外食の潮流を読む(125)製造業と飲食業を同時に営んで向上心高めるバランス感覚を培う

2025.11.03 561号 11面

 川崎駅近く、仲見世通りは居酒屋の繁盛店が競い合う賑やかな通りである。この中で、2階に「ごう」という看板が隣り合っていた。2店とも「ごう」の系列焼鳥居酒屋で、中に入るとほぼ満席状態。働く人と、お客とに一体感があった。

 「ごう」を運営しているのは、株式会社ネクストグローバル(本社/横浜市鶴見区)。同社代表の時吉宏昌氏(48歳)は、同社と並行して、製造業の時吉工業株式会社の代表も務めている。

 時吉氏の生家は、板金業の時吉工業が家業。時吉氏は大学時代にヨット競技選手で、日本代表にも選ばれた。ヨット漬けの毎日だったことから、卒業する時期になっても就職する気持ちがまったく持てなかったという。大学を卒業し、実家に帰ってモラトリアム生活を過ごしていた。

 それを見かねた父が、「家の仕事をしろ」と。そこで板金業の仕事を手伝うことになるのだが、時吉氏は、「社内の職人たちから、とにかく認められる存在にならなければ」と、一生懸命に働いた。3年経ったある日、職人の一人から「あなたのおかげで、仕事が楽になった」と言われたという。

 そんなことがあってから、「自分は昔、板前になりたかった」という想いがこみ上げてきた。当時の時吉氏は20代の後半で、「今から板前の修業はできないが、経営はできる」と考えた。

 あるとき、焼鳥の修業経験のある人物と出会った。その人物と意気投合して、「やってみますか?」と。こうして、2005年10月に焼鳥居酒屋「ごう」の1号店である元住吉店をオープンした。これ以来、川崎・横浜を中心に、客単価4000円前後の焼鳥居酒屋の店舗展開を進めていった。現在国内店舗はすべて直営で、「ごう」以外の飲食店を含めて14店舗となっている。

 製造業と飲食業を同時に営むことの意義について、時吉氏はこう語る。

 「両方とも『商売』の感覚が重要だということですね。私が考える飲食店とは、お客さまがお帰りになるときに『感じの良いお店だったね』と思っていただくこと」。

 そこで、同社では各店舗の店長や焼き師に裁量権を与えている。「お客さまに喜んでいただくことを、どんどんおやりなさい」ということだ。そして、主力商品である「焼鳥」においては、焼き師のエキスパートが1人いて、焼き師の仕事ぶり全体を見ている。

 今日、中途採用で飲食業に入社するという場合、基本的にみな、経験者である。飲食業とは「お客さまに喜んでいただく仕事」であることを心得ていて、これを全うすることに「自己実現」を感じている人が多い。

 ちなみに、同社では韓国に現地法人を、2013年に設立。繁華街のソウル・梨泰院(イテウォン)を中心に、直営2店舗、FC12店舗を展開している。これについて時吉氏は、「日本の製造業が、海外に進出していることから、飲食業も当然の展開と考えている」という。

 これも製造業と飲食業を同時に営んでいることから身に付いた、バランス感覚といえるのではないか。

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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