だから素敵! あの人のヘルシートーク:女優・吉行和子さん

1996.06.10 9号 4面

今月の「あの人のヘルシートーク」はテレビはもちろんのこと舞台、映画など幅広いメディアで好演。また俳句やエッセイの執筆も手掛けるなど多彩な才能を発揮しているベテラン女優、吉行和子さんをお迎えした。吉行さんの食生活やお料理話に関しては様々な逸話が報じられ、話題をふりまいてきたが、本当のところはどうなのか? じっくりと本人にうかがった。

食事のことを考えるのが私にとって一番大変なことです。でも、ハードな仕事をこなす上で健康が一番大切だと分かっていますから、食事のことを考えるのがイヤだとは言ってられないですよね。料理はキライだけれど(笑)、栄養のことは考えてはいるんです。自分流ですが、これだけ食べれば何とかきょう一日元気で過ごせるんじゃないかと考えてメニューを作ります。それも人が見ると間違った栄養学らしくて、笑われてしまうんですよ。

私の料理の第一条件は、なるべく加工しないで口に入れる。だから野菜でもトマトとかキュウリとか、生で食べられるものが多くなってしまいます。何かを混ぜ合わせたり調理したりして料理を作ることは、自分の生活の中で皆無ですね。

家にヤカンがないとか、包丁がないとか言われていますがそれ、事実ですよ。

食生活に関して要らないものは一切置かない。あるのは鍋とフライパンとものを切るはさみ、それと小さなナイフだけ。台所はガランとしています。これは私が一人で住んでいるからできること。自分一人のことだからこれで十分なんです。

いまはコーンフレークに凝っているんです。それもいろんなものが一〇種類くらい入っているもの。牛乳をかけて食べればいいわよって友だちに言われて。朝あまり食べたくなくてもどんぶり一杯くらい、朝刊を読みながら食べるようにしています。もし朝にそれが食べられないまま一日バタバタ過ごして、夕方また何にしようかなという時はやっぱりコーンフレークを食べます。飽きないかって?飽きないですね。飽きるなんてぜいたくは自分には言わせないです(笑)。食べて元気でいなければいけないぞって自分に言い聞かせているんです。

この頃はもうやめましたけれど、健康食品というのか栄養補強剤みたいなものに凝っていた時期もありました。その頃、錠剤でこれだけ食べていれば栄養は満点だというのが流行ったんです。私も七種類くらい買ってきて試しました。一ヵ月くらい続けましたが、これはさすがにみじめな気持ちになって…。

最近でオモシロかったのは宇宙食。前菜からメーン、デザートまで全部宇宙食で揃っているんです。

デザートはイチゴの味だったり、メーンはビーフの味だったり。これもあまりにも味気なさ過ぎて結局三日でやめちゃいました。栄養はあるらしいんですけどね。あれは宇宙で食べるならいいけど自分の家で食べてもね。ぼろぼろしていて笑っちゃいました。少々手間をかけても普通の食べ物を食べるようにした方がいいなといまは思っています。

料理はダメですけど掃除や後片付けは好きなんです。お部屋やお茶碗がきれいになっていくのが嬉しいの。友だちのところでごちそうになっても、あとは私にまかせておいてとか言って後片付けをします。お友だちの富士真奈美さんは料理好きでマメにつくるんです。だから彼女が作って私が片付けるという役割分担ですね。

外で食べたり、よその家でごちそうになるとありがたみが本当によくわかります。

食べることはこんなに楽しいことなのかしら、この世にはこんなにおいしいものがあるのかしらとか、自分の生活とのギャップが大きいだけに感じます。

だからその時はしっかりと身体に喜びを与えながら食べますし、おいしいと思う気持ちも栄養にプラスされているような気がします。

一〇年位前に腎臓結石になっているんです。仕事が結構続いていてこじらせてしまいかなりひどい状態でね。結局手術して治したんですが、その時お医者さまが「腎臓結石は食べるものにはあまり関係ない。ただし、牛乳とチーズしか食べないような生活をずっと続けていたら石もできますよ」とおっしゃったんです。お医者さまはそんなバカなことをしている人はいないだろうと思ったんでしょうけど私はぎくっとしました。どうしてって私の生活をズバリ言い当てられたんですから。というのもおなかがすいたらチーズ、喉が乾けば牛乳という生活をずーっとしていたんです。それも栄養のことを一応考えてそうしていたんです。それだけが原因ではないでしょうけど、実際とても大きな石ができてしまって。さすがに反省しました。すごく痛かったから、二度とああいう目には会いたくないと思って、いまはワカメとかリンゴとか、他のものもいろいろ食べるようになりました。

ご飯とか、スパゲティーとか、うどんとか、そういう穀物類は栄養に何の役にも立たいないという考えが頭の中にあったんです。レストランに行ってもせっかくレストランに来たんだから栄養を取ろうとお料理は食べますが、パンなどには全然手を付けない。そういうものでお腹をいっぱいにしてしまうのもったいないと思っていましたから。でもやっぱりいろんなものを食べないといけいないみたいですね。

それで炊飯器というのを買って初めて自分でご飯を炊きました(笑)。味は「まあまあ」という程度でしたけれどね。

富士真奈美さんや岸田今日子さんに誘われて初めて句会に行ったんです。そのときは五七五くらいしか知らなくて、季語という言葉も知らないくらいだったんですよ。俳句は一つの思いを短い言葉で表さなければいけない。俳句というものに向き合い、普段の自分にない言葉を生み出さなければいけないわけでしょう。感覚、感性が揺り動かされる、何とかしなければいけないという思いになるんです。そういう時がすごくいい時間、新鮮な時間です。私は日常の何気ないことが俳句になるタイプではないんですね。一気に集中して作ります。

いつか恋する気持ちを歌ってみたいですね。気持ちはあってもなかなか難しい。ラブレター代わりに俳句を渡したことはないけれど、もっと若い頃から俳句をやっていたら、それで少しは収穫があったかもしれないですよね(笑)。

縁あって伊藤園さんの新俳句大賞の審査員をやっていますが、選ぶという作業は恐いです。一緒に審査している方の中には俳句のプロの方もいらっしゃるし、私の選ぶ句はとんでもない句かもしれないというような恐怖もある。自分でいいと思った句を選びますが、たまたまそれがほかの方が選んだのと同じだったり、「それはいいね」なんて言われるとすごく嬉しいんです。もう七回目の審査なんですけれど、いまだにドキドキしています。応募された方は一句一句真剣に作っていらっしゃるでしょ。その熱意を見逃しては悪いと思うからそれこそ真剣勝負です。

伊藤園さんの仕事に関わっているせいからだけでなく、私、缶のお茶ができたことによってどんなに助かったか……。というのは私の一つの伝説みたいになっていますが、お客さまにお茶を出すというのがとても苦痛だったんです。お茶というのはうるさい人もいるし、おいしく煎れなければいけないでしょ。私はお茶碗の中にお茶葉を入れて、お水を入れて、電子レンジでチンしてお出ししていたんです。それが評判になってしまって。私はお茶なんて色がついていればいいんじゃないかと思っていたんですけれど、お客さまからは「あの人はヒドイ人だ」っていまだに言われ続けています(笑)。

ですからこのお茶の缶が出て以来、そういう屈辱を味あわなくて済むし、安心してお客さまに出せるし、いまでは必需品です。それにお茶は身体にいいと信じているのでこれは良く飲みますよ。パチンと開けるだけですしね。

◆吉行和子さんのプロフィル

東京都生まれ。劇団民芸を経て、現在舞台活動はフリー。

「アンネの日記」(一九五七)が初舞台、その後舞台はもちろん映画、テレビで活躍。著書「どこまでやれば気がすむの」(潮出版)でエッセイスト賞受賞をはじめ、「兄・淳之介と私」(潮出版)など。7月2日からオンエアされる「ナースのお仕事」(フジテレビ、21:00~22:00)では婦長役を演じる。

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