有効成分“アホエン”の威力を探る:にんにくはデザイナーフーズのTOP

2001.06.10 70号 2面

いま食品は、栄養源としてだけでなく、病気の予防や改善に対する機能について目が向けられるようになった。アメリカ国立がん研究所では、食品ががんの予防に対してどのような機能を果たすかを科学的に解明するプロジェクト『デザイナーフーズ プログラム』に一一年前から取り組んでいる。これまでがん予防に有効な植物性食品として四〇種類の野菜・果物・香辛料が発表されているが、その頂点に位置づけられたのがにんにくである。(図A)

アメリカ・アイオワ州の女性を対象とした疫学調査で、にんにくを週一回以上食べている人は全く食べていない人に対して、大腸がんのリスクが半減することが確認された。こうした疫学調査に加えて科学的研究の結果、にんにく中の成分・アリシンこそがにんにくの強い臭いの元であり、幅広い薬理効果の元であることが判明した。

アリシンは、丸のままのにんにくには含まれていない。刻んだり、すりつぶしたり、口中で咀嚼したりすることで初めて発生し、強肝・便秘解消・鎮痛・精神安定・ストレス・腰痛・頭痛の改善などに有効に機能する。これらの生理活性機能は、アリシンから派生するさまざまなイオウ化合物の薬効による。また、アリシンは他の栄養素のパワーをさらに活性化する特徴を持つ。例えばビタミンB1と結合すると、ビタミンB1がパワーアップしたアリチアミンという物質に変化する。これが効率よく糖質をエネルギーに変えるなど新陳代謝を活発にし、エネルギーの生産能力を高める。「にんにくを食べると疲れがとれる」のはこのおかげだ。

アリシンから派生するさまざまなイオウ化合物の中でも最も有効性が大きいものは何か。

以前からすりつぶしたにんにくのアルコール抽出物には、強力な血栓予防(血小板凝集阻害)作用があることが知られていたが、その原因となる物質は分からなかった。しかしついに一九八四年、ニューヨーク州立大学のエリック・ブロック博士らがこの物質を突き止めた。それは”アホエン”と命名された。

「アホエンは、にんにくの有効成分アリシンが変化して生ずる物質。アリシンは強烈な臭いを持っていますが、アホエンは無臭です」と名古屋製酪(株)中央研究所バイオ研究室の藤野槌美室長。

『アホ』とはスペイン語でにんにくの意味。同社バイオ研究室では、アホエンを油中で効率よく生成する方法を確立、『にんにくの加工処理方法およびアホエン含有油脂の製造方法』について、日本・アメリカ・ヨーロッパなど世界各国で特許を取得している。

アホエンの効力についてはこれまでに、次に挙げるような研究成果が発表されている。

◆発がん抑制作用

がん発生の大部分は、環境要因によるもの。特に食生活などのライフスタイルが、がん発生の重要な因子になるため、食生活の改善によって、がんの発生を抑えたり遅らせることが可能であるといわれている。

にんにく由来の成分・アホエンは、発がん物質による皮膚がんの発生を抑制することが動物実験により確認された。

(図B)アホエンの発がん抑制作用~実験ラットに発がん物質を塗布したところ、対照群は六週目から腫瘍が形成された。一〇週目には対照群すべてに腫瘍が確認されたが、アホエン群では一五週目に至っても腫瘍は形成されなかった。

◆痴呆症を予防する

痴呆は、神経伝達物質の量が不足することが一つの原因と考えられている。アホエンは、神経伝達物質(アセチルコリン)の分解を防ぐことが分かっている(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤として特許出願中)

◆肝臓保護作用

肝臓は身体の化学工場にも例えられる臓器で、栄養成分の代謝・蓄積、ホルモンの調節・タンパク質の合成・有害物質の無害化などを行っている。肝炎などで肝臓の機能が低下すると脱力感、食欲不振などの症状が現れる。

アホエンは、動物実験において、アセトアミノフェンによる肝障害を抑制することが確認された。「アセトアミノフェンを投与すると、GPT・GOT値(※)は正常なラットの一〇~二〇倍に上昇します(写真中段)。アホエンを投与すると、投与量の増加とともにGPT・GOT値は正常な数値に近づきました。実験の結果より、アホエンはグルタチオンの量を増加させ、肝臓の解毒作用を助ける働きがあるものと推測されます」(藤野室長)。

*肝臓に異常があると高い数値を示す。GPT・GOTとはグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼとグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼという酵素の頭文字。

◆脳卒中を抑制する

「SHRSP(脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット…加齢とともに高血圧を自然発症し脳卒中を起こすラット)を使って実験を行った結果、アホエンは脳卒中の発症率を六二・五%低下させました」(藤野室長)。

また脳の血管がつまったり、狭まったりして血液が流れにくくなるなどの、脳の血液循環障害は酸化による血管壁の損傷が原因。いかに活性酸素から身を守り、どこまで酸化を防ぐかが重要だ。

アホエンは動物実験において、血液中の過酸化物の抑制、SOD(活性酸素分解酵素)の活性上昇、GSH・PX(過酸化物除去酵素)の活性上昇に有効性が認められている。

このほか、「ピロリ菌を撃退する作用」「心臓の働きを強める作用」「痛風を予防する作用」「コレステロールを低下させる作用」のほか、三〇項目の症例に対するアホエンの有効性が同社の研究で明らかにされつつあるという。人類が長年愛用してきた食品素材から取り出された成分“アホエン”は、今後、病気の予防や治療に役立てられることが期待されている。

*12面にも関連記事

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