トレーは回る・・・環境も回る・・・そのトレーはここに到着

1998.09.10 36号 6面

食材であろうと惣菜であろうと毎日の食卓のための買い物をすれば必然的についてくるもの、それがあの発泡スチロールトレー。ほかの素材のものを含め容器包装廃棄物が全体のゴミの中で占める割合は、重量比ならば4分の1であるのに容積比では約6割を占めるという。要するに“かさばる”、これがゴミ問題、環境問題の大問題となっており、何とかしようとして施行されたのが「包装容器リサイクル法」だ。とはいっても一般の生活者の目にふれるのは、あの“回収ボックス”(28面参照)だけ。回収の先はどこに行くのか、リサイクルといっても何にどのような方法で行われるのか。本紙調査班は回収車に乗り込んだ。

「大きな声では言えないけれど、せっかく洗って持ってはいくものの、このトレー、本当にリサイクルなんてされるのだろうか。それは少しはあるだろうけれど…」。

どうしてそんな考えを抱くのか、調査班は自分なりに分析してみたところ、(1)トレーが入っていた食材を購入した店舗に持っていく訳ではないし、誰が責任を持つのか(2)色や形、素材など、種々雑多な物が混在しているので判別できないのではないか(3)コスト的にどうみても合うはずがない(4)各家庭別に洗って持ってきたものなんて衛生上大丈夫なのだろうか‐‐こんな気持ちが胸に渦巻いているからのようだ。

しかし、取材を依頼した相鉄ローゼンたいら店(神奈川県川崎市)にやってきた車を見てまずひとつ大きな思い違いをしていたことがわかった。やってきたのは回収の専門車ではなく、容器メーカーの(株)エフピコの製品配達車だったのだ。回収というからにはゴミ回収のようにその業務を専門にして回るスタイルを訳もなく想像していたが、まずこれから新しく使う製品を納めその代わりに使用済みトレーを積み込む交換方式となっていた。

それからもう一つの発見としては思いのほか、各家庭から回収されたトレーがきれいだったことだ。

車はこの後、スーパーと包材問屋(同じようにスーパーなどに納品した帰り便を利用して回収した使用済みトレーを一時保管している)、学校(これは回収のみ)数カ所を回り、一路、茨城県猿島郡にあるエフピコの関東リサイクルセンターに向かった。

発泡スチロールのリサイクルのみを手掛けている工場は、あった。エフピコには全国に同様の工場を七カ所持ち、リサイクル法以前の平成2年からすでにこの作業を展開しているという。

ここでの作業はまず、リサイクルが可能なものとそうでないものの選別から始まった。プラスチック樹脂は図Aのように七つに大別されており、発泡スチロールトレーは6のポリスチレンにあたる。

発泡スチロールの中でも、魚箱や家電製品などのパッキンに使われているものは発泡率が高倍の違う分野の製品であるため、これは除外する。

「塩化ビニール系のもの(卵のパック)や、ポリエチレン系のもの(マヨネーズの袋など)を人の目で見て区分けします。適用範囲のものでもバーコードなどが直接書かれているものやしめじの容器のようにラップ部の糊づけがあるものは、異なる樹脂が混ざることになるので外します」(エフピコ・高橋和男取締役関東工場長)。

他社製品も、色付きのものも、原材料としてはなんら問題なく使用できるそうだ。

けっこうな速度の流れのラインの中で選別作業が行われていく。スーパーなどを通し「こういうものだけ集めて下さい」という消費者への連絡もずいぶん行き届いたことがあり、回収されてくるものの大体九四~九五%が、リサイクル可能なものだという。

ラインはそれから洗浄、粉砕、洗浄・脱水、粉砕、乾燥、溶融・カットの専門的な工程を経て、写真のような飴色に輝くなかなか美しいビーズを産み出した。これがリサイクルの原料、流通の川下から遡った新たな川上の始まりのモトだそうだ。

さて、そのリサイクルの原料、どこに持ち込まれるかというと本当に近隣のエフピコの製品工場に原料として持ち込まれていた。これが三割、新しい原料(工場内のロス分を利用)が七割で再生トレーを製造する。

なぜ新しい原料を混ぜるかというと、全国でトレーは月間約三〇〇トンしか回収されないが、再生のエコトレーは月間約七〇〇トン出回っている。つまり、回収トレーが原材料として足りないから! だという。「使いようがないのでは?」どころか、再生トレーの原料は不足していたのだ。「再生トレーの製造といってももちろん企業ですからある程度の物量を製造しなくては採算がとれません。その大きさに対し、まだまだ回収トレーが必要です」(同)。聞いてみなければわからないものだ。

ちなみに現状ではその再生トレーは、全体の何%くらい出回っているものだろうか。「当社製品の市場シェアが四割弱。回収して戻ってくる自社製品の比率も大体近い比率です。その自社、他社の両方の回収トレーから原料を再構築し再び月間七〇〇トンの再生トレーを送り出しています。当社においては三割の比率、全体レベルでは約一割。全国に出回っているトレーのうち一〇枚に一枚がエコマークのついた再生トレー(エコトレー)になる計算です」(エフピコ・歌島秀明環境対策室長)。

ほかのメーカーや自治体などでもトレーの回収作業は行われているが、それらはいまのところ雑貨などの材料となっており、残念ながらトレーからトレーには再生されていない。しかし、このエフピコの回収ボックスに持って行けば間違いなく、そのほとんどが再生に回ることは確実だ。

ちなみにリサイクル工場設置分が原価償却したこと、物量が増えてきたことから再生トレーのコストは下がり、現在ではスーパーなどへの納入価格は一般品と同程度だという。各家庭からの原料調達が進めばさらに価格は下がり、しいては食卓に上る惣菜一品が安くなる可能性だってあるのだ。

「一〇枚に一枚はもう再生トレー。しかもまだまだ“原材料”として回収トレーは不足していた!」。回る回る、容器は回る。回り回ってもっともっと環境にも、健康にも、いい影響が与えられそうなデータを得て、調査班満足の一日となった。

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