愛知イチジクは惣菜にも、栄養士が見る「不老長寿の果物」のポテンシャルの高さ

イチジクは7月ごろから旬となり11月ごろまで目にする人気の果物だ。人気の理由はおいしさはもちろん、健康をサポートする栄養素の豊富さや料理での汎用(はんよう)性の高さもあるだろう。イチジクの生産量のトップ愛知県では郷土料理にもイチジクが登場する。今回はイチジクの栄養素、メニューに生かせる調理例、ブランド力強化に力を入れる愛知県の試みを紹介したい。

愛知の郷土料理いちじく田楽

糖度は12度から20度まで品種によって異なるものの、安定した甘さのあるイチジクはデザートで使われる傾向がある。しかし、タンパク質分解酵素のフィシンや、適度な酸味は惣菜にも活躍する要素だ。

愛知県の郷土料理に「いちじく田楽」という料理がある。一般的な田楽と同じく、甘い田楽味噌を塗って焼く料理である。イチジクは加熱することでねっとりとした濃厚な甘さを感じやすくなる。そこに、コクの強い味噌がよく合う。果物でも酸味が強すぎると田楽には向かないだろう。

いちじく田楽

しっかりとした甘さがありつつ適度な酸味があることで、さまざまな料理に展開が可能である。白和えや天ぷらなどでも非常においしい。イチジク独特な味わいが洋食はもちろん和食ともマッチングし、上品な仕上がりになる。さまざまなメニューで展開が可能だ。

生産量トップの愛知はブランド力を強化し輸出も

JAあいち知多は国際空港セントレアから15分という近さを生かし、2018年から香港への本格輸出を開始している。イチジクは香港では高級食材として人気が高いものの、貯蔵性の低さが難点の一つだった。

そこを地の利を生かしてカバーしたのだ。2年の試験的輸出を経てからの本格始動である。香港ではデモの関係で一時停止していたものの、8月19日には再開し昨年の3倍の輸出量となる見込みだ。

知多のいちじく

6月2日に愛知県尾張旭市で開催された全国植樹祭では「朝採り完熟いちじく」が提供された。朝採り完熟いちじくは生産量1位の愛知県内においてさらに差別化を図るため完熟にこだわった糖度の高い一品。試行錯誤を経て、今では尾張旭市での特産品となったものだ。

全国植樹祭では、朝採り完熟いちじくを使用した、焼き菓子やわらび餅、イチジクのワインなど、さまざまな展開でブランド力強化に力を入れた。天皇皇后両陛下の即位後初の地方訪問となった植樹祭は大きな盛り上がりを見せた。

イチジクには栄養に良い成分が満載、酵素のフィシンも見逃せない

栄養に良い成分が豊富なイチジクは、「不老長寿の果物」などとも呼ばれる。旧約聖書にも出ているほどに古くから食べられており、世界中で親しまれている果物だ。日本では、江戸時代に伝来しており、当時から体に良いことは知られていた。

イチジクに含まれる栄養素は、カルシウムやマグネシウム・食物繊維・ペクチン・ポリフェノールなどを挙げられることが多い。カルシウムだけではなくマグネシウムも豊富に含むことはイチジクの魅力の一つだ。

現代人のカルシウム不足は常に言われていることながら、なかなか安定した摂取が難しい。カルシウムはマグネシウムと一緒に摂取することで吸収率が上がる。どちらも豊富に含むイチジクは効率よく摂取することができる利点がある。水溶性食物繊維のペクチンも多く含まれることから、整腸作用にも有効である。

「不老長寿の果物」と呼ばれるイチジク

そして酵素のフィシンも見逃せない。ミネラルや食物繊維といった成分の周知はされているものの、フィシンに関する話題は控えめだ。しかしタンパク質分解酵素であるフィシンは消化を助ける働きがあるだけではなく、料理でも活躍する。肉を柔らかくしてくれる作用があるため、肉料理との相性が良いのだ。

ポリフェノールには抗酸化作用があることで、アンチエイジングにも有効である。さまざまな成分を含むイチジクは不老長寿と言われるだけの理由があり、それは使いやすい訴求点の一つとなっている。

さまざまな要素で伸びしろが見えるイチジク

安定した人気の高いイチジク。生産量の多い愛知県内でも差別化を図ることが総合的なブランド力強化へつながっている。栄養素の豊富さや料理への汎用性、さらに強化されるブランド力や海外への進出など、まだまだポテンシャルを高さがうかがえる。

同じく生産量の多い和歌山県や兵庫県でも多くの試みが盛んに行われており順調だ。まだまだ伸びしろのあるイチジクは、これからも注目したい果物の一つだろう。(栄養士ライター 瀬山野まり)

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