外食の潮流を読む(14)銀だこのぶれない姿勢が企業価値を高めている

2016.07.04 448号 06面

 たこ焼きのチェーン化を試みたところは数多く存在する。それを「和風ファストフード」として唯一成功しているのが「築地銀だこ」(以下、銀だこ)だ。同店を展開するホットランド(本社=東京・中央区、佐瀬守男代表取締役)は全国448店舗を展開し(2016年3月末)、売上高309億4100万円、経常利益15億円(2015年12月期)、東証1部上場企業となっている。

 では、たこ焼きで和風ファストフードになれなかったところの要因は何だろうか。私は屋台を見ていて考えた。それは「モチベーション」というものであろう。シンプルな商品を365日作り続ける社員に、「私たちはお客さまの豊かな食文化に貢献します」と唱和してもらうことは多少無理があるのではないか。

 私は4月に同社社長の佐瀬守男氏にお会いする機会を得た。佐瀬氏の話は明快だった。店舗運営の内訳は4割が直営、運営委託が3割、そこから派生したFCが3割だという。運営委託からFCへの流れは社員独立オーナーへの道で、現在オーナーは70人、うち事業規模が大きいところは約40店舗を擁し年商20億円になっているという。

 店舗展開は商業施設内がメーンであったが、店舗拡大とともに都心が想定されていった。しかしながら、たこ焼き単品では家賃割れをしていたという。その中で取引のあるサントリー酒類販売の角ハイボール誕生60周年の節目を迎えて、角ハイボールを飲みながらたこ焼きを食べることを提案した「ハイボール酒場」を開発。この外食形態がたちまち大ヒットした。週に2~3回来店するリピーターが当たり前となり、この業態によって銀だこは歓楽街でも成立するようになった。

 若い女性スタッフがオープンキッチンに居て、時折童謡を元気な声で合唱する「コールド・ストーン・クリーマリー」(以下、CSC)というアイスクリームショップがあるが、2014年に同店をM&Aによって企業グループに入れた。同店を夏場に弱い既存業態と合体することで、売上げを通年安定させることができた。CSCは「働きがいのある会社」に3年連続選ばれたことがあり、このスタッフ教育の仕組みがホットランドの全業態に生かされるようになった。道理で最近の銀だこには若くて笑顔が素敵な女性スタッフが増えている。

 そして、パティシエの鎧塚俊彦氏率いるトシ・ヨロイヅカとパートナーシップを結び、今年からキッシュを販売する「キッシュヨロイヅカ」の展開を始めた。キッシュは形状もさることながら、いろいろな具材を載せて焼きたてを楽しむというパターンは、たこ焼きに通じるものがある。

 このようなホットランドの事業展開には全くぶれが見られない。シンプルなたこ焼きを常に磨き、その価値を高めるものを追求している。このぶれない姿勢が企業価値を高めていくのだろう。今、ホットランドのオフィスを訪ねると女性社員が目立っている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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