アレルギーとは何か
アレルギーとは身体を守る免疫の行き過ぎによって起こる病気。免疫とは、誰の身体にも備わった、外敵から身体を守る大切な仕組み。アレルギーの語源はギリシャ語で、「アル」(変わった・おかしなという意の接頭語)+「エルグ」(働きを意味する語)。免疫という身体を守ろうとする仕組みが、変わった働きによって逆に、身体を傷害してしまう現象を指す。成人の食物アレルギー患者の多くは、血圧低下や呼吸困難を経験していて、乳幼児期の皮膚に関連するさまざまな症状とはずいぶん様相が違う。エビ・カニなどの甲殻類を食べると全身に掻痒感が広がるという人の中には、“食物アレルギー”という自覚のない人もいて、突然重篤な症状を引き起こす可能性もあるので要注意だ。
◆アレルギー表示の話 太田裕見・サントリー健康科学研究所部長に聞く
食物アレルギーによる健康被害件数が増え、アレルギー物質を含む食品について、より詳しい情報提供が求められるようになった。二〇〇二年4月からは食品衛生法により、アレルギーを起こしやすい食品を含む加工食品に原材料の表示をすることが義務付けられた。元食品産業センター企画調査部次長で厚生労働食品表示研究班アレルギー表示検討会メンバーとして制度案作りにかかわった、サントリー(株)健康科学研究所の太田裕見部長に聞いた。
Q 表示をしなければならない原材料って?
A 厚生労働省の調査により、過去、症例数の多いものと重篤な症状を起こしたものの五品が「特定原材料」として表示義務化され、その他一九品の表示が奨励されています。
●「義務」五品目(特定原材料)
小麦、卵、乳☆、そば、落花生
☆牛以外の乳(山羊乳・めん羊乳等)は対象外
●「奨励」一九品目
あわび、いか、いくら、えび、かに、さけ、さば、牛肉、豚肉、鶏肉、ゼラチン、オレンジ、キウイフルーツ、もも、りんご、くるみ、大豆、まつたけ、やまいも
Q この二四品以外に表示対象品目が増えることはないのですか?
A 6月23日、農林水産省・厚生労働省の「食品の表示に関する共同会議」で、推奨品目に新たにバナナの追加が決まりました。近年発症数が増えているゴマや、一定数の発症が認められたカカオ・メロン・マグロなどについても引き続き調査を行う方針で、今後研究が進むにつれ表示品目も増える可能性があります。
Q 適切な原材料表示がない加工食品を食べてアレルギー症状を起こした場合、営業者はどのような罰則を受けますか。
A 特定原材料五品目について原材料表示がなかった場合には、食品衛生法違反として、行政処分の対象となり、場合によっては六カ月以下の懲役または三万円以下の罰金を科されることもあります。一九品目については罰則はありませんが、指導の対象となります。
Q レストランも「アレルギー表示メニュー」を置かねばならないのですか?
A 現行制度では飲食店のメニューや量り売りの惣菜、バラ売りのパンなどには表示の義務はありません。対象となっているのは、容器包装された加工食品と食品添加物です。調理・加工業者は、使用原材料を正確に把握し、問い合わせに情報提供ができる体制を整えることと、まな板などを介する微量混入への対策が求められています。
Q 表示では最後にまとめて書く“一括表示”と、それぞれにつける“個別表示”と両方見られますが、どちらが正しいのですか?
A “一括”も“個別”も両方認められています。一つの容器に数種の具材が入っている弁当などの食品の表示は大変困難です。具材(複合調理加工品)同士の接触により、アレルギー物質が他の具材に混入する可能性が高く、判断が難しいため、一括表示でもよいとされています。しかし、軽症の患者さんでは、各自経験を頼りに接触状況などからアレルギー物質量を推定し、具材を選択摂取している現状があり、可能な限り具材ごとの個別表示が必要との意見もあるのです。実際には表示スペースの限界もあり、重複する原料については省略表記が多くなっています。
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「食品表示には、実は、たくさんの法律が関係しています。JAS法、食品衛生法、健康増進法、さらに〇一年からの加工食品表示基準や容器リサイクル法に伴うマーク表示、翌年のアレルギー表示と、法改定・策定が重なり、食品企業にとって表示は非常に難しさが増しています。“消費者への正確な情報、分かりやすい表示”のあり方については、産官学および消費者団体のエキスパートが協力し検討が続けられています。提供事業者には、商品コンセプト・使用原材料・製造工程など、結果だけでなく作成にいたる流れを示すことから、より消費者からの理解を図ることが求められています。また、ラベル表示のみで、すべてのアレルギー物質に関する情報が伝達されることが困難であることを常に想定しつつ、消費者情報窓口等を整備し、正確な情報提供を行える体制を整えることが必要と考えています」。
◆リスクコミュニケーションの意義 NPO「食物アレルギーパートナーシップ」(申請中)堀口逸子事務局長=順天堂大学公衆衛生学教室
O‐157事件に始まり、BSE・牛肉などの偽装表示、指定外添加物使用問題、違法農薬などによる健康被害と食の安全に対する不安や不信を招く事件が多く起こっています。
ところで「安全な食品」とはどのような食品なのでしょうか。家庭菜園など自分で育てた野菜は「安全」なものでしょうか。種は? 土は? 農薬は? 自分で栽培したものでさえ完全に安全とはいえないのです。世の中に完全に安全なものはありません。リスクゼロというのは存在しないのです。リスクゼロはまた科学によって証明することができません。
食物アレルギーは、現代日本に生きる我々にとって、非常に身近で、かつ重要な問題です。アレルギー物質についてそれぞれの立場の人が抱えている課題を明らかにするため、関係者間でリスクコミュニケーションを行います。何か事故が起きたとき、それを批判するのではなく、解決の糸口をさぐるのです。我々のNPOでは、消費者・企業・国、それぞれが互いの立場を理解し、価値観を認め合い、情報共有する役に立ちたいと考えています。
◆アレルギーの発症や悪化を予防する食生活のポイント
●同じ食品だけ食べ続けることを避ける
アレルギー体質がある場合、同じ食品を大量に食べ過ぎると何らかのきっかけでアレルギー反応を起こす可能性がある。どんなに身体によいといわれるものでも、そればかり食べ続けることだけは避けるべき。
入学・就職・単身赴任などで一人暮らしを始めたり、過激なダイエットをして栄養バランスを崩すことも、アトピー性皮膚炎などの悪化要因になる。
・「回転食」療法
アレルギーの食療法で、毎日毎食、食事内容を変えることで、トータル的に多くの種類の栄養素がまんべんなくとれる。
ただし、なんらかの症状がある場合は、勝手な判断で食療法を行わず、専門医に相談を。
●脂肪の種類に注意
肉に多く含まれる飽和脂肪酸はアレルギー症状と関係があり、青い背の魚に多く含まれるn‐3系多価不飽和脂肪酸のEPAやDHAはアレルギー反応を起こしにくいと考えられている。植物性のシソ油やエゴマ油もn‐3系多価不飽和脂肪酸のα(アルファ)リノレン酸を多く含む。
●仮性アレルゲンとは
ほうれん草や山いも、サバなどを食べて、かゆみや具合の悪さを感じた経験は、ないだろうか?それは仮性アレルゲンを含む食べ物のせいかもしれない。仮性アレルゲンは、正確には食物不耐症といい、免疫反応による食物アレルギーとはメカニズムが異なる。体調により反応したりしなかったりするのが特徴で、感染・寒さ・疲れがあるときに症状が出やすい。
全く避けるのではなく、少量ずつバランスよく食べることが大事。アク抜きや加熱調理によって仮性アレルゲンの力を失うので、調理の工夫を忘れずに。例えば、ほうれん草の場合、バター炒めより、ゆでておひたしなどで少しずつ食べるのがおすすめ。魚介類は、なるべく新鮮なものを。
◆表示はスタートライン 赤城智美・アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長
アトピー・アレルギー性疾患をもつ患者とその家族を対象に、暮らし方のアドバイスをする電話相談事業を行っているNPO「アトピッ子地球の子ネットワーク」の赤城智美さんは「『アレルギー表示義務化』が実現し、乳幼児以外にも食物アレルギーの人がいるということが、ようやく認知されたことは、食物アレルギー患者にとって大いなる一歩であったと思います。しかし、法律ができたからといって実際に食生活の幅が広がったわけではありません。
表示義務化の真の意義は、患者以外の多くの人に、食物が複雑に作られているという現実を知る機会を与えたことにあるような気がします。
化学物質の総量が生活環境に増え続けていることがアレルギー発症を後押ししているという現状においては、複雑な原材料を使い、複雑に加工された食べ物は、たとえ特定原材料がすべて記載されていたとしても、食物アレルギーのある人の食べる選択に実際つながるのは困難な場合が多いのです。
多様な価値を認めあい、誰もが共に生きられる社会の実現に向け、表示制度は、到達点ではなく、スタートラインなのだと考えています。
〒106-0032 東京都港区六本木4-7-14みなとNPOハウス3F 電話03-5414-7421
FAX 03-5414-7423 E-mail:info@atopicco.org アトピー・アレルギー性疾患をもつ患者とその家族の暮らしの支援活動を12年続けている。
◆アレルギーの原因解明は困難
食物アレルギーの原因物質は、食物中のタンパク質。例えば、小麦では、グロブリンなどがアレルゲン(抗原)となる。しかし、小麦粉から自家製のパンを作り、じんましんからアナフィラキシーになったケースでは、小麦粉に対してではなく、ダニアレルゲンに陽性を示した。開封した小麦粉袋の中にダニが繁殖し、そのダニアレルゲンが経口負荷されたことが原因と判明した。サバを食べてじんましんが出ることは珍しくないが、サバ自体の成分ではなくサバの寄生虫(アニサキス)にアレルギーを起こすケースも報告されている。食物アレルギーの原因を突き止めるのは容易ではない。
◆「食物アレルギーに関するクイズ」 ○か×か、つけてみてください。
1( )食物アレルギーの症状は、じんましんである
2( )食物アレルギーで死ぬことはない
3( )食物アレルギーの診断は、血液検査の結果で行う
4( )食物アレルギーは、一生治らない
5( )アトピーの人は、食物アレルギーである
6( )食物アレルギーは、子供の時に発症する
7( )食物アレルギーは、母親から遺伝する
8( )食物アレルギーの原因となる物質は24品目に限られている
9( )すべての民族で、5大アレルゲンは同じである
●出題・解説=順天堂大学医学部公衆衛生学教室 堀口逸子先生
食物アレルギーの原因となる食物はヒトによってさまざまです。それは民族によっても異なり、イスラエルではセロリが原因となる食物アレルギーのヒトが多くいます。また、母親からの遺伝とは限らず、成人になってからの発症も少なくありません。
症状はいろいろあり、肌が赤くなったり、ぜいぜいといった呼吸になったり、オットセイのような咳が出たりします。アトピーがあるからといって食物アレルギーとは限りません。また、重い症状としては、アナフィラキシーショックといって血圧が低下し死に至る場合があります。最近は、小麦や魚介類を食べた後に休む間もなく運動をすると生じるアレルギー(食べただけでは問題なく、運動しただけでも発症しない)の症例も増えています。
食物アレルギーかどうかは、皮膚テストや実際にアレルギーの原因と考えられる食べ物を食べる食物負荷試験などさまざまなテスト結果を医師が総合的に判断して診断されます。また、食物アレルギーは定期的な検査と治療によって治る場合が少なくありません。自分勝手に対処することが最も危険で、症状がひどくなり治りにくくなったりします。専門の医師にかかることをおすすめします。(回答 すべて×)
◆見てみて!表示 洋菓子のアレルギー表示例
〈個別表示〉
●すべて記載した場合
小麦粉、砂糖、植物油脂(大豆油を含む)、鶏卵、アーモンド、マーガリン(大豆、豚脂、乳製品を含む)、異性化液糖、脱脂粉乳、洋酒、でん粉(小麦を含む)、ソルビトール、膨張剤、香料(乳・卵由来)、乳化剤(大豆由来)、着色料、酸化防止剤(ビタミンE:大豆由来、ビタミンC)
●重複内容は省略も可
小麦粉、砂糖、植物油脂(大豆油を含む)、鶏卵、アーモンド、マーガリン(豚脂を含む)、異性化液糖、脱脂粉乳、洋酒、でん粉、ソルビトール、膨張剤、香料、乳化剤、着色料、酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC)
〈一括表示〉
小麦粉、砂糖、植物油脂、鶏卵、アーモンド、マーガリン、異性化液糖、脱脂粉乳、洋酒、でん粉、ソルビトール、膨張剤、香料、乳化剤、着色料、酸化防止剤(ビタミンE、ビタミンC)、(原材料の一部に大豆、乳製品、豚肉を含む)
・添加物は「●●由来」「●●を含む」と表示
・卵の替わりに「エッグ」「マヨネーズ」、大豆の替わりに「しょうゆ」「豆腐」など、代替表示が許される場合もある。
★詳細は厚生労働省ホームページアレルギー表Q&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0329-2b.html