日本人に愛される「そば屋のラーメン」

2025.06.02 556号 08面
「ラーメン」900円(税込み) すべての日本人のDNAに響きそうな王道の醤油ラーメン

「ラーメン」900円(税込み) すべての日本人のDNAに響きそうな王道の醤油ラーメン

老舗そば店のたたずまいがそのまま色濃く残っているのが味わい深い

老舗そば店のたたずまいがそのまま色濃く残っているのが味わい深い

一番人気は「チョイパリ(少しかため)、チョイカラ(少しからめ)」

一番人気は「チョイパリ(少しかため)、チョイカラ(少しからめ)」

麺がとにかく特徴的だ。あっさりとしたスープがよく絡むちぢれ麺で、ラーメン専門店の中華麺とは異なる独特の硬さと味わいがある

麺がとにかく特徴的だ。あっさりとしたスープがよく絡むちぢれ麺で、ラーメン専門店の中華麺とは異なる独特の硬さと味わいがある

店の製麺機で生地を強く締め込み、しっかりと乾燥させることでかなり硬く、手で触るとカチカチの仕上がりだ。そのため、お客の好みに合わせて硬さも何と9段階で注文できる。また、スープの濃さも4段階ある

店の製麺機で生地を強く締め込み、しっかりと乾燥させることでかなり硬く、手で触るとカチカチの仕上がりだ。そのため、お客の好みに合わせて硬さも何と9段階で注文できる。また、スープの濃さも4段階ある

「煮干しラーメン」590円(税込み)

「煮干しラーメン」590円(税込み)

人気のミニカレーとのセット提案がリピート客に響いた。(期間限定セットにつき現在は販売終了)

人気のミニカレーとのセット提案がリピート客に響いた。(期間限定セットにつき現在は販売終了)

 昔ながらの町のそば屋で、1~2品だけラーメンをメニューに置いている店をたまに見かける。そうした「そば屋のラーメン」は、あっさりとした鶏ガラ醤油ベースの“ザ・昭和ラーメン”といった懐かしさを感じさせるタイプが多い。しかし、そもそもなぜ日本そば屋なのにラーメンをラインアップしたのか。ラーメン専門店がひしめく現代にあってニーズはあるのか。「そば屋のラーメン」の魅力を探るべく2店を取材した。

 ◆あまりの人気ぶりにそば屋からラーメン店に転身

 1952年創業、平塚エリアを中心にかつては4店舗を展開し、地元に愛されてきた日本そば屋でありながらラーメン人気が爆発し、2023年1月にラーメン店に転身したのが「大黒庵本店」だ。同店がラーメンをメニューに取り入れたのは1965年頃。

 「日本そばを好むのはやはり年配者が多い。将来を見据えた時に、これからは若い人にも受け入れられるメニューが必要と考えてラーメンを出すことにした」(先代店主・高橋信一氏)と言う。

 同店のラーメンは一見するとまさに王道の“ザ・昭和ラーメン”だが、実は麺が独特だ。同店のそばは店の製麺機で作る自家製なのだが、ラーメンの麺もそばのつなぎに使う割粉を使い、製麺機で独自に作っている。「割粉で作った生地をロールで目いっぱい締め込み、2回に分けて乾燥させ、パリパリの硬い麺にしている」(同)と、一般的な中華麺とはまるで異なる手法で仕上げているのだ。それゆえ特有の硬さがあり、これがそば屋はもちろん、どのラーメン専門店にも見られない唯一無二の魅力となっている。そば用の割粉を使っているためか風味もどこか和風で食後感が軽く、するすると食べられる懐かしい味わいだ。

 スープはそば屋らしくあっさりとした味わいを目指し、煮干しとシジミでだしをとっているという。スープの味を完成させた先代店主の高橋氏は「実はラーメンはあまり好きではない(苦笑)」。それゆえ、そば屋ならではのアプローチで味作りをしているようで、スープの味わいも不思議とニッポン的だ。

 ラーメンを発売した約60年前はさほど人気がなく、注文数は全体の1割以下だったとか。それが12~13年前から口コミで評判が広がり、注文数も5割、7割とどんどん増え、9割に達した時、先代から3代目の店主に代替わりするタイミングで思い切ってラーメン店にリニューアルした。

 リニューアル後、同店を久しぶりに訪れたかつての常連が「60年前とまったく味が変わっていない。懐かしい!」と喜んでいたという同店のエピソードが物語っているように、そば屋のラーメンの魅力はやはり“ノスタルジー”なのかもしれない。

 ●店舗情報

 「大黒庵本店」

 神奈川県平塚市紅谷町4-21

 ◆「富士そば」のラーメン 人気上昇中のその理由

 立ち食いそばチェーンでもラーメンを提供している例は、実は意外とある。ダイタングループの「名代 富士そば」では1990年代後半からラーメンをメニュー展開。当時は価格400円台のシンプルな醤油ラーメンで、人気もそれほどではない地味な存在だったという。その後、ラーメンのリニューアルを図り、2019年2月に煮干しラーメンを発売。“人気商品”とまではいかないながらも、ファンが着実に増えていったという。

 そこで25年1月、注力メニューとして期間限定で煮干しラーメンのほか、昔ながらの醤油ラーメン、味噌ラーメンの3品にミニカレーを付けたセットメニューを大々的に提案した。この提案以降、“富士そばのラーメン”の認知度が一気に拡大し、人気が定着しつつある。

 「当店はそばにセットで付けるミニカレーの人気が高い。これをセットにしたことで、『たまには目先を変えてラーメンにしてみよう』と注文していただくきっかけになり、『富士そばにはラーメンもある』という認知拡大につながった」と、ダイタンキッチンの木村正志常務取締役は話す。飲んだ後と思われる“締めラーメン”のニーズもあり、深夜帯を含む夜の時間帯における注文数が多いという。

 同店のラーメンの魅力について木村氏は「専門店のラーメンほど本格的ではないが価格も500円台で安く、気軽に食べられる。良い意味で“それなりにおいしい”。安心感があるのではないか」と分析。さらに、「そばは調理時間4~5分で提供しているが、ラーメンは早いと約2分で提供できる。ラーメン専門店ではとてもマネできないほどスピーディーといえる。時間がないけどどうしてもラーメンが食べたい、というときも “それなりにおいしいラーメン”がさっと食べられるのも、ファンが広がっている一因では」と語っている。

 ●店舗情報

 「名代 富士そば」

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら