タピオカは本当にインスタ映えなのか?「いまどきの若者にウケる食」のポイント

2019年に若者にはやった食といえば、「タピオカミルクティー」に尽きるだろう。夏にかけて出店ラッシュだったが、その流れは都内だけでなく地方へも広がった。タピオカは第3次ブームと言われたが、これほど広域に広がるとは、はやり初めの頃は予想する人は少なかったように思う。

はやる商品は世相をあらわす

若者にウケるか、ママ層にはやるか、男性なのか、女子なのか…。客層によって、はやりのベクトルは異なる。タピオカは、仕掛けは大人から。そこに若者が食いついたので、企業が便乗していった形だ。

「タピオカミルクティー」は、今の若者にウケる要素にあふれている商品だった。売れるべくして売れたと感じる。次の若者にアピールする商品を考える時に、タピオカの事例はヒントになるので、あらためて「タピオカがなぜ若者に受けたのか」再確認しておくことも良いだろう。独自の目線で検証してみた

今の若者にウケる要素にあふれているタピオカミルクティー

本当にタピオカはインスタ映えするのか?

タピオカミルクティーがはやった理由に、必ずといっても挙がるのが「インスタ映えするから」。本当にそうだろうか。最近はフルーツソーダに入れるなどバリエーションも増えて色鮮やかになったが、ミルクティーの色はもともと地味な薄茶色だ。

加えてタピオカはミルクティーに紛れて見え隠れするくらいだし、色も黒。トッピングといってもモリモリにするわけにはいかず、カップからはみ出ることなくおとなし目で、いたってシンプル。インスタ映えではやるのであれば、モリモリのカラフルパフェの方が映えそうではないか。

映えると思っているのは、カップの絵柄がかわいかったりするからに過ぎない。商品ではなく、インスタ映えを意識したパッケージに頼っているともいえる。

ただ、タピオカミルクティーのインスタ映え要素はある。それは画像の大きさにスッポリ全体像が収まること。さらに、自撮りが可能。カップと自分が同じ画面にスンナリ納まるので、そういう意味では映えるといえるかもしれない。

人気タピオカドリンク専門店前には若年層を中心とした長蛇の列ができる

かんで疲れない回数は5回まで?

他にも人気の理由はたくさんある。なんといってもタピオカの食感だ。キャッサバのイモのでんぷん質からモチモチした食感が楽しめる。「もちもち」が彼らは好きだ。この食感は、現代の若者の大好きなグミの食感に似ているのだ。

では、モチモチが好きなのなら、お餅も好きかといえば、さにあらず。若者はかむことが苦手になっている。もちは少なくとも10回近くかむ必要がある。口の中でいつまでも残り、飲みこみにくい。

しかしグミにしろ、タピオカにしろ、かむ回数が5回以内で、口の中で自然に溶けていく。「かんで疲れないのは5回まで!」という卑弥呼の時代には考えられない回数でないと、現代の若者は受け入れてくれないのだ。

タピオカミルクティーが若者に与える安心感

「わかりやすさ」は若者への訴求には絶対に大事だ。昭和の時代は「ナタデココ」にしろ「ティラミス」にしろ、「何それ?食べたことない!」という未知の食べ物がウケた。知らないものを知りたい!という欲求があふれていたのだ。

しかし現代はむしろ逆だ。タピオカは以前もはやっているので、なんとなく知っている。さらにミルクティーは知らない人はいない。目立つ素材は、基本的にその2つだけなのだ。なんともわかりやすい。その安心感は現代の若者には必要だと筆者は考えている。

将来が見えにくい現代において、「確実性」はスイーツといえども、必要とされている。そういう意味では、ワンコインといった万が一無駄になっても痛くない金額のギリギリのところをタピオカミルクティーは提示してくれた。若者でも手の届く価格帯であることが、成功した大きなポイントのひとつだ。食のヒットを見れば、世相も見えてくるのである。

スシローで7月に数量限定発売された「光るゴールデン『タピオカミルクティー』」

タピオカミルクティー人気が続くには楽しみが必要

人気が長続きした理由の一つに、リピーター率の高さがある。タピオカミルクティーが好きな人は、多くの店を巡っていた。各店舗に個性があったことに加えて、「カスタマイズできる」ことが、飽きさせないことにつながったと考えている。

前述したように素材はミルクティーとタピオカといういたってシンプルな2種。そこに多くのトッピングや、2種のうちのミルクティーを別にするなど、「わかりやすい中で、自分好みにアレンジできる」のが良いのだろう。あまり複雑すぎても逆に飽きられてしまうのだ。ほどよいカスタマイズが、買い手の自尊心を満足させてくれているのだと考えている。

自分で手作りもできるタピオカミルクティー

タピオカミルクティーは飲み物か?食べ物か?

タピオカミルクティーは、現代の簡便志向を見事に満足させてくる商品だった。まず、ハンディー。「スマホを外すことなく片手で食べられるスイーツ」というカテゴリーの存在価値を確たるものにしたといえる。

そして、果たして「タピオカミルクティーは食べ物なのか?それとも飲み物なのか?」

おそらく昭和世代の人間は、「もちろん、飲み物」と答えるのではないだろうか。しかし若者の中には「今日の始めてのご飯」などと表現して、タピオカを「飲む」。実際に1杯飲むと、私などはお腹にズッシリとたまる。

一度で飲み物と食べ物が兼ねられている。わざわざ別にドリンクをセットとして買う必要はない。お茶プラススイーツという昔からの定番の図式を、タピオカミルクティーは一つにまとめてくれて、かつ、片手で歩きながら、移動しながら楽しめるのだ。

そしてフォークもスプーンもいらない。飲むだけで良い「スイーツ」なのだ。昭和を知っている私は、やはりスイーツはカトラリーを使って落ち着いて食べるのが王道と思ってしまうし、タピオカで一食代わりとするのは、栄養バランスからいっても生活習慣から見てもギモンが出てしまう。しかし時代とともにヒットする食は変化するのも“王道”なのだ。

ほかにもまだまだタピオカミルクティーの若者訴求の要素はたくさんある。いつの時代にも彼らが笑顔で食を楽しんでくれることが、一番筆者の望みでもあり、そういった商品作りをこれからも手伝っていきたいと思っている。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)