パン特集

◆パン特集:製パン業界、コロナ禍の「食のインフラ」機能果たす

小麦加工 2020.12.25 12164号 04面

 製パン業界は、新型コロナウイルス感染症というこれまで経験のない事態に、「食のインフラ」としての役割を果たした。ホールセールからリテールに至るまで、総力を挙げてパン類を供給した。疫病対策は経験がなく対応に苦心したが、日本の製パン業界では、AIB(米国製パン研究所)の食品安全管理システムを導入しているケースが多い。日常的に、店舗内の不衛生な状態、管理されていない状態を探し出し、店舗の中にある食品への危害を除去することを行っていることから、衛生意識とそれを担保するシステムが高いレベルにあり、経験のない疫病対策で大きな役割を果たした。(青柳英明)

 ●新常態で売れ筋商品に変化

 ホールセール製パン市場の売れ筋商品がコロナ禍を経て変化している。感染症拡大防止の観点から、外出を自粛し、在宅傾向が高まったことから、食パン、食卓ロールなど食事系のパンの需要が増加する一方、菓子パンや惣菜パンの需要は減少した。大型台風など短期的な「非常事態」の場合に購入する食品は、停電や断水などが想定されることから、調理の必要がなく、即食性が求められ、菓子パンや惣菜パンの需要が高まる。一方、コロナ禍では、「非常事態」が長期化し、現在では、「非常時」が「日常」になりつつある。多くの非感染者は、ライフラインの寸断におびえる必要がない中、長期の外出自粛というこれまでにない事態を経験した。当然、パンの消費行動も変化した。登校・出社の必要がなくなったことで、朝食を取る時間が生まれたことで、朝食時に食べることが多い、食パンや食卓ロールの需要は高まった。

 一方、菓子パンや惣菜パンは苦戦した。不調要因は複数ある。一つは、主要販路であるコンビニエンスストアが、コロナ禍によるテレワークの増加などで、ビジネス街を中心とする都心店舗で来店客数が減少していることだ。

 また、在宅傾向の高まりによる家庭内調理の増加がある。ここ数年、調理パンが好調だったのは、有職女性の増加による家庭内調理時間短縮に寄与できる特性を持っていたことや世帯数の少人数化による個食化の進行などにより、「1食完結型」で2~3日の消費期限を持つ調理パンの価値が評価されたことが要因だ。在宅時間の増加で、時間の余裕ができたことで、こうした価値は相対的に低下した。

 さらに、内食化の影響で、ライバルとなる食品が増加したこともある。電子レンジで加熱すると本格的な味わいが楽しめる冷凍食品は、コンビニエンスストアで購入するサンドイッチと同様の価格でパスタを購入することができる。さらに、在宅時間の増加で、手作りを楽しむ人も増加し、ホットケーキミックスなどプレミックス粉の需要増の影響も受けたようだ。

 ●リテールベーカリー、感染症対策を徹底 冷凍パン・業務用苦戦

 リテールベーカリー店頭では、陳列商品の個包装化や透明シートで覆うなど、飛沫(ひまつ)感染防止対策やトングなどのこまめな除菌作業、従業員の体温チェックなどの対応を早い段階から実施。厚生労働省がホームページで公開する、新型コロナウイルスに関するQ&Aで、「食品そのものによる新型コロナウイルス感染症に感染したとされる報告はない」としていることから、ベーカリー店の自主的判断による感染防止策を実施した。ただ、駅ナカに出店する店舗は、テレワークの増加による、鉄道利用客の減少の影響を受け苦戦。さらに、商業施設内の店舗も緊急事態宣言時の施設の休業の影響を受け苦戦した。一方、郊外店は在宅傾向が高まりで、おおむね好調に推移した。

 冷凍パンは、販路によって明暗が分かれた。ホテル・レストランなど業務用は、営業自粛の影響で苦戦。一方、個人向けのEC販売は好調に推移している。

 地域のパン屋プラットフォームを構築するパンフォーユーが、2月26日に開始した個人向けの冷凍パンサブスクリプションサービス「パンスク」は、4月に有料会員登録が460人を超え、無料会員を加えた申し込み人数は846人に拡大し、当初見込みを大きく上回った。同社では、新型コロナウイルス感染拡大防止から、消費者が外出を控える傾向が増加し、「自宅消費が進んだ」ことが要因の一つと分析する。

 ○SNSの活用加速

 コロナ禍で店頭での試食販売を行うことができない製パンメーカー各社は、SNSを活用した、デジタル販促にシフトした。デジタルシフトへの移行は、もう一つの要因も存在する。好調のロングセラーブランドの背後に潜む、顧客層の高齢化の問題だ。市場成長を担う若年層の開拓を狙い、若年層の必需アイテムとなりつつあるSNSを活用した、ブランド認知度拡大や食べ方提案、キャンペーンを行う。

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