総点検–激震下の外食・飲食業 松屋フーズ「松屋(天丼)」
牛丼の「松屋」も天丼の「てんや」チェーンも、いわば和製ファストフードだが、どちらも「クイックサービス」「低価格商品」として消費者に支持されている。
しかし、“薄利多売”の商品特性から客数を多くとることが不可欠であるので、駅前や繁華街など人の往来が顕著な場所での立地戦略が主流で、このために物件取得の面で対立する関係にある。
本店出店にとどまらず、飲食需要に対応するということにおいては、弁当ショップやコンビニエンスストアの弁当販売とも競合、ライバル関係にあるので、牛丼や天丼チェーンにとっての市場戦略は同業態との競合に加え、年々厳しい状況になってきているのだ。
牛丼の松屋チェーン(本部東京・練馬区)は首都圏七八店、大阪九店の計八七店を出店しているが、三年後にはトータルで一八〇店と倍増する計画だ。
チェーン展開においては、この間にFC出店をすることも考えられるが、現在のところはFC出店の実績はなく、すべて直営方式での店舗展開だ。
「FCはコントロールしにくい面もあるのですが、物件活用の面で加盟を希望されるところもありまして、いずれは出店していかなくてはならないという考えです。今年上期内にどういうシステム、方針で具体化していくか、考えをまとめますが、年度内には一、二店出店するかも知れません」(松屋フーズ経営企画室長蔦井清弘氏)
店舗の出店については駅前の一等地が基本で、これは同業態の吉野家やダイエーのらんぷ亭、また天丼の大手チェーンてんやなどとバッティングする立地戦略だ。
一等地での出店では、出店コストも高くつく。松屋の標準的な店舗の大きさは二〇~三〇坪だが、平均的には一店舗あたり八〇〇〇万~九〇〇〇万円の投資を要する。
年間二〇店前後の出店ペースであるので、単純に計算すれば二〇億円近くの設備投資ということになるが、資金面については平成2年、東京証券市場に店頭登録をしたので、楽な状況になっている。
松屋は店舗あたりの売上げは標準的には年商一億二〇〇〇万円前後と設定しているが、これは吉野家やてんやとも同水準の売上げ規模だ。
税引き前利益は二〇~二五%の範囲。店舗運営は二四時間体制で、この点はてんやの営業政策とは異なっている。
吉野家はモーニングメニューとして、焼魚や納豆などの定食メニューを提供しているが、基本的には「牛丼」オンリーで、専門チェーンとしての運営に徹している。
これに対して松屋は、主力商品の牛丼に加えて焼肉定食やハンバーグ、カルビステーキ、豚生姜焼定食ほか、カレーライス、朝食メニュー(三種)なども提供しており、吉野家に比べバリエーションをもたせている。
メニューアイテムは約一五品目、価格は三五〇~六三〇円。メニューの拡がりは営業効率を悪くするが、“消費者第一主義”を掲げ、消費者の利便性に立ったメニュー政策を展開している。
「牛丼ばっかりは今回来店したお客は明日はこないかも知れません。牛丼だけでなくメニューにバリエーションがあれば、朝、昼、夜の食事ができますし、一週間通して利用することもできるわけです。そうしますと、来店頻度数が高まる可能性が大きい。もちろん、やみくもにメニューを増やせばいいということではありませんが、少なくとも学生や若い独身男性の食事ニーズにフィットすることは確かであると思うのです」(蔦井室長)
客単価は五〇〇円前後。客層は学生や若いサラリーマンが主体だが、ここ二、三年来は女性層にも来店動機を喚起してきている。
しかし、カウンター方式では女性客は入りづらいので、テーブル席を設け、内装の面でも女性の感性に訴えた店づくりを展開してきている。
(株)松屋フーズ
所在地=東京都練馬区下石神井四‐一‐七
設立=昭和55年1月
資本金=一二億七七九三万円
代表取締役社長=瓦葺利夫
店舗数=首都圏七八店、大阪九店
売上高=一一一億円(平成6年度)