外食史に残したいロングセラー探訪(17)日本橋三越本店「お子様ランチ」

2008.04.07 340号 12面

 幼いころの楽しい思い出として、家族に見守られながら食べた「お子様ランチ」をあげる人も多いことだろう。現在では、ファミリーレストランはもちろん、さまざまな業種業態の店で子ども向けメニューが提供されているが、これらの元となったのが、昭和初期に日本橋三越本店の食堂部で生まれた「御子様洋食」だ。

 日本橋三越本店内、「カフェ&レストラン ランドマーク」の人気商品、「お子様ランチ」(840円)は、昭和の歴史とともに歩んできた超ロングセラーメニューである。その発祥は、1930年に同百貨店食堂部の主任安藤太郎氏によって考案された「御子様洋食」。

 ある食器メーカーから持ち込まれた、かわいらしい絵柄の入った皿を見た安藤氏は、「これを使って、子ども向けの楽しいメニューを作ろう」と思い立ったという。そして、スパゲティ、コロッケ、ハム、サンドイッチ、ボンボン、さらには富士山の形に成形されたご飯が1つのプレート上に盛り合わされた「御子様洋食」が誕生した。

 ケチャップライスで作られた富士山の頂上部には、雪が積もった様子に見立てた白いご飯が使われ、その上には、「お子様ランチ」の定番ともいえる小さな旗が立てられていた。

 当時の日本は、前年に起こった世界恐慌の影響で不況が続いていた時代。そんな暗い世相の中、せめて子どもには明るい夢のあるものをという安藤氏の願いは、日本一の富士山と、その上に立てられた旗という形で表現されたのである。その後、「子どもが好むものを1つのプレートに」という基本的なスタイルはそのままに、メニュー内容やプレートの形は、時代に合わせた変更が繰り返されている。

 同メニューが始まった当時、「御子様洋食」は30銭であり、現在の貨幣価値では1000~1200円ほど。現在、提供している「お子様ランチ」の価格と比べると、やや高級な1皿であったようだ。

 子どもたちの口に入るものだけに、使用する食材の安心安全はもちろんのこと、フライなどは揚げたての熱々のものではなく、ほんの少し冷ましてから出すといった細やかな心配りがされている。

 同店では、父母、あるいは祖父母の世代のお客が、自分が幼いころ食べた「お子様ランチ」の思い出話をしながら、子や孫と一緒に食事を楽しむ光景がしばしば見られるという。

 また、少量ずつ多くの品数が楽しめるとあり、年配客や女性客が同メニューを希望することも。その際には、お子様ランチ用プレートではなく、普通の皿に盛り付けて提供している。

 今やファミリー客を対象とした店舗では欠かすことのできない、子ども向けメニューの原型ともいえる「御子様洋食」。その伝統を受け継ぐ「お子様ランチ」は、これからも子どもたちの笑顔を生み続けていくことだろう。

 ◆プレートの変遷

 絵皿での提供で始まった同メニューであるが、時代に合わせて、さまざまなプレートが使われている。中には、陶器でできた新幹線やクラシックカー、UFO、スペースシャトルなど、当時の世相を反映しているようなプレートも。

 現在、使用しているプレートは汽車型で、ドライアイスを入れた煙突部分から、煙を出しながら提供する演出でも楽しませている。

 ●店舗データ

 日本橋三越本店「カフェ&レストラン ランドマーク」/店舗所在地=東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店 新館5F/百貨店内の食堂開設=1907年(「カフェ&レストラン ランドマーク」への名称変更=2000年)/営業時間=月~土 午前11時~午後8時(LO7時半)、日曜祝日・連休最終日 午前11時~午後7時半(LO7時)/坪数・席数=172坪・185席

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