ニューヨーク通信 外食ビジネスの新発想(98)Yakiniku West NYの人気焼肉店連日盛況
◆「安い」「うまい」「雰囲気がいい」揃った3拍子
ニューヨークにも日本の焼肉店が進出し、地元の人気店となっているが、その中でも特に人気の店が、イーストビレッジにある「Yakiniku West(焼肉ウエスト)」だ。同店は、福岡に拠点を持つイーストというレストラン・グループがアメリカに展開した店の一つで、元社員であった河野康友さんが2008年に買い取って、経営している。常に満席、予約を取らないとなかなか座れない。開店して18年、続く人気の秘密は、いったい何なのか、オーナーの河野さんに聞いてみた。(外海君子)
●日本の焼肉体験を求めて連日超満員!
ドアを開けて中に入ると、ニューヨークの街から打って変わって純和式の世界が広がる。靴を脱ぎ、銭湯にあるような下駄箱に入れて、上がる仕組み。民家風の木造りのインテリアに、掘りごたつ式の客席。同店は、マンハッタンに居ながらにして日本の焼肉体験ができるという、日本人だけでなく、地元アメリカ人にもうれしい存在だ。いつ行っても超満員ということで名が知れている。
●NYならではの困難を克服
これほどの人気ならば、さぞかし経営は左うちわかと思いきや、ニューヨークで焼肉店を営むということはなかなか大変なことのようだ。何しろ、焼肉店を営むには設備とスペースがいる。ニューヨークは、家賃がべらぼうに高い。客席にもコンロや排気の空調をそろえなければならないことから、初期投資が非常にかかる。しかも、いろいろな法的な規制があり、客が実際に火を使うことから消防法も大いに関わってくる。そのため、コンロから天井までのスペースなどいろいろ規制があるし、また七輪は禁止。諸条件をクリアして開店にこぎつけても、毎月、検査が入る。
焼肉にはアルコールが付き物だが、アメリカでは未成年の飲酒に対する取り締まりが厳しく、身分証明書の提示は必須だ。21歳未満の客にアルコールを飲ませたことになると、店主は罰せられる。河野さん自身も、法廷に出廷し、6000$の罰金を徴収されたことから、団体客の中に一人でも未成年者がいれば、酒は出さないという。
これだけのハードルをクリアしても、アメリカには焼肉文化がない。アメリカ人は、各々がセットメニューを注文し、それぞれ自分の食べたものを責任をもって支払うというのが大体のパターンだ。しかし、アジア人は、同じ釜の仲間という食文化に慣れている。特に、韓国人は誰が払うのかということで、口論をし合うというパターンが見られる。
客の半分がアジア系。そのうち、日本人、韓国人が各2割、中国人が6割という分布だ。
また、注文するものも、日本人は内臓系を好むが、アメリカ人は肉そのものを好む。肉食文化にいる人々は、肉そのものを食べ、肉以外のものは廃棄してきた。そのため、肉食文化にありながら、アメリカでは焼肉店の食材を調達するのが難しいというパラドックスが起こる。アメリカで焼肉店を開くということは、どうやらラーメン店を開くよりも大変らしいことが分かってくる。
●「値段」「質」「雰囲気」トータルなウリで集客
アメリカの食料は、確実に値上がりしているが、肉の値段が倍になり、人件費が上がっても、なかなか値段を上げることはできないつらさがある。同店では、肉は5社から買い、よいものをより安く仕入れる努力をしているという。11$95¢の上カルビも、プライムリブを使い、ユッケもフィレミニヨンをさばいている。よい肉をリーズナブルに提供しないと、客が付いてこない。特にイーストビレッジは、学生など若い人が多いところなので、価格は抑えねばならない。客層がネクタイを締めたビジネスマンというミッドタウンのビジネス街では、同じメニューが倍に跳ね上がる。
同店は、「値段」「質」「雰囲気」とトータルでウリを図っている。その努力が実って、連日、大勢の客が詰めかけている。予約は、1ヵ月前から受け付けている。
◆人気メニュー5
「神戸特上カルビ」(15$95¢)
「和州牛神戸カルビ」(21$95¢)
「肉と海鮮の盛り合わせ 二人前(Surf & Turf for Two)」(75$)
「6種類お肉盛り合わせ 二人前(Zei for Two)」(70$)
「レバ刺し(Liver Sashimi)」(7$95¢)
●事業データ
焼肉ウエスト(Yakiniku West)/所在地=218 East 9th Street, New York NY/開業年=1997年/営業時間=日~木 午後5時~11時、金土 午後5時~翌午前3時/平均客単価=35~40$/席数=70席