地域ルポ 大宮西口地区、変ぼう続ける北の玄関口
埼玉県の大宮は県庁所在地ではないが、県の第一都市としての風格と賑わいをみせている。同県の県庁所在地は浦和だが、街の広がりと商業集積の大きさを比べても、はるかに大宮に軍配が上がる。第一、大宮には東北、上越の2線の新幹線が止まるが、浦和は県庁所在地でありながら止まらない。これだけをみても、大宮の都市の大きさを理解することができる。
JR大宮駅に降り立つ。改札口を出ると、そこは広い通路になっている。東口、西口を結ぶコンコースで、四階建の駅ビルにはルミネが入居し、衣料、雑貨、飲食など商業ゾーンを形成している。大宮は一日の乗降者数四五万人。首都圏でも有数の乗降者数で、東日本の北の玄関口と形容されるゆえんだ。西口は再開発事業で大きく変ぼうしたところで、新幹線の改札口を左に見て外に出ると、そこはベディストリアンデッキになっていて、ソニックシティやそごうデパート、丸井、さらにはこの6月30日にグランドオープンのアルシエが目に入る。大宮西口は二一世紀に向けて再開発事業が進行中で、これに触発され小売店舗の集積も大きく高まってきている。
大宮駅西口地区の再開発事業は、埼玉県中枢都市圏の都心地区として、高次都市機能施設の立地を誘導し、商業・業務・文化機能の拠点を形成することを目的に推進されているもので、東口の商業系土地利用と相互に補完し合うものだという(大宮市都市計画部都市計画課)。
東口は江戸時代は中山道の宿場町、また氷川神社の門前町として栄え、昭和の五〇年代に入っては商業集積が加速して、大宮の顔としての発展をみせてきている。
現在も街の成長は著しく、駅前通りを軸にして銀座通り、南銀座通り、すずらん通り、中山道通りなどに沿って店舗が出店しているほか、高島屋や西武百貨店を核施設として、大きな賑わいをみせている。
西口の再開発事業は東口とのバランスを取るためにも具体化されてきているものだが、昭和57年9月にダイエーと丸井の進出、同62年3月そごうデパート、63年ソニックシティなど大型施設が完成したことによって、西口のイメージが大きく変わり、来街動機を高めることになった。
これら大型施設が完成する以前の西口地区は、駅前から西に伸びる三橋中央通りと西口一番街通り、工機部前通りに低層の店舗が軒を連らねていたくらいで、東口と比べるとはるかに地味な存在にあった。
これが現在では東口地区同様の賑わいと来街者があり、西口の再開発事業は見事に地域を活性化させている。
西口の再開発事業は桜木町一、二丁目、錦町地区で進められてきたものだが、今後はそごうの裏手(第四地区)や国道一七号線沿いの鐘塚地区、旧国道一六号線の北側(第五地区)で具体化される予定で、現在基盤整備が進められている。
西口のペディストリアンデッキ(ペディデッキ)に立って周辺を眺める。西口のメーンストリートである三橋中央通りが、駅前のバスターミナルから国道一七号線まで伸びており、いかにも都心の道路という近代的なイメージをアピールしている。
この道路の南側、ペディデッキにリンクしてそごう百貨店が建っている。その手前のビルにはマクドナルドやケンタッキーフライドチキンの派手な看板も見える。
正面の総ガラス張りのビルはこの6月30日にオープンしたばかりのアルシエだ。このビルの右側は丸井、ダイエーが出店する大型の商業ビル(DOM)で、これらビルや店舗にはすべてペディストリアンデッキからアプローチすることができる。
ペディデッキの下は、バスターミナルやタクシー乗り場になっているわけだが歩行している人は少ない。人は必然的に駅のコンコースとつながっているペディデッキを歩くことになって、そこから各施設(店舗)にアプローチすることになるわけだ。三橋中央通り北側に面しているソニックシティも、このペディデッキと接続している。
西口地区の飲食店舗は路面店の集積はまだ小さい。そごうデパートの南側や、上越新幹線の高架沿いの小さなビルにファストフード、ラーメン店、居酒屋、中国料理、ステーキレストランなどが点在しているが、マスとしての存在にはない。
しかし、今後の再開発事業(第四地区=桜木一丁目)では、この地区は商業・娯楽・飲食・ホテルなどサービスゾーンとしての土地利用が考えられているので、将来的には面の広がりとともにボリュームの蓄積が期待されるエリアだ。
すでにそういったベースはできている。ハンバーガーチェーンのマクドナルドやケンタッキーフライドチキンなどの出店は、その代表的なものだが、KFCが出店(二階)しているホームリイ5(商業ビル)には地下一階にパチンパーラ、一階刺身居酒屋の海鮮問屋、三階同、四階シェーキーズ(ピザチェーン)、五階王将(とり焼・ロバタ焼)、六階いろはにほへと(アンティック・パブレストラン)などが入居しており、独自の賑わいをみせている。
このビルとそごうの間の細い道路に沿って物販、飲食店などがメーンになって、商業ゾーンが形成されつつあるわけだが、すでにレジャーホテルなどの施設も建っており、再開発事業のコンセプトに沿って、地域の“市街地化”が進んできている。
同地区は南側には低層の民家や空地があり、ビル化によって商業施設の集積が一段と進む余地を残しているわけだ。
「具体的に何を建てるかというのはまだ決まっているわけではありませんが、地域のまちづくりアンケート調査によりますと、街路の整備、駐車場・駐輪場の整備をベースに、居住・文化・交通・業務機能などの充実を望む声が強いようです。
ですから、今後の第四地区の再開発事業は、こういった考えを踏まえてのプランづくりが具体化されてくると思います」(大宮市事業局西口開発部)。
西口地区の飲食店舗は路面店の集積はこれからだが、前記の大型商業施設にはすべて飲食店が入居しており、独自の集客力を発揮している。
そごうデパートには九階に名店食堂街があり、京料理・しゃぶしゃぶ「京都・美濃吉」、天ぷら「銀座・天一」、かに料理「さっぽろ・氷雪の門」、うなぎ「つきじ・宮川本廛」、レストラン「紅茶」、ステーキ神戸「三田屋本店」など一七店が出店している。
クオリティのある飲食店舗で集客力を高めていこうという狙いであるわけだが、これら名店街のほかにもそごうは、一三階にスカイレストラン・中国料理「翠苑」、一階~三階の専門店街にハンバーガーの森永ラブやファミリーレストランの不二家レストランなどを展開している。
三田屋本店は神戸、大阪を地盤勢力とするステーキレストランで、質の高い店として知られている。関東地区は自由ケ丘、池袋、大宮の三店のみだが、各店とも三田牛のステーキと無農薬の食材、それに三田青磁の食器とピアノや笛の生演奏をワンセットにしている点は変わらない。
大宮店は店舗面積約七〇坪、客席数七七席。オープンして八年になるが、日中はショッピング目当ての女性客、夜は会社関係やカップルなどで、固定客六割をつかんでいる。
主力メニューは、自家製生ハムオードブル、スープ、サラダ、ステーキ、ごはん、お新香、デザートがセットになったステーキランチ一四八〇円、ロースステーキ二四〇〇円、ヒレステーキ五三〇〇円、旬の前菜つきステーキ八五〇〇円など。
客単価昼二〇〇〇円、夜四〇〇〇円。日商五〇~六〇万円といったところだが、ポストバブル後は昼六割、夜四割と昼の利用が増えているので、客単価が高くなる夜の客数をどう集客していくかが、大きな課題だという。(程塚哲明店長)
6月30日に新装オープンの「アルシエ」は地下三階、地上八階の商業ビルだが、五階に中国料理「王宮」、懐石割烹「一遊亭」の二店を展開している。
王宮はテレビで料理の名人として知られる周富徳さんの店で、広東料理の本格的なレストランだ。店舗面積一八五坪、うち四〇坪が厨房だが、客席は一二〇席で、ゆったりとしたフロアレイアウトになっている。
料理は前菜から魚肉料理までグランドメニュー約一五〇品目をラインアップしており、この一つ一つが周さんが念入りにレシピー化したものだ。
単品は中盆、小盆となるが、中心のプライスゾーンは二〇〇〇~四〇〇〇円前後で、クオリティの高さの割にはリーズナブルな価格帯という印象を受ける。
客層はファミリーから会社利用までと多様で、客単価は昼二〇〇〇円、夜六〇〇〇円、まだオープン間もないが、有名人の経営する高い店とあって、売上げは予想をはるかに越えており、平均日商二〇〇万円、月間六〇〇〇万円の水準を保っている。
坪売上げ一日一万円で好調なスタートを切っているということだが、この高水準がキープできるかどうかは、今後の店のオペレーションにかかっており不明だ。
「現在のところは周さんの名前で客を呼んでいる面もありますから、これからの勝負は自力でどのくらい客がつかめるかです。高級感を売りものにしていますから、それに見合った質の高さを提供していかなくてはならないわけですから、現場の人間としては大変です」(木下亨支配人)。