地域ルポ JR新宿駅中央口・新宿3丁目/中央通り
JR新宿駅。一日平均一五〇万人以上の乗降者数。日本一のマンモス駅だ。改札口が東口、西口、南口とあるが、中央口の存在は地味だ。駅ビル「マイシティ」を明治通り方向に出るのが中央口で、その通り名が「中央通り」。地番は新宿区新宿三丁目。
二車線道路だが、車の乗り入れは明治通りから駅方向への一方通行で、駅広場からは通行禁止。
この通りはかつて(昭和40年代)左翼学生やヒッピー、文化人などの談論風発の“拠点”喫茶「■月堂」があり、連日賑わっていたところだ。
五〇歳前後のオジサン、オバサンにとっては青春のノスタルジーを感じさせられる場所だが、二四、五年ほど前に店はスクラップされてしまった。今はその場所に三越南館が建つ。
大学生や若いビジネスマンが漫画本を読み、ゲームセンターにうつつを抜かす時代だ。刹那一本やりで、精神的なもの、形而上のものは敬遠され、滅びる一方だ。
この通りも大きく変わった。昭和50年代に入って新たに商業集積が進む兆候をみせていたが、60年代のバブル経済期に入って加速し、マクドナルドをはじめ、ロッテリア、ウエンディーズといったハンバーガーチェーンなどFF系の飲食ビジネスやパスタ、ラーメン、カラオケ、ディスカウントショップなどの出店が相次ぎ、渋谷センター街に似たようになった。
この通りは南口にも近接しているのだが、昨年10月、高島屋がオープンしたのをきっかけに、人の流れが増えた。
しかし、一年がたった現在はその流れも落ち着き、実際に入店してくる客数は限られるという。(喫茶店店長)
南口といえば、平成3年10月、三越南館(地下四階、地上七階)がオープン、新宿通りの本館と合わせ、地域への来街を喚起してる。
三越南館は明治通り寄り中央通りに面しているが、ここは南口から新宿通り(三越本館、丸井百貨店)へ抜ける“プロムナード”の様相を呈しており、人の流れも多い。
しかし、ここから中央通りを駅方向へ回遊する流れは少ない。三越や丸井、伊勢丹が並ぶ新宿通り(駅東口)へ吸収される来街者が圧倒的であるのだ。
来街者はやはりヤング層が大半を占めるが、土・日はファミリー層も流れてくる。しかし、FF系の飲食施設を除けば、特に平日はサラリーマンの利用が店の主体客となっているという印象を受ける。
「この界隈には七〇軒くらいの飲食店があるけども、価格の張る店は少ないね。やはり若者受けするようなチェーン店とか軽い雰囲気の店が幅を利かせているということだな」(商店会役員)
高単価の店は廃れ、頼りの会社利用も減少の一途をたどる。この通りの性格も、女性客志向やヤング層にターゲットを合わせた店づくりが主流になっているということだ。
◆イタリア料理「カプリ」(新宿三-三四-一一、ピースビル地下一階、電話03・3352・3385)営業時間午前11時~午後10時
洋菓子メーカー不二家の直営店。一四年前にオープン。同じビルの地上一、二階にハンバーガーチェーンの「ウエンディーズ」(二〇〇席)が出店している。
カプリは、一時女性に人気のあった店だが、今は元気がない。銀座、目黒、池袋にも店があり、若い女性客やカップルを集客している。人気メニューはピザ、パスタ類(単価八〇〇~一〇〇〇円前後)。
客層は平日は二〇代前半の若い女性が六、七割、土・日・祝日にはファミリー客も多く来店する。客単価一四〇〇円。三〇坪、六五席。月商一二〇〇~一五〇〇万円。
◆日本料理(和食)「ふる里」(新宿三-三一-七、電話03・3352・2347)営業時間午前11時30分~午後10時
三越南館の向かい、角地に位置している。三階建ての独立店舗で、創業が昭和29年。今年で四三年の歴史。
「この通りでは昔からあるのは吉田屋(ウナギ料理)、船橋(天ぷら)、つな八(天ぷら)くらいじゃないでしょうか。昭和40年に入って道も拡張されて、ビルも建ってきましたから、やめた店も多いんです。ずいぶんと変わりました」と話すのは店主(二代目)の宮沢清さん。
店は一階がカウンター席、二階がテーブル席と座敷、三階が座敷オンリーというフロア構成(計一〇〇席)になっている。
おすすめメニューは、松坂牛ロースのすき焼き二八〇〇円、寄せ鍋二七〇〇円、うどんすき二九〇〇円。ランチもやっている。
客層は中高年に加えて、高島屋が開店して以来、若いカップルやグループ客も来店するようになった。
客単価夜約三〇〇〇円。月商二〇〇〇万円前後(推計)。
◆談話室「滝沢」(新宿三-三六-一二、杉忠ビル、電話03・3356・5561)平日営業時間午前9時~午後9時50分、日祝日午後9時30分
和風づくりの店舗と質の高い接客サービスで、中高年層を主体に強い集客力を発揮している。
看板に“談話室”とうたっているだけに、単に料飲を提供するだけでなく、落ち着いた静かな空間に加え、若い女性従業員の行き届いた接客態度が大きな魅力になっている。
地下一階に本館(三〇〇席)と特別室(一二席)、地上二階に別館(一四〇席)というフロア構成(約二〇〇坪)で、本館店内にはミニ庭園もレイアウトしており、ゆとりの空間をアピール。
オープンは昭和41年7月。東京オリンピックから二年後、大阪万博の四年前、日本経済が上昇カーブを描き出したところだ。
「私どもは創業以来一貫して、日本庭園をイメージした店づくりを基本に、お客様にくつろいでいただく空間の提供という考え方で、店の運営と取り組んできております。ですから、接客の面でも常におもてなしの心で応対できるよう従業員教育も徹底しております」(滝沢総務部)
接客スタッフは若い女性が主体になっているが、礼儀作法はもちろんのこと、茶道、生け花などの教養を身につけることが必須になっている。
料飲のメニュー構成はコーヒー、紅茶、日本茶とお菓子のセットが各一〇〇〇円、飲み物とケーキ、トースト、サンドイッチ、クロワッサンなどのセットメニューが一一〇〇~一三〇〇円。
客層は中高年が主体だが、若い人も来る。客単価一〇〇〇円前後。月商三〇〇〇万円以上(推計)。姉妹店が新宿西口、池袋東口・西口、お茶の水にある。
◆ステーキレストラン「スエヒロ」(新宿三-三六-一〇、新宿東洋ビル九階、電話03・3356・4656)営業時間午前11時~午後11時
スエヒロ商事(株)(本社=東京・日本橋)の直営店。昭和40年に入ってのオープンというから、既に三〇年の歴史になる。
地域ではやはり“老舗”格のステーキレストランということになるが、バブル経済後の経営は厳しい。高単価商品が売れなくなり、会社利用、一般客の会食などが減少したからだ。
しかし、昨年10月、南口の高島屋がオープンして半年くらいは、客の流れもあり、来店客数も高まった。
現在は賑わいも薄れて落ち着いた状況になっており、今は夜の客単価が落ちているせいもあって、月商三〇〇〇万円をキープするのが精いっぱいというところだ。(上嶋幹店長)
人気メニューはもちろんステーキメニュー。ロース、ヒレ、リブステーキなどポーションや部位、添え物の組み合わせで二八五〇~九五〇〇円のメニューを提供、客の好みや予算に応じて選択できる広角度のメニュー政策を導入している。
客単価昼一〇〇〇円、夜五〇〇〇円。銀座、渋谷、新橋など一二店を展開。
◆ビアレストラン「スーパードライ」(新宿三-三六-一二、杉忠ビル一階、電話03・3325・2361)営業時間午前11時30分~午後11時/店舗面積一〇〇坪/客席数一五〇席
アサヒビール子会社のニューアサヒが経営するビアレストランで、同じストアーブランドで都内には銀座、有楽町、高田馬場など計六店舗を展開している。
新宿店は昭和38年のオープン。一一年前にリニューアルし店名も変わった。
店名どおりに人気銘柄のアサヒスーパードライの生ビールが売りで、店に一〇〇〇lタンク二基を備え、東京工場(東京・大森)から直送の生(五〇〇ml六六〇円)を提供している。
客層は、平日はサラリーマンが主体、土日祝日は中高年から若者、カップルと多様。男性七割、女性三割のウエート。
客単価は昼一〇〇〇円、夜三〇〇〇円、月商三〇〇〇万円前後。