海外通信 外食ビジネスの新発想(100)塩パン、NYで行列 日本発日常パンに注目
ニューヨークで日本発祥の塩パンが注目を集めている。象徴的な存在が、2025年末にオープンした専門店「ジャスティンズ・ソルトブレッド」だ。開店から間もないにもかかわらず連日行列が絶えない人気店で、店内にはイートインスペースも設けられている。中でも印象的なのが畳を敷いた小上がりのエリアだ。靴を脱いで畳の上に座り、焼きたてのパンとコーヒーを楽しむ若いニューヨーカーの姿は、マンハッタンのベーカリーとしては新鮮な光景となっている。
メニューは潔く塩パン1種類のみ。バターをたっぷりと練り込んだ細長いパンは、どことなくクロワッサンを思わせる形状で、外側は香ばしく中はしっとりと軽い食感だ。10分おきに焼き上がる焼きたての塩パン3個に、ディッピングクリーム(プレーン、抹茶、またはチョコレート)が付いて12ドル。ドリンクはバニラシロップでほのかな甘みを加え、仕上げにヒマラヤ塩を振りかけた「塩コーヒー」と「塩抹茶」(各6.50$)が人気だ。同店の紙袋には「塩パンの旅」と題したストーリーが印刷されている。そこでは塩パンの起源が、日本の小さなベーカリーにあることが紹介されている。
愛媛県のベーカリー「パン・メゾン」で考案された塩パンは、香ばしい皮と軟らかなバター風味、そしてわずかな塩味が調和したシンプルなロールパンとして誕生した。やがてその人気は日本全国へ広がり、さらに韓国へ渡ると塩パンは独自の進化を遂げる。韓国のベーカリーは層の食感やバターの風味をより強調し、行列ができる商品として広く知られるようになった。そして今、その流れがニューヨークに到達したという物語だ。
ニューヨークのベーカリー市場では長年、クロワッサンやブリオッシュなどバターを多用したリッチな商品が主流だった。しかし近年、それらは「特別な日のパン」という位置付けが強まり、日常的には重いと感じる消費者も増えている。塩パンはバターのコクを持ちながら甘さを抑え、塩味で味を引き締めることで軽さを生み出す。成熟した市場の中で、こうした引き算の味わいが新鮮に受け止められている。
近年のニューヨークでは高価格帯の外食や体験型ダイニングが一巡し、消費者の関心は再び日常的に楽しめる食品へと向かいつつある。塩パンの人気は、こうした消費志向の変化と、日本で磨かれてきたシンプルなベーカリー商品の完成度が重なった結果とも言える。
派手な流行ではなく日常食として育まれてきた日本のパン文化が、海外市場でも静かに存在感を高めているのだ。
(井澤歩)














