自由にしているんです。スタッフは私の考え方をよく分かってくれています。たとえば、私の店では男性スタッフが女性スタッフの生理がわかる。女性は仕事だから具合が悪くても店に出て来ます。男性スタッフは日頃と違う動きを見ればすぐわかる。そうすると「今日はもういいから帰れよ」と自然に声をかけられる。マニュアル、ルールは無くても人の関わり合いは自然です。
珍しいと言われますが、会議は裸のつき合いができること、一〇~一五分勝負ということでサウナと決めています。
‐‐まだ四〇歳でこれからが楽しみですが、どのような将来を描いていますか。
石井 自分のやりたいことをやりたいようにやる「夢追い人」で人生を過ごしたい。その中でもあくまで自分の感性を尊重し、カッコ良くというのがテーマ。店舗展開にしても将来設計はまったくありません。
今は韓国のとりこになっていまして年内中に私なりに韓国を表現した店を出したいと思っています。
自ら経営者失格というように既存のトップが持たねばならないと言われる資質、感覚とは距離がある。しかし、日本人気質を否定しているように見えながらも「のれん」の持つ日本人的心にはより深く精通しているように見える。障害者のディスコパーティーを自ら企画して一緒に楽しむ。阪神大震災では五日目にしてトラック五台の水を調布から運んだ。行動力がある。
ある航空会社のスチュワーデス教育担当者が同グループ全店をお忍びで回り、そのスタッフの笑顔あふれる接客に感動、そのノウハウを教えて欲しいと言われており、この取材後会うと言う。何と答えるのですかと聞いたら「くすぐればいい」と答えるそうな。側にいた秘書も「店ではいつもそうしてます」と真顔でうなずいた。読者の皆さん、お試しあれ。
(文責・福島)