話題の飲食施設 真鶴「魚座」(神奈川) 魚市場・ミニ水族館併設の観光スポット
神奈川県真鶴町。昨年7月、真鶴港の魚市場が開設六〇年たって老朽化したので、それをスクラップ&ビルドして、市場機能にレストランや店舗、ミニ水族館(展示水槽)など“観光機能”を付加して再オープンした。今年6月末で満一年を迎えたわけだが、レストラン利用は夏場の天候不順や「O157」騒動の影響が大きかったものの、目標利用客の四万人を大きくクリアした。この施設は魚市場という文字どおりに、水際の施設を母体にしているだけに、親水性と広い空間を背景に新鮮な魚介類を売りものにしており、年間通しての集客力を発揮しているが、しかし、料理内容や価格政策の面でいくつか検討すべき点が残されており、今後の推移が注目されるところだ。
総投資額約六億円。「魚をメデアにヒトが集まり、コトが生まれる」を基本コンセプトに、町が真鶴町漁業協同組合と水産業高度化のプロジェクトとして、施設建設した。
施設は二階建の「市場棟」と、海産物を売る平屋建「店舗棟」の二つから成るが、市場棟は一階に魚市場と関連施設、二階にレストラン「真鶴魚座」と大型の展示水槽、会議室、デッキなどの施設が展開する。
レストランは二階海側にあって、重量感のあるロッジ風の造りで、店舗面積約一〇〇坪、客席数七〇席。海側の窓はワイドなガラス張りで、食事をしながら船が往来する港の風景を、広い海原を眺めることができる。
窓の外は回廊式のデッキで、潮風を肌で感じることができる。
料理はアジ定食一二〇〇円、天ぷら定食、フライ定食各一五〇〇円、刺身定食一八〇〇円、魚座定食三〇〇〇円ほか、一品料理としてカマス九〇〇円、イサキ八〇〇円、トビウオの焼き魚、カレイ、カサゴの煮魚各八〇〇円など。
定食の魚介類は、マグロ、カジキ、メジ、アジ、カンパチ、アナゴ、イカ、大正エビなどで、これら素材は地元ばかりではなく、業者を通じて地域外からも仕入れている。
魚市場と一体化したレストラン施設でありながら、魚材を地域外の市場からも調達するとは皮肉なことだが、季節の素材やメニューのバリエーションを考えれば、やむをえないことなのだという(真鶴町産業観光課)。
広い海原を眺めながら、新鮮な魚料理を食することができるのはうれしいことだが、しかし、メニュー数が少ないこと、一品当たりのボリューム感に欠けること、また、内容の割には割高という印象もあり、むしろ街中のビジネスランチ(定食)程度の範囲にとどまっている。
やはり観光・リゾート地でのメニュー構成であり、価格政策という運営形態を感じさせられる。
マグロのすきみ、イカの塩辛、サバのマリネの付き出しでも一品が四〇〇円、生ビール中ジョッキ、中びん、日本酒が各五五〇円。
通年営業であるなら、価格的にはもう一、二割低い値ごろ感があってもいいし、メニューの面でも野趣味のあるシーフード料理や、地域をイメージするオリジナル料理、とくに女性客の来店動機を喚起するような海藻、魚介類をアレンジしたサラダ類があってもいい。
正直いって、この施設の中身は、シーサイドという立地特性が十分に生かされていないし、オリジナリティーが感じられない。
「話題の飲食施設」というには地味、平凡の域を出ていないといえるのだ。
この点は、町でも改善すべき点はあると考えているようで、メニューのバリエーションやオリジナル料理の導入も今後の課題としている(産業観光課)。
冬に向かっては地元素材のアンコウ、ブリなどを使った鍋料理(一人前八〇〇~九〇〇円)をラインアップする。施設利用者は神奈川、静岡など地域客のほか、東京方面の行楽客が主体。
真鶴へは年間約二〇〇万人の観光レジャー客があるが、この施設にはオープンした昨年7月から今年3月末までの九ヵ月間で四万二〇〇〇人、今年4月から8月末までの五ヵ月で、二万五〇〇〇人の入込み実績があり、当初設定の年間目標四万人を大幅に上回っている。
このペースで推移していけば年間五万人は達成できそうで、当初目標の二五%増、真鶴全体の入込み数でみれば、二・五%がこの施設を訪れることになる。
これはあくまでも見込みだ。現実はどうなるかわからない。初年度は“ご祝義”ということもある。試されるのは第二年度以降だ。
平均客単価一六〇〇円。初年度売上げは七〇〇〇万円強。今年度はこの一、二割増は望みたいところだ。
問題はリピーター客の推移。一見の客相手では施設運営は先細りになる。安定して集客していくには、場所にフィットした料理とリーズナブルな価格政策が望まれる。
(しま・こうたつ)
◇施設概要
・名称/真鶴魚座(まなづるさかなざ)
・オープン/平成7年7月1日
・所在地/神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴一九四七‐二(Tel0465・68・6511)
・市場棟/鉄筋コンクリート二階建、敷地面積七四五坪、建築面積四〇八坪、延床面積六四五坪、うちレストラン部門約一〇〇坪、七〇席
・店舗棟/鉄骨平屋建六区画、敷地面積七七坪、建築面積四五坪、延床面積四〇坪
・駐車能力/二〇台
・営業時間/夏期午前11時~午後6時、冬期11時~4時30分、水曜日定休
・利用者数/年間四万二〇〇〇人
・施設管理/真鶴町産業観光課
刺身定食一八〇〇円。刺身(マグロ、カジキ、メジ、カンパチ、イカ)ご飯、みそ汁、お通し、お新香のワンセット