松屋の攻める新メニュー「シュクメルリ」がウケる理由は
大手牛丼チェーン松屋の新メニュー「シュクメルリ鍋定食」がネットなどで評判だ。聞き慣れないこの料理は、ニンニクとチーズを合わせたホワイトソースで鶏もも肉を煮込んだ、ジョージアの郷土料理。シチュー感覚で現地では食べるのだが、松屋では鍋定食としてサラダと味噌汁、ご飯がついて790円(税込み)、サラダ抜きを730円で販売している。テークアウトの場合は味噌汁なしで同価格であるため、このメニューに関しては店内喫食率が高い。鶏肉、そしてホワイトソースということで、松屋としては攻めのメニューと言えるだろう。ある意味、「突飛」な印象もあるのだが、なぜこのジョージア料理がウケているのだろうか?
東欧ジョージアならではの融合な味わい
ジョージアは、ロシア、アジア、欧州、中東に隣接した東欧にある。シュクメルリも、全ての国の食材を融合させた印象がある。
ロシアは免疫力アップに良いとされるニンニクを大量に消費する国だ。極寒に負けない免疫力をつける食生活をしている。ホワイトソースは、欧州の定番ソースであるし、体を温める効果もある。また、本場のシュクメルリはスパイス使いにも特徴があり、中東、アジアの香りもあり、チーズを合わせるのも4ヵ国に通じている。
ジョージアでは、各店や家庭によって味に個性があるとされる。以前、ロシア料理店で食べたことがあるが、ソースの濃度や肉の煮込み方など松屋とも全く異なっていた。
ウケるポイントは「白」の擦りこみ
さて、松屋である。まず店頭バナーは目立つ。聞き慣れないネーミングとともに、「色」だ。牛丼店のメニューの色は、全体に赤系統にまとまってきた。牛丼の茶色、カレー、ハンバーグや朝定食のサケ、キムチ、納豆、味噌汁も茶系だ。主たるメーンディッシュになるメニューはほとんど茶と赤系で、店のイメージカラーも暖色系だ。そこに入るシュクメルリの「白」は目立つ。
そして、やっぱり「わかりやすさ」がある。以前のタピオカドリンクのコラムにも書かせていただいたが、今はわかりやすい食品がウケる傾向にあると筆者は思っている。
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シュクメルリのネーミングはわかりにくいのだが、中身は、鶏もも、ホワイトソース、チーズ、ニンニクで、誰しも馴染のある食材ばかりなのだ。寒空の下、この中身を知ったら、それだけで「暖まりそう」なイメージが脳にビビッと響いてしまう!(笑)
また、ホワイトソースやホワイトシチューを使った料理をメーンディッシュとして外食で出している店は、どちらかというと客単価が安くない店の傾向にある。白身魚のクリーム煮や老舗洋食店のクリームコロッケなど。1000円以下の定食では珍しいだろう。700円台で味わえるプチグルメ感が客の心に響いたと感じる。
「世界一にんにくをおいしく食べるための料理」というキャッチコピーも後押ししている。「○○1位」という日本人が好きな順位づけと中身のわかりやすさによって、食べたことがなくても「これなら大丈夫!」という安心感を与えたと感じる。
松屋ならではの安心感は味噌汁に
次の牛丼店の「松屋らしさ」に目を向けてみよう。筆者は地味で目立たない“味噌汁”が重要ポイントだと思っている。
「鍋に味噌汁はいらないのでは?」という疑問も出そうだが、これによって、松屋らしい安堵感につながったといる。実際にシュクメルリは、間に味噌の味を入れることによって、口の中がリセットされて味覚的な面から見ても、食べ進めやすいといえる。
松屋のシュクメルリはサツマイモがゴロゴロ入っていてボリューム感を出し、原価を抑えるとともに、ニンニクの臭みを緩和することにもつながっている。日本人好みのシュクメルリになっている。
ジョージアの大使館の人の評判も良いと聞く。何よりもジョージアという場所を多くの人が知るきっかけになったことは間違いないだろう。海外旅行をしない若者の問題もある昨今、外食メニューによって国際交流の一助につながるならば、食文化のあるべき姿であろう。
今後も松屋は世界の料理でメニュー展開をしていくそうだ。次はどの国の郷土料理が出るのだろうか。(食の総合コンサルタント小倉朋子)