クローズアップ現在:注目度高まるスペイン料理 「スぺめし」の可能性
地中海料理は明るい雰囲気で人気が高いことから、レストランのイベントなどでも展開しやすい。写真はアメリカンダイニングレストラン「トマト&オニオン」の「地中海フェア」(~7月10日まで)で提供中の「具だくさんシーフードのパエリア」(1,319円・税込み)
「イタめし」という言葉がはやったのは何年前だろうか。「イタめし」はイタリアンを「めし」というワードによってさらに身近で気軽に立ち寄れる印象に広げたといえる。大衆的でありながら、それでいてオシャレ感も損なわないイメージになるのが「めし」というワードだと感じる。最近、スペイン料理店が元気だ。都内の人気店は常ににぎわっている。2月には東京・丸の内に地中海スパニッシュ料理「スペメシ Leon」がオープンしたが、今後は「イタめし」よろしくスペイン料理もスパニッシュに「スぺめし」が加わり、より大衆化していくのだろうか。
●意外に知られていないスペイン料理のトレンド
スペイン料理といえば、日本人の大半が「パエリア」を思い浮かべるのではないだろうか。その他の料理を問われると即座に浮かばない人も少なくないだろう。しかし今までもスペイン料理は何度もトレンドになっている。トマトや玉ネギ、キュウリ、ピーマンなどを加えた冷製スープの「ガスパチョ」、小さな料理をピン(串)に刺した「ピンチョス」、「バスクチーズケーキ」は大流行してコンビニ各社でも販売した。オリーブオイルとニンニクで食材を煮込んだ「アヒージョ」も、飲食店やスーパーでも見かけるようになり、パーティーなどでは欠かせないアイテムの一つとなった。
また、トレンドとしては強くはないが、すでに日本の食生活の中に入り込んでいる料理もある。例えば細長いドーナツのような「チュロス」は、原宿など若者の街では以前から定番のアイテムとして珍しくないが、スペインが発祥であることはあまり知られていない。その他、「トルティージャ」は、スペイン風オムレツとも称されるので、正式名を知らなくてもジャガイモを入れたボリューム感のあるオムレツとして手作りする人もいる。
ざっと挙げても、これだけあるのだ。ただ、トレンドになる時期はそれぞれ違い、スペイン料理全体としてとらえられてはこなかった。また、例えばティラミスはイタリアのスイーツだと認識されているが、バスクチーズケーキは「バスク地方のケーキ」とは思われていても「バスクはどこの国か」知らない人も少なくないし、アヒージョはイタリア料理だと思っている人もいる。オリーブオイルを使うのはイタリアンという固定化したイメージが強いのだと推察する。
今ひとつ、スペイン料理としてのまとまりが弱かったのは拭えない。それは、コース料理が確立されていないことも要因の一つと筆者は考えている。単品メニューだけだと、どうしても分断して思考しやすくなるのだ。
●「スぺめし」の特徴と今への訴求
そんな経緯がありつつ、スペイン料理が今、活発化している。東京「La Coquinacervecria」(渋谷)、「メソン・セルバンテス」(麹町)、大阪の「エチョラ」「BANDA」など人気店は連日にぎわっている。どの店にも共通して現代に受ける要素が多々盛り込まれていると感じている。
いわゆる「スぺめし」といえそうな店だ。コース料理の決め事があまりなく、アラカルト料理が充実している点も、時流に合っている。コロナ禍以降、サクッと外食して帰宅する人や軽く飲んで帰宅するケースが増え、「気軽、手軽」も外食選びのポイントの一つとなっている。
●料理から見るスペイン料理の強み
また、アラカルトで注文しやすい雰囲気は、一人客も入店しやすい。最近は、1人前の量のパエリアを提供している店も増えている。ピンチョスなどの前菜からパエリアなどお腹にたまる料理まで揃うので、さまざまなニーズに対応しやすく、定食屋のような使い方から仲間うちのパーティーまで幅広く使い勝手がよい。
客平均単価も5000円を下回ることがほとんどだ。家庭料理の代わりにもなり外向きの要素もあるちょうどよいバランスが「無理しない生き方」を求める現代に合っているのではないか。
スペイン料理が今後期待される要因は料理からも見られる。日本でもおにぎりブームや小麦粉の高騰もあり、米飯が見直されつつあるが、コメ料理があり、魚介類も豊富な点はなじみやすい。また、強い辛味や強い香辛料が少ないので日本人にとって食べやすさもあるだろう。
加えて店舗は地中海をイメージした内装や明るいムードの店が多く、料理は色彩が豊かで全体的に明るい雰囲気がある。将来に不安を抱える人が多い現代において、ストレスオフをさせるにはちょうどよい軽快さが備わっていると感じる。重々しくないバランス感が強みなのだと思う。
(食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 大学兼任講師 小倉朋子)