百歳への招待「長寿の源」食材を追う:蝉退
中国は日本で食品としないものを巧みに薬食として利用している。恐れられている蠍(サソリ)はフライや煮付けに。鎮痛・リウマチに効果的という。食べるのに勇気が必要な気がするが、多くの中国人は平然と食す。蝉退(センタイ)も意外性が強いが、粥や薬茶利用で、比較的食べやすく、また飲みやすい。庶民的な薬食・薬飲である。
(食品評論家・太木光一)
蝉退(センタイ)は中国語で「チャンチュイ」と読み、日本語では蝉(セミ)の抜け殻を指す。中国では思わぬものが漢方薬剤や薬食に登場してくる。薬用としての蝉退には金蝉衣と土蝉衣がある。
前者は全身黄金色で透明で光沢があり、痩身で尾部に尖鋭な針状突起がある。後者は灰褐色半透明で光沢がなく、成虫脱出孔は縦横十字に開裂し、口器は内屈している。中薬店では金進・金蝉・隻進・只進などの商品名が付けられている。
金蝉衣は土蝉衣より高級に取り扱われている。主産地は山東・河北・江蘇・湖北・浙江・安徽・山西などの各省で、特に山東と河北は産量が多い。
日本では蝉の種類は多いが、市場品は通例アブラゼミの抜け殻を用いる。初夏に垣根や木の枝についている脱皮の抜け殻を採取し形を破らないよう日干しして製品とする。性味は甘にして咸(塩味)。その薬能はよく肺に入って開き、肝に入って肝を平らげ、風を散じ、熱を清す。
薬性論には小児の壮熱・驚癇を治し、渇きを止める作用がある。また『本草綱目』には「頭風・眩運、皮膚の風熱、痘疹のかゆきもの、破傷風および大人の失言・小児の噤風・夜泣き・陰腫を治す」とある。また次のような臨床的応用例がみられる。
(1)外観上の風熱、咳嗽あるものおよび蕁麻疹など
(2)咽喉腫痛および声がすれ症など
(3)眼の充血腫痛・白内障など
(4)破傷風・夜泣きなどに
主たる用途として風邪などの発熱や悪寒に解熱薬として用いるほか、蕁麻疹などの皮膚病には止痒効果がみられる。このほか数多くの薬剤に処方され主要薬剤となっている。代表例では蝉花散・蝉蛻散・五虎追風湯・快透散・五退散・蝉退膏など。
食材利用は薬粥と薬茶がある。
薬粥の場合は、夜泣き防止に蝉衣粥がすすめられる。中国では棗仁粥、生地黄粥、赤小豆粥もみられるが、蝉衣粥も効果的。蝉衣六グラム、うるち米三〇グラムを用意。蝉衣は頭と足の部分を取り捨て、水煎してこのエキスをとり、これでうるち米と煮て粥とする。これを二回に分けて、五日間連用する。
薬茶では蝉退茶と銀蝉茶がある。蝉退茶は蝉退を三グラム用意。これを水煎して一日数回に分けて飲用。宣肺透疹、特に小児の麻疹期に効果大。銀蝉茶は銀茶三グラム、蝉衣三グラム、緑茶、甘草各一グラムを用意。清熱解毒に最適だ。