海外通信 外食ビジネスの新発想(98)日系オーナーの抹茶ブランド 産地再生で抹茶の価値を再発信
●抹茶文化を日本に逆輸入 SNS起点で人気拡大の潮流
北米を中心に抹茶需要が急拡大する中、日本の抹茶産業は構造的な転換点を迎えている。海外においてTikTokやインスタグラムを起点に抹茶ラテなど日常飲料への利用が広がり、高品質抹茶への需要は従来の想定を大きく上回った。一方で、生産現場では供給が需要の伸びに追いつかず、産地の持続性そのものが問われている。抹茶は被覆栽培を必要とし、新植から収穫まで最低でも5年を要する。生産者の多くは小規模な家族経営で高齢化が進み、畑の荒廃や作り手不足が深刻だ。さらに近年は海外需要の高まりを背景に、外国企業による生産・流通への関与も一部で見られ、産地の主体性をどう守るかが新たな課題として浮上している。
こうした状況下で注目されるのが、抹茶ブランド「ネコハマ」の取り組みだ。オーナーの一人、安藤マキシミリアン氏は、日本で約100年続く米穀製造業の一家をルーツに持つ。現在は特定の海外拠点に依存せず、日本と海外を行き来しながら事業を展開。「畑も、そこで育つ抹茶も、日本人の手で守り継いでいく」という姿勢を明確にし、「日本人の手で守り育てる」をブランドの軸に据えている。
ネコハマは静岡県内の荒廃した煎茶畑を買い取り、有機栽培にこだわりながらてん茶畑として再生するプロジェクトを進めている。雑草に覆われた休耕地の整備から、土壌改良、苗の植え付け、被覆設備の準備まで、オーナー自らが手入れする長期的な取り組みだ。同時に、地元の若者が農業に関わる機会づくりにも力を入れ、担い手不足への対応を試みている。同社の特徴は、こうした産地再生の過程をSNSで可視化している点にある。完成品だけでなく、畑の再生や日々の農作業の様子を発信することで、消費と生産を切り離さずに伝えている。
またネコハマは、抹茶の価値を広げるため業界横断型のコラボレーションを積極的に展開。ユニクロ、パリの老舗ベーカリー「ポワラン」、ラグジュアリーブランド「ミュウミュウ」に加え、信州松本の温泉旅館「扉温泉明神館」とも提携し、湯治療、ウェルビーイング、マインドフルネスという文脈で抹茶を提案している。抹茶を飲料にとどめず、心身を整える体験として再定義する試みだ。
安藤氏が着目するのは、抹茶文化における日米の若者の意識差である。米国の若者にとって抹茶はすっかり日常的で気軽な存在となったが、日本ではむしろ敷居が高いと感じられがちだという。ネコハマの日本文化を慈しみ、抹茶を楽しむことから始めるというシンプルな逆発想の提案には気づかされることが多い。
日、米、ヨーロッパに家族のルーツを持つオーナー一家のグローバルなアクセスを生かしつつ、丁寧なものづくりを軸に、海外の熱量を国内に還流させる。ネコハマの試みは、抹茶産業と農家ビジネスの新たな可能性を示している。
(井澤歩)












