だから素敵! あの人のヘルシートーク:美容研究家・メイ牛山さん

2003.01.10 89号 4面

美容業界実業家の草分的存在のメイ牛山さんは、今月92歳の誕生日を迎えられる。腰まである長い髪をきりりと結い上げ、頬はバラ色。姿勢のいい立ち姿は、とてもとてもその年齢には思えない。長年実行されているという美健食(美容健康食)を中心に、毎日の過ごし方を聞いてみたい。

私の一日はお日様とともにです。目覚めるのは4時頃。ベッドの中でラジオを聴きます。朝の番組は地味ながらためになるものが多いので、脳が本格的に活動する前のウオーミングアップです。6時に起き上がって窓を開けて軽く深呼吸、続いてストレッチ。それから顔を洗って髪の手入れ。頭全体をまんべんなくブラッシングしてマッサージ。地肌に刺激を与えると血液の循環も良くなって、脳もはっきり目覚めます。長い髪を結い上げれば、気分も引き締まり目もハッキリ、楽しい一日の準備完了です。

一日を四季に見立てて生活しているんです。「春」は細胞が目覚める時、午前4時から9時までの朝、だから朝ご飯は9時までに終わらなくてはいけません。私は8時です。「夏」は午前9時から午後3時まで。「秋」は午後3時から9時まで。「冬」は午後9時から。だから夕飯は9時までに食べ終わる。私は6時にはきちっといただきます。

11時には床について、すぐ熟睡。睡眠もひとつの栄養、上手に寝るのはとても大切です。私くらいの年になると五時間寝れば十分。でも若い頃、四〇歳くらいの時にはもうこのサイクルだった気がします。日中はオフィスにいるので、もちろん昼寝なんてしません。ぐっすり寝ることとダラダラ長時間寝ることは違います。ポイントは12時前に寝ること。夜の12時が一番身体が冷えるからで、この時間を過ぎるとかえって眠れなくなるのです。

食事は作ってくれる人がいますが、いない時は自分で作ります。お料理は大好き。好きになるには道具を揃えることね。私は包丁でも何でも自分専用があって、それは他の人には使わせません。仕事の化粧の筆もそう。人のクセがついたら困るでしょう。陶器に興味を持ったり、買い物も自分でして。

お料理自体は簡単でいい。手をかけ過ぎて、食材の影も形もないものはダメ。おナスだったらちょっと焼いて形そのままのものに、味噌か何かをつけて。旬の物をなるべく自然に近い状態、できれば生で食べる。生水をよく飲み、酸素のない加熱水分はとらない。塩気を避け、酢で味付けする‐‐なども実践しています。

また朝晩での食事内容に工夫する。朝は、主食という言葉があるようにご飯に重点をおいて、おかずは少なく野菜・海藻・果物などを。昼は朝をきちんと食べると身体が必要としないので、原則的には食べません。そのかわり野菜ジュースを飲みます。夜は朝とは逆に、デンプンはもう要らないからご飯はちょっぴり、副食に力を入れます。楽しく会食することもあるし、気楽に食べたいものを、けれど腹八分目でいただきます。

お正月のお供えは、お餅を二つ重ねて、それにウラジロとコンブと干し柿、さらにその上に橙。あれはね、お餅はデンプン、ウラジロは野菜、コンブはホルモン、干し柿はグリコーゲン、橙は胃液を表しているんです。油はありません。何にでも入っているから油として食べなくたっていいということ。お餅の比重が一番大きいのは、デンプンが一番大事だということを示しています。いまはそれが忘れられがち、ご飯はちょっぴりおかずをいっぱいばかりで。おコメを食べるのは太陽を浴びるのと同じで身体が温まる。若い人に冷え性が多いのは、副食ばかり食べてデンプンが足りないから。私は真冬でも冷たくて耐えられないなんてありません。おコメのデンプンがよく回っているからです。

女性はもともとデンプン体質のはず。豆類・カボチャ・サツマイモなどの芋類・ご飯が好きで、だから身体が柔らかくて子供が生める。ところがいまは女も男と同じような食事をします。男は本来筋肉質で、タンパク質を多く受け入れなければならない体質。昔の人はお魚一つでもタンパク質の一番多いお頭をお父さんに、としてきました。骨のない食べやすいところを子供に、お母さんは尻尾の方を、それでバランスがとれる。女が虐げられていたんじゃなくて、理にかなっていたんです。

こうした「美健食」を提唱している私も、ものすごく間違った食生活をしていた時代があるんです。いまから七〇年前に美容の事業を始めたので、徹底的に西洋かぶれしていて。

ハリウッド化粧品創業者の主人も、アメリカ生活が長くて肉食が好き、朝からハムエッグ、ご馳走といえば分厚いビーフステーキ。私もそういうものが栄養になるんだと思っていて、彼に喜ばれるようにタンパク質と脂肪がいっぱいの料理をせっせと作ってね。料理好きだから徹底的にやってしまった。そんな生活を続けていたので、家中の人の調子が良くなかった。主人は結核・痔・ぜんそくと病気の問屋の様、それでも戦後の日本復興と同時に、欧米の美容レベルに追いつけ、追い越せと精力的に働いていましたが。私も更年期障害みたいな症状が来て、階段を上がるのもおっくうで。子供たちも目が悪くなったり、背中にニキビがいっぱいできたり。

とうとう主人は六四歳の時、出張先のホテルで軽い脳卒中で倒れました。駆けつけて夜通し看病をしているうちに、我が家の食生活を改善しなければと考えたのです。その少し前に、自然食研究家である栗山毅一先生とお会いしていたのが幸いで、気づきがあり、改革できたのです。一三歳年上の主人は、その後七七歳で余命三ヵ月の膵臓がんの宣告をされますが、それも食事療法で乗り切り、九三歳の天寿を全うしました。もしその時の気づきがなかったらそのまま死んでいたかも分かりません。

我が家が肉食に傾倒していた頃、日本には素晴らしい食文化がありましたが、逆にいまの時代はあの頃の我が家のようで、私は危機感を覚えます。食事が変われば身体も変わる。性格も変わる。短気だった主人は食事を変えて最終的にとても穏やかな人になりました。三年で血液が、五年で細胞が、七年で脳が変わる。まず三年、そこでコロッと。それまでは良くはなっていても分からない。若い人の方が変わるのは早いですが、高齢の人でも同じです。生きていれば毎日変わっています。そのために食事をとっているんですから。

肌が綺麗? それはありがとう。美容学校をやっていますから、自分がお手本にならなければね。本当の美しさは健康でなければ得られません。健康だと肌が黒くならない。私、身体も白いんです。孫が「うわー、おばあちゃんの背中、きれいだね」と言います。

肌が綺麗、顔色が冴えている、それは血液が綺麗だということ。顔を見ればこの人は何を食べているか分かりますよ。昔から秀才は綺麗な肌をしてるでしょう。頭がいいからいい物を自然と食べて、頭に酸素をたくさん送れるからです。

本当の美しさを引き出すために、私が提唱しているのが「三大排泄美容法」。人間は生き物。みずみずしさやイキイキしていることは命の輝いている様子で、保つために手入れや手当、内と外から排泄をスムーズに行う。「外」は皮膚からの排泄。皮膚も呼吸しているので分泌物を出したりホコリなど外からの汚れもつきます。古くなった角質や化粧品を取り除いて新しい肌作りをする。たびたびの洗顔と一日一回以上の入浴を習慣にします。「今日はいいわ」と何もしないで寝てしまったりするのはいけません。洗うべきものは毎日洗って綺麗にする。「内」からの排泄は排便。内臓の動きを良くして血液を浄化すればスムーズになります。それから「暗い心」の排泄。暗いことに心を向けがちの人はどうしても暗い現象を呼び寄せます。マイナスの心を排泄すれば人相も良くなって、明るい運命を呼び寄せます。

動物は生まれた時にもらった毛皮一枚でずっと過ごします。季節によって毛が抜けたり生えたり、自然に任せています。人間は裸で生まれてきます。自分の力で綺麗にするのは当たり前、人間としての務めです。

特に女性はね。女が女であることを忘れて、朝起きた時のまま、不細工な顔をしていたのではいけません。年配の人も口紅をちょっとつけただけでも元気そうに見えます。常にそういう気持ちを持っていることが大事で、男と同じ考えになったら、自分の女性としてのホルモンが退化している証拠と考えて下さい。

ヘアメイクも大切だけど、それだけでは綺麗だということにはなりません。人のこと羨んだり憎んだりしていたら、長い間には顔がひん曲がってしまいます。心配事がある時も無理してでも「悪いものはみんな除けてしまって、いいものだけを吸収するんだ」と、大きく深呼吸する。「今日もいいことがある。健康だ。ありがとう」と。思うのは自由だから。悪い方を考えれば悪い方に変わるし、いい方を考えればいい方に変わります。目標を大きく持ってそこまで行こうと思っていたら、不思議なもので行ける。

私は「一〇〇歳まで生きるわ」といつも思っています。「早く死ぬんじゃないか」と悲観的に思っているよりもトクでしょう。そのためにはどうしたらいいか、研究もする。肌の手入れ・食べ物・睡眠などね。そういうことを研究した人はいままでいません。五〇歳ぐらいまでのものはあるけれど、一〇〇歳までのはないの。だから学問だけではダメで体験しながら勉強する、私のいまからの目標はそれなんです。

◆メイ牛山さんのプロフィル

1911年、山口県生まれ。防府市技芸女学校卒業後、上京。ハリウッド美容講習所に入り、美容家として活躍。39年、ハリウッド化粧品創業者の牛山清人氏と結婚、3児を設ける。現在、ハリウッド株式会社代表取締役会長。

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