だから素敵! あの人のヘルシートーク:プロスキーヤー・三浦敬三さん

2001.06.10 70号 4面

冒険スキーヤー・三浦雄一郎さんの父、元モーグル五輪代表・三浦豪太さんの祖父でもある、わが国スキー界草分けの一人、三浦敬三さん。御歳九七歳にして今シーズン、一二〇日の滑降日程を、ようやくいま終了した。「八甲田の主」の異名のままに林内の見回りにスキーを活用して以来、スキー人生まっしぐら。七七年のスキー歴を持つという人は世界を見渡しても他にはいない。しかもその滑りは、最新の用具を操る切れのいい最新のテクニックだ。そんな夢の人生を可能にしている生活術、食事術の秘密を4月下旬、青森・八甲田で取材した。

‐‐今シーズンの滑降の経過、日数を教えて下さい。

まだこの青森・八甲田に続いて立山で一週間滑る日程が残っているけれど、そうですね、もう一〇〇日は超えています。ここのところ、一年の予定は大体毎年決まっていて、北海道のテイネスキー場に12月から3月まで、それから道内のニセコ、岩手の安比と移動して、4月後半にここ八甲田、5月になったら最終の立山連峰に入ります。その間に海外もあるので、大体年間一二〇日くらいは滑っております。とはいっても一日の滑降時間は決して多くはありません。ツアースキーに出たりしなければ一~二時間くらい、神経を集中して滑ります。

けれどスキーをしていない時間もほとんどスキーのことを考えていますね。毎日毎日、頭で考えて、手を動かして工夫をしています。それを雪の上で確かめる。そしてまた考えて工夫をする。その積み重ね、繰り返しです。今年はシーズン初めの11月にカナダに行った時、初めてストラクチャーという道具の使い方に結論らしいものが出ました。回転に入りやすく、なおかつ回転している最中に曲がり過ぎないためには、どのくらいの幅と長さを入れたらいいか、ずっと研究していた結果です。安比ではまた別の方法を用いました。スキー板のテールをちょっと内側にひねると回転後半に板が逃げなくて、非常にいい。スキー板のトップを曲げることも今年は研究しました。一番いいところはどこか、考える。そういうようなことをやっていると、もう限りがないですね。

‐‐九七歳でそれだけの探求心をもって、常に新しいスキーのイメージに挑戦されている。これを可能にする日常の過ごし方、健康法を教えて下さい。

スキーの現場にいるシーズン中も、オフシーズンに東京・練馬の自宅にいる時も、変えないで続けている習慣がいくつかあります。

就寝は夜の10時、起床は5時が原則です。まず朝起きると上半身の運動をします。最初に首の運動。前後、左右にぐるりと回す。

次に呼吸法をします。初めは呼吸研究家の本を参考にして普通の深呼吸、止めて吐く腹式呼吸をやっていましたが、それに独自の工夫を加えるようになりました。大きく吸っていったん呼吸を止め、吐く時に鼻をつまんで息がもれないようにぐっと下腹に力を入れる。耳が遠くなったので、それをできるだけ現在の程度で止めたいという思いからなのですが、こうすると息が鼓膜の内側に回って鼓膜や内耳を刺激するのが効果的ではないかと考えています。実際に、聴力の検査ではここ数年、減退はみられなくなりました。

また、深呼吸をする時はいい匂いのものを嗅ぎながらする。例えばローズの香りなど、いつも香料を携帯して使っています。香りの方を取り入れたキッカケは何だったか、分からないですが、後でテレビや本でいい匂いを嗅ぐと嗅覚を刺激し、頭に非常にいいと知って、なるほどいいかなと思って続けています。

次に口開け運動というのをします。最初は口を大きく開けることからでした。年を取ると口の周りにシワがたくさんできるのを何とか防ぎたいと思い、それには口の周りの筋肉を刺激するのが一番いいのではないかと思ってね。実際にやってみると、口の周りや顔面全体はもちろんのこと、耳・頭部・胸や肩の筋肉まで刺激することが分かりました。これに加えて、スキー雑誌の編集者さんがヨガを研究していて、舌を出す運動があると教えてくれて、それから舌を出し始めた。またこの前、健康雑誌に舌を出すだけでなく左右に動かすといいと書いてあった。やってみると前に出すだけとは頭の感じが違う。左の方に出すと右側の脳が働くような気がする。そんな風にね、私自身がいつも変化しているんです。

東京の自宅ではその後、ラジオ体操のような身体体操、腕立て伏せ、チューブを使って負荷を加えたスクワット運動、速歩とジョギングを組み合わせた運動などをしています。

このスキーシーズンは、スキー場にいても歩くことを励行しました。毎年、シーズンオフに速歩を始めると、最初のうちはゆっくり歩いても疲れてしまう。それを段々強くしていくのだけれど、これはシーズン中、リフトに乗って滑り降りることばかりやって、足が弱ってしまった結果ではないかと考えた。これじゃいかんと、今年は方法を変え、テイネでも建物の中を歩いていました。最初は一〇〇〇歩。次に一五〇〇歩。さらに二五〇〇歩。安比に行ったら、雪はもう消えていたので道路を歩いた。最初、広場を九〇〇歩。次にそれに登りをプラスして第一ビラまで。その次の日は第二ビラまで、さらにその次の日は第三ビラまで。今度は第三を通り越して道路が左右に分かれている所まで。最終的には安比スキー場の物置場まで、登りで一二五〇歩くらいありましたか。不思議なことに、最初に第一ビラまで歩いた日より、最終的な行程をこなした日の方が楽なんです。毎日歩くと、それだけ体力が強くなる。足の力が強くなる。

八甲田や立山の山岳スキーでは他のスキー場と違って、自分の足で登る場面がたくさん出てきます。今年はこれだけトレーニングをしていたので、必ず違うと思うんですよ。

‐‐食事術のことも教えて下さい。

八年前に家内を亡くしてから、東京の自宅では買い物から料理まで家のことはすべて一人でやっています。息子(雄一郎氏)は始終一緒に暮らそうと言ってくれますが、一人で生活していた方が頭を使いますからね、いいんです。

食事は玄米食が主です。高圧釜を使っていますので、玄米全部で炊いてもおいしい。野菜を多く取るようにして。魚は骨のついたもの、ガラを買ってくるんです。安いですしね(笑)。これを圧力釜で骨まで柔らかくして食べる。それから煮干しの粉末入り味噌汁。キクラゲの佃煮などの常備菜は大体一週間ずつ、作り置きをしています。スキー場への移動にも玄米が炊ける釜を持って歩いています。カナダへも持っていきました。こうした場合は、玄米と白米を一対一の比率で炊いています。

朝晩の食事の後、ゴマとキナ粉のドリンクを飲むのも定番ですね。すった黒ゴマを中さじ一杯半にキナ粉、それに酢卵の殻が溶け込んだ酢を中さじ三杯ぐらい、三温糖、牛乳、ヨーグルトを入れたものです。それぞれの材料がいいということが分かっておりますからね。ただ酢卵だけを飲んだのではおいしくないけれど、こうして混ぜれば、非常においしく飲みやすくなる。始めて四~五年ですが、いいというものを聞いて、段々入れるものを増やしていっています。

‐‐健康術も食事術も、最初に伺ったスキーの探求のお話と似ていますね。日々、工夫を取り入れている感じがします。

なんていうか、一種の好奇心ですね。いろんなものに好奇心を持つもので…。それがいいとなればすぐ取り入れる。スキーをできるだけ長く続けたい。その目標のために、いろいろなことを毎日、考えています。

私と一緒に滑っている仲間はみんな、私の歳まで滑れると思っているんですね。八〇歳の人でもまだ一五年はできる、六〇代の人はあと三〇年はできるな、と。そういう希望に応えていくのも、私の務めじゃないかと思っています。

◆三浦敬三(みうら・けいぞう)さんのプロフィル

1904年、青森市生まれ。北海道大学農学部卒。大学時代にスキーに出合い、卒業後、青森営林局に勤務のかたわら、八甲田山を中心に山岳スキーに打ち込む。(財)全日本スキー連盟の技術委員を務めるなど、わが国スキー界の草分けの一人。72年、プロスポーツ功労賞を受賞。81年、親子三代でアフリカ大陸最高峰キリマンジャロを登頂、スキー滑降最高齢記録となる。日本山岳写真協会名誉会員。冒険スキーヤーの三浦雄一郎氏は長男。

目標は日々の滑りをイメージに近づけていくことですが、それとは別に数年先の目標を作った方がトレーニングには励みやすくなる。いまの目標はさしあたって、2年後の白寿の歳にモンブラン山系の大氷河、バレーブランシュをもう一度滑ろうという計画。それが終わればまた、新たな目標が出てくるかもしれません。次のオリンピック、アメリカのソルトレイクシティには行かなくてはならないと思っていますし…。いま1歳半の曾孫がそこにいるんです。雄一郎も一緒に行ければ親子四代でのスキーができます。

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