高度成長する惣菜・デリ 日本KFC ケータリングビジネスに注目

1993.07.19 32号 18面

今日の市場において、消費者が求める「簡便性」(お値打ち感)といったニーズを最も幅広く吸収しているのはコンビニエンスストアである。七〇年代、八〇年代にかけて急成長してきた外食産業がここに来て苦戦を強いられている背景には、やはりセブン‐イレブン、ローソンを代表とする大手CVSの台頭が大きく影響しているであろう。中でもテイクアウト率の高いファストフード(FF)チェーンは、CVSのFF部門とモロにバッティングし、限られた商圏での激しい競合関係にある。

不景気による消費の減退と、地域の食生活への距離的、価格的親密度を考えた場合、CVSのFF部門は、フードサービスのFFチェーンをすでに超えていることは疑いないところだ。

外食機会の減少によって、駅前のFF店よりも家の近くのCVSの方が来店頻度も高くなるのは当然だし、商品の品揃えや割安感・お値打ち感、さらに対面接客サービスとしての人件費等の面でも、FFはCVSに太刀打ちできないのが実情だ。

では、FFがCVSに対抗するためにはどうすればよいのか。一つには、CVSよりもコンビニエンス性が高く、低価格であることだ。外食業界には当てはまらないが、今日のディスカウントストア、アウトレット、オフプライス店等の新小売業態の登場はある意味でCVSとの差別化であり対抗策であろう。

二つ目には、品質や商品の差別性で完全にCVSに勝ることである。例えば、洋風FFであれば、モスバーガーの手作り風のハンバーガーや日本KFCのフライドチキン。和風ファストフードでは吉野家の牛丼や、てんやの天丼など、いずれもCVSではなかなか提供できない高品質感やできたて感という独自性で、地域の固定客を獲得し、見事に売上げ拡大を果たしている。

そこで、今回はこの二つのCVS対抗策を独自のビジネスコンセプトに落とし込み、ピザと弁当のケータリングという新たな展開をスタートさせた日本KFCの例を紹介することにする。

まず、米国最大のピザレストランチェーンで現在七三ヵ国・九九七〇店を展開する「ピザハット」との提携による新展開が挙げられる。

九一年5月、日本KFCと米国ピザハット社、日本ペプシコフードサービスとの間で、日本における長期ライセンスの契約を締結する目的で、まず一八ヵ月間のテストオペレーションを経て、九二年10月31日に正式締結。東京都世田谷区経堂に直営一号店を出店。九二年度末現在で直営・FC合わせて三九店にまで拡大した。

店舗は四タイプあり、〈デリバリーオンリー〉〈レストラン〉〈デリバリー+レストラン〉〈テイクアウトオンリー〉。ワンオーダー二五〇〇~三〇〇〇円が目標。

出店展開は〈デリバリー+レストラン〉タイプを拠点にその周辺に〈デリバリーオンリー〉タイプを配していく考えである。前者で片道八分前後、後者では五分を目処に商圏を設定。出店エリアは首都圏を中心に直営・FC店含めて約一五〇店舗まで拡大したいとしている。

商品の特徴は、上質の小麦粉を丹念に練りあげ時間をかけてじっくり発酵させた生地と最高級モッツアレラチーズを二層がけしたダブルチーズ、そして専用ベイキングパン(焼皿)を使って厚味があってサクッとしたテクスチャーを実現した本格的なピザである。また、各種サラダとセットにしたパーソナルピザもラインアップしている。

「ピザハット」に続くもう一つの展開が宅配和風弁当「菱膳」である。

九二年10月、東京都渋谷区の恵比寿店を皮切りに、同年11月に目黒店、12月に神田店をオープン。宅配システムについては「ピザハット」のシステムを活用する。メニュー開発と生産は大手水産会社のニチロと業務提携、店舗段階では冷凍された商品を解凍するだけの極めて簡単なオペレーションにしている。

店舗規模は恵比寿店二九坪、目黒店三四坪、神田店一六坪。ジャイロカー八~一〇台を所有。また一〇食以上は軽自動車でデリバリーする。営業時間は10時~22時。宅配は二食以上から受け付ける。

主なメニューは「特選幕の内御膳」(二五〇〇円)、「幕の内御膳」(二〇〇〇円)、「特選中華風御膳」(二一〇〇円)、「中華風御膳」(一八〇〇円)、「特選洋風御膳(二二〇〇円)、「洋風御膳」(一八〇〇円)。

その他カレー三種、(八〇〇~一三〇〇円)、各種御膳一〇種(九八〇円~一五〇〇円)。さらに11時~14時のランチメニューとして「カニ玉ランチ」「焼肉ランチ」など六種(各七七〇円)もあり、会社、個人ともにさまざまな食シーンに対応したグレードと価格帯を取り揃えている。

以上のように、消費者の食生活への親密度において、CVSに先んじられたFFの一つの対抗策として、日本KFCはホームデリバリーというアプローチ方法を選び実践し始めたわけである。女性(特に主婦)の社会進出や食生活の多様化は、今後もますます家庭内での食の外部化を高めていくことは間違いない。そうした中で完全調理済みの惣菜・デリの購入機会はさらに高くなっていくであろう。

消費者は商品のカテゴリー間の選択とともに、同一商品をめぐって、テイクアウト、デリバリーという商品の購入形態にも注目し始めている。商品の差別性だけでなく、提供の仕方自体も重要なコンセプトになるということだ。

消費者の多様化する食生活を考慮した場合、ホームデリバリーという提供スタイルにもっともマッチしたメニューは、一皿完結型の惣菜・デリである。そこで、日本KFCが注目したのがピザであり弁当であるということだ。本業のフライドチキンをケータリングビジネスに乗せるという意見もあったようだが、チキンはスナック、副菜であり、主食的惣菜・デリにはなり得ない。「主食・主菜・副菜」という三つの位置付けによって、適正なる提供方法を導くという考え方は見習うべき点が多い。後は、デリバリーのフットワーク性はもちろんだが、CVSの廉価なピザ、弁当に対抗するだけのお値打ち感のある商品を開発、提供できるかにかかっている。消費者にとって、四〇〇円前後のCVS弁当にいつまでも黙っているとは思えない。「おいしくはないけど、まずくはない、でも安いから」というこれまでの優等生的な発言もいずれ少なくなり、品質面、サービス面へのこだわりを取り戻しつつある。そこに、FFが優位に立てるチャンスがあると言えるだろう。

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