伝統銘菓をロールケーキにしたら入手困難なほど大ヒット、進化する佐賀の和菓子屋
佐賀県で長年愛され続けている菓子に村岡屋の「さが錦」と鶴屋の「元祖丸房露」がある。いずれも歴史ある伝統銘菓であるが、近年その伝統を踏襲しつつ新しい視点で開発した新商品が発売され話題となっている。それぞれ異なる視点から伝統銘菓をアップデートさせた成功事例を紹介する。
40年前に誕生した「さが錦」の特徴を生かしアップデート
さが錦は軟らかい生地に山芋を練り込んでふんわりと焼き上げた「浮島」と呼ばれる和菓子を美しい層をなすバウムクーヘンで挟み込んだ和洋折衷の銘菓である。佐賀の伝統工芸品に指定されている織物「佐賀錦」をイメージして約40年前に生み出された。
さが錦の特徴はふんわりとした口当たりの浮島と美しくきめ細かい層を織りなすバームクーヘンのコラボレートによる独特の食感と味わいである。「さが錦ロール」はこの特徴を余すところなく受け継いだ商品となった。
2018年11月より発売が開始され、またたく間に人気商品となった。手作業かつ少人数での製造のため本数が限られていることもあり、店頭に並ぶとすぐに売り切れてしまうほど入手困難の大人気商品である。
さが錦の味を形作る浮島とバームクーヘンはそのままに、洋生菓子に合うように厳選された生クリームを材料にプラス。浮島はロールケーキ専用の生地を新たに作ることで、さが錦本来の軽い口当たりを損なうことなく仕上げられている。
昔から受け継がれてきた製法を踏襲しつつも洋生菓子というまったく異なるジャンルの菓子として生まれ変わらせたさが錦ロール。伝統銘菓をアップデートするためのひとつの提案といえるだろう。
元祖丸房露はそのままに新たな楽しみ方を提案
佐賀県佐賀市を代表する伝統銘菓「丸房露」を、さが錦ロールとはまた異なる視点からアップデートさせたのが2017年6月より発売開始されている「丸房露のための」シリーズである。
2017年6月に第1弾として「丸房露のためのアイスクリーム」が発売され、続いて同年12月に第2弾「丸房露のためのマーマレード」、そして2018年6月には第3弾「丸房露のためのアイスクリーム 佐賀県産焙じ茶使用」と立て続けに販売を開始し、好評を博している。
「丸房露のための」と冠されているように、それぞれの商品は元祖丸房露との相性を考えて製造されている。太良産のクレメンティンや嬉野産の茶葉など材料に佐賀県特産品を使用するこだわりも。
さが錦ロールとの大きな違いは、丸房露そのものではなく丸房露の新たな一面を引き出す商品を開発したという点である。
すでに完成されている元祖丸房露の味そのものを変えることは難しいが、新たな一面を引き出すための商品を新たに開発することで元祖丸房露をより魅力ある商品にアップデートさせた。
柔軟な視点をもつことでブランドをより魅力的にする新商品の可能性が見えてくる
さが錦ロールはさが錦の特徴と製法、丸房露のためのシリーズは丸房露本体のおいしさをさらに引き出す付属品に着目することで生まれた画期的な商品だ。
すでにブランドが確立されている伝統銘菓から生み出された商品は話題性もあり、長年愛されてきたブランドをより魅力的なものにするだろう。それは今回挙げた商品がヒット商品となったことからも伺える。
伝統銘菓は「完成形」ではない。伝統は柔軟な視点でもって進化させていくことでより輝きを増していくことだろう。(フードライター 岩橋弘典)