アポなし!新業態チェック(38)「楽釜製麺所」新宿西口直売店
「東方見聞録」「月の雫」など、居酒屋ブランドの展開で知られる三光マーケティングフーズは、昨年からアルコールを軸とせずファミリー層などを狙えるファストフード業態の展開として、うどん事業をスタートさせた。その1号店として新宿西口にオープンしたのが「楽釜製麺所」新宿西口直売店である。
新宿駅の西口、繁華な商業エリアの中心近くに位置する路面店で、周囲には同社の居酒屋業態が取り囲むように出店している。店舗内で粉から製造し、打ちたて、ゆでたてという自家製麺うどんを、トッピングの天ぷらやおにぎり、いなり寿司などとともにカウンターで注文する、セルフ方式のうどん店である。
営業時間は朝7時半から夜の11時まで。主なメニューは「釜揚げうどん」(並280円、大380円)、「釜玉うどん」(並330円、大430円)、「牛すじ肉うどん」(並380円、大480円)など。店舗は和風を基調としたシンプルなデザインだが、同社が得意とする手書き風のロゴマークやメニューデザインなど、居酒屋で培った店づくりのノウハウが生かされている。また、CSR活動の一環として、CO2削減を目的とした同社では初の試みであるというLED照明も使用して、「環境にやさしい店づくり」を目指している。
アルコール業態を離れ、事業展開に幅を持たせるという同社の「新たな成長機会」として位置づけられた店だが、この1号店出店後、新宿センタービル、江戸川区瑞江や大宮など、すでに都内近郊に同ブランドを数店舗オープンしており、チェーン化のために同社がこの業態にかける意気込みが感じられる。
★けんじの評価
昨年、この不況を背景に話題を呼んだ「300円居酒屋」。その後の差別化で「290円」「280円」「270円」と、200円台に突入した低価格居酒屋戦争はとどまるところを知らない。三光マーケティングフーズの「金の蔵ジュニア」は全品270円、いわゆる「270円居酒屋」の業態だ。昨年の後半、この「金の蔵ジュニア」は怒とうのような出店攻勢をかけている。
その同社が、主軸のアルコール業態に見切りをつけ、ファストフードの展開を目指す新事業をスタートさせた理由は、この低価格戦争にこそあるのではないか。マーケット自体の先が見えない居酒屋業界における消耗戦を戦うのであれば、むしろ新事業としてノンアルコール業態の市場に打って出よう、というのが、うどん事業展開の背景ではないかと思う。
同社のサイトによれば、同店の「オープン日は1000食を用意」したが、「夜には売り切れ」たとのこと。10月末の1号店から、年内に4店舗の出店という経緯を見れば、少なくとも、その選択は間違いではなかったのだろう。
すでに定番化した「セルフうどん」業態のスタイルを踏襲してはいるが、同店の完成度はかなり高い。特に同社が得意とするのは、グラフィックデザインでの雰囲気の出し方。コストをかけずにブランドイメージを明確に打ち出す手法は以前から注目していたが、今回もそのテクニックが十分に生かされている。
以前ならば、こうした業態開発には「まね」だとの的外れな批判もあったものだが、最近は外食業界もマーケティングの意識が浸透したようだ。あとは店舗開発力の勝負。「セルフうどん戦争」は、また新たな段階に突入した。
(外食ジャーナリスト 鷲見けんじ)
◆店舗概要
店名=「楽釜製麺所」新宿西口直売店/開業=2009年10月29日/所在地=新宿区西新宿1-12-6 新宿月光荘ビル1F/席数=39席
●鷲見けんじ=外食チェーン黎明期から、FFやFRなどの動向を消費者の目線で見続けてきたアンチグルメな庶民派ジャーナリスト。甘口辛口を取り混ぜた乱筆乱文でチェーンの新業態をチェック。