進化する人気定番!海外ラーメン最前線:世界に羽ばたく味千ラーメン 重光産業・重光克昭代表取締役
豚骨ラーメンで世界を股にかける「味千ラーメン」は、アジアを中心に約860店を展開。15年には中国だけで1000店を突破する勢いで、いまや外資16社とFC提携し世界13ヵ国に営業拠点を築いている。一方、国内店舗数は地元、熊本県内を主力に102店舗。十数年前までローカルチェーンの一角に過ぎなかった味千ラーメンが、なぜグローバル化を突き進めたのか。2代目社長の重光克昭社長を直撃した。
●千載一遇のうねりを自然体で享受 中国は次世代の戦いに
–海外進出の狙いは?
重光 狙ったというより成り行きですね。国内100店舗に迫った1994年、食材調達の安定化を見据えてアジアに着目。拠点作りに先駆けて台湾に味千ラーメンを出店したんです。ところが大失敗。異国の食文化を全く理解してなかったんです。
出直しを考えていた矢先、香港の実業家から誘致されました。その実業家は、豚骨ラーメンの将来性を買っていて、日本のラーメンチェーン数社にアプローチしていたのですが、「海外経験がない」という理由で、全て断られたそうです。で、台湾で味千を目にして当社に来たわけです。その出会いが今日の原点です。
–展開はトントン拍子?
重光 いやいや。台湾に続き北京も失敗。香港で軌道に乗せるのも大変でしたよ。多くの失敗を重ねて、食文化と商習慣の違いを理解してきたつもりです。断言できるのは、「現地にまかせるのが早くて正解」ということ。もちろん信頼関係の構築が前提ですが。
–でも、多出店はすさまじい。
重光 たまたまタイミングがよかっただけ。とにかく北京オリンピックと上海万博の勢いはすごかった。あのような千載一遇のうねりを経験できたことは、当社にとって非常にラッキーでした。これからが勝負ですよ。
–中国でのFC規約は?
重光 味千ラーメンのレシピ、スープなど主力食材の供給は絶対に譲りません。でもそれ以外は臨機応変に、メニュー開発や食材仕入れ、従業員教育や店舗設計は、その土地に合ったやり方で任せてます。成熟している日本の成功事例を、いま押しつけてもだめ。正直、日本の腰を据えた定石では、現地のスピードについていけません。本部は懐を深く持ち、現地が困った時に改善を促す程度でよいのです。
–では、黙ってみている?
重光 そうもいきません。もう次世代の競合が始まっているんです。ステップアップのタイミングをどのように演出するか。先手先手の必勝策が必要です。15年中に中国味千は1000店を突破します。それを機に接客サービスや品質の均一化など、基本的な部分を見直せるよう、準備している段階です。接客サービスと品質は外食経営の両輪。そのブラッシュアップは欠かせません。日本の外食史と同じように、基本の繰り返し繰り返しでレベルアップするしかありません。
–中国のラーメン嗜好は?
重光 伝統的に動物系のスープに慣れ親しんでいるので、豚骨系は合います。醤油系、魚介系は苦手、まだ早いですね。飯店の麺類のように料理をのせた、ごちそう感のあるラーメンも人気です。日本人は「ラーメン道」という職人気質で、基本の奥行きを尊重しますが、中国は「食べておいしい」とか「腹いっぱいで満足」という合理的な質実感を好みます。中国に限らず、他の国も同じですね。
–今後の展開は?
重光 一番期待しているのは従業員を通じた国際交流。アルバイトを含め各国に優秀な人材が大勢いますからね。味千のアルバイトを通じて留学を試みてもよし、当社に入社して世界を目指すのもよし。ラーメンに限らず、味千のスタッフが国際交流にひと役買う可能性は大いにあります。その国際経験の一助になれればと思ってます。
3年前、味千の旗を掲げて富士山に登ったんです。すると頂上で海外在住の方から「オーッ、アジセーン」と声をかけられまして。本当にうれしかったですね。偶然とはいえ、何か海外事業に神懸かり的な使命を感じました。
–今後のご活躍に期待します。
●プロフィール
重光克昭(しげみつ・かつあき) 1968年熊本市生まれ。幼少から野球一筋で大学では主将を務める。熊本工業大学(現・崇城大学)卒業後、重光産業に入社。店舗現場と出向修業を経て98年、創業者で実父の孝治氏から経営を引き継ぐ。現在、崇城大学の客員教授も務める。
●重光産業(株)
本社所在地=熊本市戸島町920-9/年商=22億0600万円(2011年6月期)/店舗数(3月末現在)=国内102店舗、海外760店舗/沿革=1968年業務用向けに生麺とスープの製造販売を開始。72年「味千ラーメン」をチェーン化。94年台湾に海外1号店を出店。2007年中国味千が香港市場に上場。