歩こうある考:大きく一歩
アフリカの最高峰キリマンジャロ(五八九五メートル)への登山に行くと、登頂後、高所登山の疲れを癒すために、タンザニアのマサイマラ国立公園に立ち寄り、野生の動物たちを間近で見ることにしている。とくに夜明けとともに離陸する熱気球に乗って、空の上から動物たちの朝の採餌の営みを観察するのは、素晴らしくぜいたくな体験だ。
広大な草原の草を食べるガゼルやヌーなどの草食動物、それを狙う肉食動物のチーターやシンバ(ライオン)、追う者追われる者どちらにしても彼らが歩き、走るその姿はとても美しい。それは動物として彼らが本来持っている、動かすべき関節を目一杯動かし、使うべき筋肉にはきっちりと力を加えて走っているからだ。
人間が二本足で歩くというのは、動物としては特殊な動きだが、美しく歩いている人はやっぱり健康で元気だ。逆に歩くことを健康へとつなげるには、関節をよく動かし、筋肉を十分に使って歩かなければならない。それが結果的に美しい歩きになるのだ。
使うべき筋肉を使う正しい歩き方は、大きめのストライドから始まる。前に出す足は(例えば右足)しっかり伸ばして踵から着地する、それに合わせて後の左足は踵があがり、つま先だって足の指で地面をとらえ身体全体を前方に押す出す動きで、右足の踵、外側、小指そして親指部分へと重心が移動するのを助ける働きをしている。この地面を蹴る動作を利用しながら太ももで下肢を引っ張り、次の前足にとなるべく振り出して踵から着地し、これを交互に繰り返して歩く。
このような歩き方をすると、下半身の関節がよく動き、大腿部、ふくらはぎ、土踏まずなどの筋肉が十分使われ鍛えられる。さらに、足の曲げ伸ばしによる筋肉の収縮弛緩は、静脈内の血液を心臓に戻すポンプの役目もして、血液を身体中に行き届かせ血液の循環を良くするという効果も出てくるのだ。これが、トレーニングのためのウオーキングは大股ですべきという理由なのだ。
いま歩いている歩幅を、ちょうど自分の足の大きさ分くらい広くして歩いてみよう。それだけで歩く姿が美しくなり、トレーニング効果も違ってくるのだから。
((社)日本山岳ガイド協会認定ガイド 石井明彦)