トップインタビュー:サイゼリヤ・堀埜一成代表取締役社長<上>

2009.07.06 359号 19面

 チェーン・レストラン最大手の(株)サイゼリヤは、4月にトップが交代した。新社長に就任したのは「生え抜き」ではなく、(株)味の素出身の堀埜一成氏。本紙ではこれまで「八百八町」「WDI」と外食産業の礎を築いてきた企業の二代目トップを取材してきたが、サイゼリヤの交代は日本の外食産業が新しい時代に入ったことを象徴する出来事だ。低迷する日本経済、そしてチェーンストア業態をどう見て、どう動くのか。堀埜新社長への取材を2回連続で掲載する。(文責=さとう木誉)

 –創業者である正垣泰彦氏(現会長)から、4月に堀埜社長に引き継がれたばかりです。新体制になって、どのようなことに取り組んでいくのでしょうか。

 堀埜 初代社長が創業者で、続く僕が最初のサラリーマン社長となります。一代で会社がここまで大きくなったということは、初代社長の理念や方向性が正しかったということ。だから僕がやるべきことは、理念や方向性を変えるのではなく、より揺るぎないものに補強していくことです。

 特に重点をおいているのは「生産管理技術」をいかに導入していくか。

 –飲食業でいう「生産管理技術」とは、どのようなものでしょうか。

 堀埜 例えば当社には「工場」と「カミッサリー」に区別される2種の食品工場があるのですが、まだまだ生産性を上げることができます。人海戦術で作っている部分が多いし、材料ロスももっと減らせます。

 僕は食品メーカー出身で工場勤めが長かったのですが、そのころから「改善は無限」という考えを徹底的に身に付けてきています。いかに生産性を上げるか、効率的にできるか、機械に置き換えていくか、コストを下げるか、品質を高めるか。そのための「技術」を開発し導入しつづけていきます。

 –飲食業でいう「機械化」「効率化」などはむしろ品質の低下を連想させますが…。

 堀埜 それは実際とかけはなれた古い考え方です。例えば、当社の野菜は庫内の温度を野菜が休眠する4度Cに保ったトラックを畑につけて、収穫からカミッサリーそしてお店まで同じ温度で流通しています。一般の小売商店や飲食店などでは、そこまで厳しく鮮度管理できないですよね。

 また、当社の代表的な商品のひとつ「ミラノ風ドリア」などに使うホワイトソースはオーストラリアの自社工場で作っています。これほど乳脂肪率が高く、それでいて味にキレがあってしつこくないソースを日本で作ろうとすると、299円なんて価格ではぜったい提供できません。原価を抑えようとしたら植物油脂入れることになって質が落ちてしまうでしょう。だからわざわざオーストラリアに工場を作りました。

 ほんの一例にすぎませんが、生産性、コスト、品質のすべてのレベルを上げることは可能です。そのために慣れ親しんだ古い技術を根本から見直し、変えていくことが「生産管理技術」なのです。

 –メニュー開発について、サイゼリヤの基本方針をお聞かせください。

 堀埜 結論から言えば、メニューは替わらない方がいいな、と。一時期、いろいろテストしてみたのですが、至った結論は「替えない方がいい」。今、年4回グランドメニューの更新をしてはいるんですが、そのくらいのペースでメニューを切り替えないとボロボロになってしまっているからなんです。切り替えるついでにデザインを変えたり、内容に少し手を入れたりする程度。

 じゃあ、何もしていないかというとそうではありません。見かけは変わらないけど、中をどう変えていくか。レシピを変更したり、品質を上げてコストを下げていく努力は絶えずしています。売れるものを、よりおいしくより安くした方がお客さまに喜ばれていると実感しています。

 –意外な答えです。その理由は?

 堀埜 2つあります。1つは、新しいおいしさを提供しようと新メニューの開発をしていくと、品質が大きくブレてしまう。ものすごくおいしいメニューができたり、反対においしくないメニューができたり。そういうことが、お客さまの信頼を損ねることにつながることが少なくない。料理のブレをなくしていく方が、実はお客さまにとっていいのです。

 もう1つは、チェーンストアである以上、すべての店舗で提供可能なものでなければならない。例えば、特別においしいブランド肉を出して一時的にヒットしたとしても、安定して提供できなければ、お客さまに迷惑をかけるだけです。常に供給できるもの(ひき肉と粉〈穀物〉と葉物野菜とミルク)からできるメニューであることが、必然になっていきます。

 –消費者の多様化という考え方とは真逆の発想ですね。

 堀埜 何のためにメニューを替えなくちゃいけないのか、ということを突き詰めて考えなければいけません。よく「お客さまは飽きやすい」といわれますが、本当にそうなのかな、と。もともと出している商品の方がおかしいから飽きられてしまうのです。当社のメニューには、30年替わることなく提供されている商品が多くあります。

 なんとなく時代が変わるとモノが変わるという錯覚に陥って、流行や売上げを追いかけて、結果的に自分の首を絞めている例が後を絶ちませんよね。大多数の人たちは当たり前の食材を当たり前に調理したもの、栄養価が高くて素材の新鮮なものを食べられれば十分だと考えていると思います。ここ数十年の食の歴史でも売れているものは、ずっと売れていますから。冷静に見ていくと。

 (次号に続く)

 ◆プロフィール

 ほりの・いっせい=1957年富山県出身。京都大学大学院農学研究科を修了後、味の素(株)入社。「飲食業と農業を産業として成立させたい」という正垣氏の熱意に共鳴し、2000年(株)サイゼリヤ入社。サイゼリヤオーストラリア代表取締役、サイゼリヤ取締役エンジニアリング部長などを経て、2009年4月に新社長に就任する。

 ◆企業メモ

 (株)サイゼリヤ(本社所在地=埼玉県吉川市旭2-5)設立=1973年5月/資本金=86億1250万円/従業員数=正社員1481人・準社員5998人(※2008年8月期)/店舗=769店舗(2008年8月期)/公式サイト=http://www.saizeriya.co.jp/

 ◆事業内容

 「日本を真に豊かな国にするお手伝いをする」を企業理念とし、圧倒的な低価格で高品質なイタリア料理を提供するイタリアン・チェーン・レストラン「サイゼリヤ」を展開。1973年に創業者、正垣泰彦氏(現会長)が経営する個人店舗を法人化し、チェーン展開を開始。現在は九州、四国を除く各地に769店舗を展開。2000年に東証1部上場。03年、中国・上海に海外1号店をオープン。福島県、神奈川県、埼玉県、兵庫県、そしてオーストラリアにカミッサリー、工場をもつ。

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