外食史に残したいロングセラー探訪(26)赤坂 榮林「元祖榮林酸辣湯麺」

2009.02.02 353号 10面
「元祖榮林酸辣湯麺」

「元祖榮林酸辣湯麺」

 東京・赤坂にあった「料亭榮林(えいばやし)」が、ホテルオークラの創立者、大倉喜七郎氏のアドバイスによって「中国料理榮林(えいりん)」として新しく生まれ変わったのは1956年のこと。初代料理長の顧春生氏は数々の名物料理を生み出したが、酸味と辛みの絶妙な「酸辣湯麺」もその一つである。

 酸味と辛みの絶妙なバランスを味わえる「酸辣湯麺」が生まれたのは、実は中国ではなく、東京・赤坂にある榮林の厨房だ。

 「初代料理長の顧春生は無類の麺好きでした。まかないでもよく麺を食べていて、たまたま酸辣湯に麺を入れてみたところ好評だったため、すぐに商品化したと聞いています」と語るのは、4代目料理長の溝口和久氏。溝口氏が同店で働き始めた1970年にはすでに商品化されていたという。

 まかない食として誕生した「元祖榮林酸辣湯麺」(スーラータンメン)だが、すぐに人気商品となったわけではなく、当初は1日の出数がわずか1~2食といった程度だった。

 しかし、卵をふわっとしたなめらかな食感にするために、水溶き片栗の止め方、卵を入れるタイミング、火を止めるタイミングなどを追求した結果、徐々にファンが増えていき、20年前ごろにはランチタイムの注文の約1割、そして15年前ごろからは8割以上のお客が注文をするという榮林の名物料理へと成長した。

 具はスープの「酸辣湯」と少々異なっており、麺との相性を考えて、豚肉、鶏肉、ハム、タケノコ、椎茸、サヤインゲン、干絲(ガンスー)が使われている。麺は細麺で、ふわふわの卵が絡みやすい。醤油ベースのスープに加えるさわやかな酸味と心地よい辛みのバランスは、酢3対ラー油1の割合。

 「コショウを効かせた酸辣湯麺を出しているお店もあるようですが、うちの味はあくまでもラー油の辛さです」と溝口氏。「サンラータン」ではなく、「スーラータン」という同店独特のメニュー名は「酢とラー油だからスーラータン」という昔からの呼び方のままだ。

 独特の酸っぱ辛さに病みつきとなり、「本当は酢は嫌いだけど、この店のスーラータンメンは好き」と、週2~3回のペースで通う常連客もいるという。ランチタイムは酸辣湯麺を目当てに来店するお客が大半で、約100席が3回転以上する人気ぶりだ。

 経営する(株)榮林の關口和宏社長は、「技術が必要なので多店舗展開は難しいが、いずれは『元祖榮林酸辣湯麺』の専門店を出店したい」と意気込んでいる。

 ●店舗データ

 「赤坂 榮林」/経営=(株)榮林/店舗所在地=東京都港区赤坂3-16-2/開業=1956年3月/営業時間=午前11時半~午後11時(LO10時)、(土・祝)~午後10時(LO9時)※休憩時間有り/定休日=日曜/坪数・席数=88坪・100席/客単価=(昼)1400円、(夜)4000円(個室1万1000円)/1日来店客数=240組/平均月商=1400万円

 ●愛用食材:ブレンド酢と自家製ラー油

 酸味を出すために欠かせない「酢」は、一般的な醸造酢と京都の醸造メーカーから取り寄せた酢を2対1の割合でブレンドして使用している。京都産の酢はむせ返ることのない、まろやかな香りが特徴だ。酢の利き具合は、季節や天候によって違うため、毎日微調整が欠かせないという。また、1度栓を開けたものはきちんと蓋をしておいても、風味が抜けていってしまうので、その程度も見極めてブレンドしなければいけないと溝口氏。一方、辛みを出す「ラー油」は、大豆白絞油と一味を使った自家製のもの。

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