だから素敵! あの人のヘルシートーク:赤坂離宮総料理長・譚彦彬さん

1997.04.10 19号 4面

今月のヘルシートークのお客様は、メイン特集の東洋医学・漢方・中医学にちなんで、NHK「きょうの料理」の講師でもおなじみ、中国料理の第一人者、譚彦彬(たん・ひこあき)さん。インタビュー、日常の食事に“医食同源”思想を盛り込む中国料理と、病気を治すための“薬膳”的な料理の違いも分かりやすく解説してくれた。気候の不安定な春、身体の調子を整えるための食材、メニュー。生活習慣に取り入れればいつでもヘルシーな、広東風美人粥のレシピ。“医食同源”をもっと知りたい人、必読だ。

薬膳料理と普通に食べている医食同源という発想の中国料理、これは正式には別物なんですよ。本当の薬膳料理は、中国でも香港でもそうですが、ちゃんと専門店があってそこに医者がいて(患者さんを)診察してその人の症状に合ったレシピを作る。それに基づいて料理をこしらえるというのが薬膳料理屋さんです。つまり病気の身体を治す料理なんですね。

それに対して私たちがやっている普段の医食同源というのはね、春夏秋冬それぞれの季節に心配される病気にかかりにくくする料理です。漢方薬を材料に使ったとしても、村々や家庭ごとに分量や扱い方が違う。

それでも、こういう風に煮たり炊いたりするといまの季節の身体のために良いという、そういう医食同源の考え方が入っているんです。とくに広東料理はその発想が強いですね。

具体的には、秋から後の季節の一冬越すための料理、それから春の料理、夏の料理、大体この三つに分けることができます。秋には、ヘビとかトカゲや犬、こういう動物たちが皆太ってくるからそれを食べれば、自分たちも一冬越せる体力を蓄えられる。漢方薬としては、滋養強壮の朝鮮ニンジンとか。乾燥した空気の中、咳止めに効くクレソンをスープにしたりね。

そして春になったら、冬にたまった油とか濃くなった血を落とし、血液をきれいにする役目のある食材を食べます。春の野菜類全般、新芽に豆類。そういう物を食べると身体が活性化して軽くなります。

さらに夏に向かう季節になれば、今度は汗をかいて身体内の塩分が流れ出るので、そのバランスをとらなくてはならない。野菜ではトウガンとかウリ、肉としてはカエルなどを用います。これらを食べると新陳代謝によって尿がたくさん出る。夏バテ防止の秘訣です。

いまの季節、身体の調子を整えるのにピッタリの料理ですか?

これは何よりまず春の野菜。サヤエンドウの芽やソラマメ、アスパラ、タケノコ、ヤマイモ。トウモロコシもそろそろですね。あと、春から夏にかけてはショウガのいっぱい入った料理、これがいいです。秋から冬にかけてはニンニクだけど、春から夏はショウガ。

新ショウガと鶏肉の煮込みなんていいですね。鶏のもも肉に薄く下味をつけ、油通ししておいて、ショウガとネギを香りが出るまで炒めた鍋に入れる。スープを入れて一○分ぐらいおいてそっとアクをすくって。スープがなくなってきたら片栗粉でかためる。味つけはしょう油とコショー、砂糖をちょっとだけ。向こうでは、ショウガを薄く切らないで、ブロックのまま、新ショウガならばタワシで洗って皮をむいただけで使います。ショウガも鶏肉も大きなまま、ハチミツだけで煮込むんですが、これは日本人には甘過ぎるかもしれませんね。アレンジした最初の料理法のが人気があります。

広東料理は、なるべく油を大量に使わないようにするのが上手に出来るコツです。使う油は植物油がいい。香港ではピーナッツ油を使います。切れがよくて炒めやすいですから。日本ではちょっと高いので、普通の大豆油でも十分です。

この植物油を使って強い火力で一気に炒める、そうすると結果として少ない油量ですむ。こういう調理法が得意なので広東料理はヘルシーということになるんです。野菜を炒めても、具を炒めても魚を炒めても、そういう風な調理法なら油が少なく仕上がる。

それからもうひとつ。タレ、スープを少なくすることも大切です。スープが多いと重たくなってヘルシーでなくなってしまうので。そのためには、たとえば野菜炒めなら野菜をサッと七分通り湯通しして下ごしらえをしておく。タレはタレで少なめに作り、フライパンにショウガを一枚入れて風味がついたら湯通しした野菜を入れて、タレをサッとからめて仕上げる。そうすると簡単にタレの少ない炒め物が出来ます。普通の方法、鍋に油を入れて野菜を入れてスープを入れて、煮詰めながら味を調整して、片栗粉でまとめる……こうするとどうしてもカロリーが高くなってしまうんですね。

ヘルシーな食生活としては、朝食のお粥習慣もお勧めです。消化がよく、胃にもたれないですから。作り方は別に難しいものではありません。ただ時間がかかるだけなんです。分量さえ覚えて、前の晩に準備しておけばね。広東料理のお粥が日本のお粥と違うのは、コメを花が開いたような状態まで炊くこと。ご飯粒が残っていてはいけないんです。そのために、コメを洗ってザルに上げ水を切ってから、油を薄くまぶして三○分置く。こういう下ごしらえをします。それを大量のお湯、大体二○倍くらいのお湯の中に入れます。寸胴鍋で炊く場合は、四時間以上、できれば六時間くらい炊くとおいしいお粥になります。いまの炊飯器はお粥を炊く機能がついているのもあるので、それを利用すればもっと簡単ですね。

おかずは、前日の残りに手を加えたものや漬物など、何でもいいです。しょう油ダレをちょっと用意すれば完璧ですね。

横浜は中華街の生まれです。私たちの時代は、同級生の三人に二人は中国料理のコックになっています。中華街の歩き方、買い物の仕方のポイントですか? いまは日本の普通のスーパーでもオイスターソースとか豆板醤とか置いてあるからどうでしょうか。

ああ、それでは塩卵なんかは面白いかもしれませんね。ピータンの隣りにまっ黒いタドンみたいな卵があるでしょう。あれです。アヒルの卵を一ヵ月くらい塩漬けにしたものですね。ただボイルして食べてもいいけれど、これを使って野菜スープを作れば塩はほとんどいらない。ハンバーグに肉と一緒に使ってもね。

ちょっとした中国料理を家庭で作ることがすごくポピュラーになってきたこと、嬉しいですね。何といっても中国料理は医食同源の考え方、その食べ物が身体にとって有益かどうかを第一に考える料理ですから。新しい食材探求なども心掛けられると、もっと楽しいと思います。

●譚 彦彬(たん・ひこあき)さんのプロフィル

一九四三年、横浜生まれ。中華街で育ち一六歳で新橋の「中国飯店」の見習いに。芝「留園」「仙台ホテル」、名古屋「御園飯店」、京王プラザホテル「南園」、ホテルエドモント「廣州」など数々の老舗で料理長などを歴任し、九六年、「赤坂璃宮」総料理長に。その素材が持つ本来の味を生かし、健康に留意したあっさりとした味つけと、豊富なバリエーション、美しく盛りつけられた個性的な料理で、多くの食通を魅了する。

赤坂璃宮 東京都港区赤坂二-一四-五 プラザミカドB一F TEL03・5570・9323

美人粥

●材料(4人分)

米 75g

干し貝柱 2個

サラダ油 小さじ2

1、米を洗ってザルにあげ、水を切る。米にサラダ油をまぶして1時間おく。油がしみ込 んで、炊いたとき米が割れ破裂するようにするため。

2、寸胴鍋に3lの水と米、水洗いして砕いた干し貝柱を入れ、強火にかける。沸騰した ら中火にしてふたなしで炊く。

3、3時間ぐらいたつと水が半分になるので、弱火にして底が焦げないように、ときどき 木しゃもじでかき混ぜ、4時間以上、できれば6時間ぐらい炊く。

(「譚料理長のチャイナ・パーティ」から)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

関連ワード: ヘルシートーク