外食の潮流を読む(42)「人形町今半」で「肉なしすき焼き」を注文する外国人客の来店目的とは

2018.12.03 478号 11面

 私は飲食業がインバウンド対策をはじめとする国際体験を重ねることによって、食の多様性に対応することの重要性に気づき、グローバルな顧客満足を獲得していくものと確信している。今回は「人形町今半」の話。同社取締役副社長の高岡哲郎氏が解説してくれた。

 人形町今半グループの創業は明治28年(1895年)。2018年3月現在、事業所が飲食店19店、精肉店11店、惣菜店4店、センター3ヵ所、従業員1432人という陣容となっている。

 同社ではタイの高級日本料理店である無限大(MUGENDAI)よりオファーを受け、国外イベントとして、2017年9月20日から24日まで、バンコクの「MUGENDAI HONTEN」を貸し切り、「人形町今半」の営業を行った。無限大では、これまで日本にある日本料理や寿司の名店を招き、「タイの現地のお客さまに一流の日本料理に親しんでもらう」という趣旨でこのようなフェアを恒例行事としている。

 人形町今半にとってタイとの縁は、2015年ごろからで、銀座店にタイ人の客が訪れるようになり、そこでの心地よい体験が口コミとなって、タイ人の客がどんどん増えていったという。一族を呼び寄せて部屋を貸し切りにして宴を催すというシーンもあった。

 無限大で行ったイベントの後に、そこに参加した客のうちの4組が日本の人形町今半を訪ねてきたという。

 このように人形町今半の各店舗には海外からの客が急激に増えており、宗教や思想・信条の理由で食に制限がある客に対し、全店舗でメニューを変更するなどの対応を行っている。

 現状では、予約を受ける際に食の禁忌について確認し、可能な範囲でカスタマイズしている。例えば、すき焼き・しゃぶしゃぶを肉ではなく海鮮に変更したり、野菜のみで提供するなどだ。

 人形町今半で食事をするということは、本来肉を食べることを楽しむことだが、「肉なしのすき焼き」を求める外国人は、肉を食べること以上に、同店を体験することを目的としているのだ。それは老舗の接客であり、所作であり、店内の空気感である。

 個人的なことだが、筆者は食の多様性についての取材を重ねていく過程で、自分が小麦アレルギーであることを確信し、5月からグルテンフリー実践者となっている。飲食店で食事をする際、「何かアレルギーはありますか?」と尋ねられると「小麦」と答えているが、飲食店がこれに完璧に対応することは非常にハードルが高いようだ。この時「お醤油は大丈夫ですか?」と聞かれると「食の多様性についてきちんと勉強している店」であると感心する。

 高岡氏にインタビューをする前に、人形町今半の池袋東武店で食事をした時に、筆者と接客担当者の間でまさにこのようなやりとりがあった。全社的に食の多様性についての知識を共有していることが伝わってきた。老舗の飲食業が着実にグローバル化を進めている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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