現代版「湯治」のすすめ 症状別・温泉療法の効果と方法
症状により体質により、適した温泉はさまざま。気になる症状別に、どんな温泉にどう入ったら良いのか、悪いのか。実例を見ていこう。
◆血圧の低下に効果のあった温泉療法 矢永尚士・九州大学名誉教授 認定温泉医、温泉療法医
温泉治療は薬物療法に比べ緩徐ながら降圧に効果があることが分かっている。これは温泉浴の温熱・静水圧・化学・鎮静作用の関与と推測され、ほか自律神経調整作用、生体リズム安定化作用など好ましい作用もある。高血圧症の入浴の注意点は(1)脱衣場の室温を一五度以上に暖める(2)入浴回数は一日一~二回、湯温四〇度以内で短時間に。朝は避け午後が望ましい(3)寝た姿勢で入ると心臓への負担が少ない(4)浴後一時間は安静に(5)自覚症状に注意しながら入浴する(6)食事療法(減塩・低カロリー食)、運動療法(歩行運動など)との併用が望ましい。(図1・温泉治療と薬物療法の比較)
◆関節痛の温泉療法 及川信哉・コンフォガーデンクリニック院長 温泉療法医
温泉療法は温水浴のもつ鎮痛効果のため、昔から関節痛に対して積極的に利用されてきた。一般に関節痛・筋肉痛に効く温泉は、硫黄泉や食塩泉といわれるが、筋肉の血流改善や局所の保温効果を得るためなら、泉種にこだわらず広く利用しても可。温泉浴にマッサージ効果が加わった、気泡浴や過流浴などを組み合わせるのも有効。ただし有効なのは筋肉疲労を伴う慢性の関節痛で、急性のものや発熱を伴うもの、悪性腫瘍を合併している場合などは症状を悪化させることがあるため入浴禁忌。ぎっくり腰は入浴により痛みが悪化したり、四二度以上の高温浴では痛みを誘発することもある。
◆糖尿病と温泉療法 大塚吉則・北海道大学保健管理センター助教授 認定温泉医、温泉療法医
糖尿病治療の基本は食事と運動。その両者を効率よく行うには温泉療法が最適だ。食事管理を行いつつ、温泉浴によるエネルギー消費に加え、歩行運動や温泉プールでの水中運動を併用する。温泉療法により副交感神経系が活発になり、ストレスも除去されリラックス状態に移行し、ホルモン分泌や自律神経作用が安定化することも血糖値の正常化に貢献する。飲泉(硫黄泉)療法も血糖値に好ましい影響を与えることも認められている。ただ、増殖性網膜症・重症の腎臓障害・重度の自律神経障害など重篤な合併症が存在する際は、温泉療法を避ける。(図2・4週間の温泉療法による血糖値の日内変化)
◆痴呆症と温泉療法 出口晃・小山田記念温泉病院内科部長 認定温泉医、温泉療法医
温泉療法は血管性痴呆の予防・治療に使える可能性を秘めている。健常人と脳梗塞後遺症患者が四一度で一〇分間、座位で温泉浴を行った結果、脳の血管を詰まらせる血栓を溶かす力が強まることが示された。また、脳血管障害後遺症患者に連日入浴を実施したところ、脳血流の改善が認められた。
また温泉浴の良眠効果は老年痴呆患者のQOL向上にも役立つ。要介護者の入浴は昼間行われるのが通常だが、高度のアルツハイマー病患者に夜間入浴を実施したところ、睡眠状態が改善し、攻撃性・興奮・徘徊などの症状にも改善が認められた。