滋味真求:馬場本店(千葉県佐原市) 伝統を誇る最上白味醂

1997.04.10 19号 18面

関東で唯一、国の文化財保護審議会から重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けた水郷・佐原市に、三○○年の伝統を誇る「馬場本店」という酒造りの名家がある。

この店には、地元米と佐原洪積台地から湧き出す地下水で仕込まれた「雪山」といううまい清酒があるが、それだけでなく「最上白味醂」がすこぶるうまい。「味醂(みりん)がうまい」などというと、えー、なんで? といわれる向きもあるが、酒で酒を造る、つまり仕込み水の代わりに酒を使うわけだからまずかろうはずがない。

中国老酒の善醸酒や、ワインにブランデーを加えるスペインのシェリー酒、そしてわが国の味醂。ともに酒で造る贅(ぜい)沢な酒である。今日では味醂は料理の脇役のように使われているが、昔は女性や下戸の酒として、夏場は焼酎と合わせた本直しとして愛用されたものである。

十四代目の当主である社長の馬場光夫さんにうかがうと、この「最上白味醂」は江戸時代と変わらぬ製法で醸造している手づくりの味醂とのこと。

地元で有機栽培したもち米を蒸し、手作業でこうじ米と混ぜ、五年物の五○度の米焼酎をベースにしてタンクに仕込む。期間は約五○日間。この間、昔ながらの味醂特有の深みある甘みを出すため、タンクを炭火で保温し続けるそうである。以前電熱で保温したところ、味醂の味を損ねたので、いまは手間ひまかかる昔ながらの炭火で保温する。

成熟した味醂は酒袋に入れて搾り、加熱、ろ過などは一切せず、生のままビン詰めにして出荷される。市場に出回っているほとんどの味醂は、加熱、ろ過されているが、生の味醂というのは得がたいものである。

馬場社長は農大の醸造学科出身の学究肌の方であるが、昔ながらのご先祖の手法を、かたくなに守っている姿勢に伝統の重さを感じる。

この「最上白味醂」だが、このまま飲んでもうまいが、煮物、焼き物のほか、砂糖を隠し味に使う中国料理の青椒肉絲や酢豚、韓国焼き肉のタレなどに用いると、照りや風味が一段と増して、「お料理上手」と評判の上がること請け合い。

佐原は、いまでは水郷で香取神社のある町、という程度の認識だが、江戸時代は利根川水系の水路を利用して、船で江戸まで一昼夜という利点を生かし、地元や東北仙台藩の運用米輸送などで大いに栄え、江戸後期には、東海道の品川新宿と人口が同じ、といわれたほど繁盛した町である。

このような環境のため、もち米や焼酎を用いて醸造する贅沢な味醂が今日まで伝承されてきたのだろう。明治維新の徳川方の立役者である勝海舟が、幕府再興の資金依頼に来て、当店に一カ月も滞在したとのこと。それだけ当店の清酒、味醂は江戸城内や府内の裕福な町人、料理屋などに愛用されていたのであろう。

当店の最上白味醂や清酒は佐原市内始め近郊の酒屋でも求めることができるが、申し込めば直送してくれる。最上白味醂一・八lびん=一八○○円。一lびん=一○○○円。六○○mlびん=六四○円。二本、三本入りのカートンもある。ほかに吟醸酒、蔵出し原酒などの銘酒もある。送料などは問い合わせのこと。

所在地/千葉県佐原市佐原イ、六一四。FAX0478・52・3718。交通/東関東自動車道・佐原インター下車七~八分。JR総武本線佐原駅下車。

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