ヘルシートーク:料理家・渡辺麻紀さん

2011.05.10 190号 05面

 パンにのせるだけ、グラスに詰めるだけで、おもてなしにぴったりのおしゃれな一品に–。フランス仕込みのそんな“プチ料理”を紹介してくれる、人気料理家の渡辺麻紀さん。久しぶりに訪ねたパリで感じたという、野菜料理の変化についても語っていただきました。

 ◆パンをもっとおいしく食べる方法、お教えします!

 最近、こだわりのパン屋さんがあちこちにできていて、パンがちょっとしたブームですよね。そこで、いまこそ提案したいと思って出版したのが、レシピ本『タルティーヌ』なんです。

 私がタルティーヌを知ったのは、パリに料理留学していた20代の頃。ある朝、カフェに入ったら、周りのフランス人がみんな「タルティーヌ、タルティーヌ」と注文していて、なんて素敵な響きの言葉だろう、いったい何だろうとワクワクして注文してみたんですね。そうしたら、単なるバターを塗ったバゲットが出てきて、「あれ?」って拍子抜け(笑)。

 そう、タルティーヌとは本来、スライスしたバゲットにバターやジャムを塗るだけの、とてもシンプルなもの。でも私は、いろいろな野菜や肉、魚、チーズをのせてオープンサンドみたいにしたら“ごちそう感”が出て、もっと楽しくおいしくなるのに、って思ったんです。

 例えばスプレッドやクリームチーズを塗って、あるいはサラダ野菜やアボカド、ツナや焼いた肉をのせて、マヨネーズをかけて…自分の好きな具材を何でも組み合わせてみればいいんです。普段はお皿にきちんと盛り付けるような料理も、パンにのせて食べると新鮮です。はみ出さんばかりにたっぷりダイナミックにのせるのが、おいしそうに見せるコツ。見た目が華やかだし、パンごと食べられるフィンガーフードだから、パーティー料理にぴったりです。もちろん、朝食やおやつにもいいですね。

 パンとの相性を考えるのも楽しいですよ。ライ麦パンなら、ドイツっぽくソーセージやじゃがいもをのせてみたり、クロワッサンやブリオッシュなら、フルーツをのせてデザートっぽくしたり。ぜひ、いろいろ試してみてください!

 ◆キレイでしょ、グラスにいろんな具材を重ねて

 フランスで数年前から流行しているのが、透明のミニグラスに色とりどりの具材を重ねるヴェリーヌというスタイル。日本でも最近、スイーツのヴェリーヌが知られてきましたが、前菜的な料理をヴェリーヌにするのもおすすめです。

 たとえば、マリネした魚介を小さめに切って入れたり、いつものサラダをちょっとずつグラスに詰めて、上からドレッシングをかけるだけでもヴェリーヌになるんです。鴨とブルーチーズと桃とか、白身魚とパプリカとか、「どんな具材を合わせてどんな層を作ろう」と考えるのが、ヴェリーヌ作りの醍醐味なんですよね。

 ホームパーティでありがちなのが、ゲストが遠慮してしまって大皿料理から自分の分をたくさん取り分けられないこと。でもひとり分ずつグラスに入ったヴェリーヌなら、手に取りやすいし食べやすいですよね。なによりも、層の彩りやかわいらしさに「わ~!」っと歓声が上がること間違いなし!

 これからの季節、涼やかなグラスに入ったヴェリーヌは、おもてなし料理として最適です。グラスは100円ショップで売っているもので十分なので、気軽に挑戦してみてはいかがでしょうか。

 ◆ライト&ヘルシーになった、最近のフランス野菜料理

 今年1月、久しぶりにパリを訪れました。2週間の滞在中、曜日ごとにいろんなエリアに立つマルシェ(市場)に通ったのですが、昔と変わったなぁと驚いたのは、オーガニックの野菜が増えていたこと。そして、それがおいしくなっていました。土がこなれてきたのか、生産者が熟達したのかは分からないのですが、以前は「オーガニックは素晴らしいけれど味はもうひとつ」というイメージだったので、これは大きな変化でしたね。

 それから、マルシェのスープ屋さんでかぼちゃのスープを注文したら、かぼちゃと水と塩とローズマリーだけでシンプルに作られていて、これがまたおいしかったんです。昔だったら、かぼちゃは必ずバターで炒めてあって、鶏のだしや生クリームがこってり加えられていたのに…。フランスのスープも、ずいぶん味付けが軽くなったものです。

 カフェに入ってみると、選ぶのを迷うほど生野菜のサラダの種類を揃えていて、びっくり。以前は冬にはサラダ用などの生野菜があまり手に入らなかったし、お店でもそうでした。最近は新鮮な野菜が地域を越えてたくさん流通しているようです。オレンジの果汁とほんの少しのオリーブオイルであえてあったり、サラダの味付けもやっぱりライトでヘルシーでした。

 のんびり息抜きするつもりで行ったパリでしたが、野菜料理の変化を知ることができて、とても有意義な旅になりました。今度は、みずみずしい野菜があふれる夏に、また行きたいなと思っています。

 ●プロフィール

 わたなべ・まき 東京都生まれ。白百合女子大学在学中より、フランス料理研究家・上野万梨子氏のアシスタントを務める。その後、ル・コルドン・ブルー代官山校に5年間勤務。フランス、イタリアへの料理留学後、料理番組のフードコーディネーターを経て料理家に。『キッシュ』『テリーヌ』『ケーク・サレ』(いずれも池田書店)、『ディップの本』(毎日コミュニケーションズ)など著書多数。

 公式サイト http://www.makiette.com/

 ○『タルティーヌ』

 お皿に見立てたパンに、さまざまな具材をのせたアレンジ・タルティーヌのレシピ集。「生ハムと白いんげん豆のペースト」「パプリカとアンチョビオリーブクリーム」「かぼちゃ、カリカリ豚肉とバルサミコクリーム」「玉ねぎのとろとろソテーとレバー」など。

 ▽1,050円(池田書店)

 ○『ヴェリーヌ』

 サブタイトルは「グラスで楽しむフレンチ」。具材を層にして見せる新しいスタイルの提案。「トマトのオレンジマリネ」「枝豆ととうもろこしのサラダ」「サーモンクリームときゅうりのソース」「まぐろのソテーといんげんのピーナッツバターソース」などレシピ満載。

 ▽1,050円(成美堂出版)

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