花かつお・削り節特集
◆花かつお・削り節特集:500億円市場を維持 料理用途の拡大目指す
花かつお・削り節市場は19年度、18年に引き続き前年実績の規模を維持した。天候要因で追い風を得たほか、少量・適量の使い切り提案が定着し、単価を上げて数量減をカバーした。期末から新型コロナウイルス感染防止の内食増大で消費拡大。本来のだし取り、料理用途を広げる好機にし、目前のコストアップ、業績縮小を補いたい。(吉岡勇樹)
●前期市場動向 横ばい推移で安定 使い切り提案が奏功
花かつお・削り節市場は19年3月期、前年比約1%減の511億円で着地したとみられ、2年連続のほぼ前年実績並みで推移している。17年の原料高による商品改定、市場大幅減の前までは長期の縮小傾向。18年に反動増に転じてからは久しぶりに横ばいで推移して規模が安定している。
構成比6割の小袋のかつおパックが前年比2~3%増、シェア3割で続く大袋の花かつおが微増。残りを占める混合削り節の減少を補う構図は変わらない。前期は上期の4~9月が記録的な冷夏。7月平均で気温が前年比6度Cも下がり、煮物などの煮炊き、だし取り用途が増えた。下期は2期続けての暖冬で鍋人気が落ち、ほかのホットメニューの煮物頻度が上昇。市場を押し上げた。
気候で好条件が揃い、反動減を抑えたように見えるが、商品戦略も進化。主力のパック提案が深まり、販売数量で落ちても金額ベースで伸ばした。人口減・同質化の市場成熟、少子超高齢化に応じたパック内容量の減少、適量展開が支持され、事業継続を果たしている。
既存品の単なるダウンサイズは、市場を支えるヘビーユーザーの反発、離反を招く。新商品やリニューアルによる単価アップが望まれ、実売と収益改善を両立した、格好の付加価値がパックの使い切り提案。主流の1袋2.5gから半減した1~1.5gパックが現代の主要世帯である1~2人家族の生活者ニーズをとらえた。
パック2.5gも以前大勢を占めていた5gの半分。ただし、小世帯では使い切れず、余らせ、開け口を閉め、冷蔵保存する手間の軽減は消費者の潜在ニーズだった。ミニパック提案は03年のベストプラネットからと古く、当時からヒット。開封後すぐ劣化する風味を少量で余さず伝え、嗜好(しこう)品の魅力とユニット単価を高めた。
パック使い切りの流れを加速したのがトップメーカーのヤマキの「使い切りかつおパックマイルド1g×12P」。相場が暴騰し、業界総出で値上げした17年から全国展開し、一気に支持を広げて主力品に育った。ヤマキは使い切りタイプでNB5品を揃え、原料や製法、エリア別で価値を分け、きめ細やかなニーズ対応を尽くす。売場横断の店頭展開も好評。他メーカーも香り豊かな本枯れ節や大袋の減量、適量提案を進め、同質・廉売のコモディティー化を脱する。
期末の3月には新型コロナウイルス感染を防止する巣ごもり、内食需要で削り節も販売が急増した。2月末の政府の休校要請、3月からの外出・外食自粛で家庭内食が着実に増加。削り節は健康志向の野菜のおひたし、子ども向きのお好み焼きのトッピングが増えたとみられ、パックの店頭販売は前年比2桁増と伸びた。パックは主力品で市中在庫は豊富。需要期の秋冬商戦以外、単月の増大だっただけにコロナ禍が市場通年に与えるインパクトは軽微だった。
●今期展望 内食増もトッピング需要だけ
せっかくの内食増の恩恵だが、今期初めには終息したという企業もある。ヘビーユーザーの備蓄・保存需要、家庭内の二重在庫に終わり、消費の先食い、反動減も4月から一部見られる。大袋の花かつおはトッピングの併用商材だけが人気。顆粒だし、液体つゆ、だしパックなどは5月も好業績が伝えられ、だし取りはほかの簡便商材に需要を奪われた。
もともと削り節は成形やカビ付けなど長い製造期間をかけ、保存できてだし取りを常時、瞬時、簡単にした商品。煮物や汁物向けのだし用途を失い続けるのはレシピや使い方紹介といったマーケティング不足の感もある。社会そのものが成熟した現代では発酵食品である鰹節の商品史、長期にわたる製造、国内外で行われてきたカツオ漁といった、ものづくりの物語が好まれやすい。IcTが発達して情報発信、伝達しやすい今こそ伝統乾物ならではのエシカル消費も喚起すべきかもしれない。
5月末に緊急事態宣言が解除されても、リモートワーク・学習は推奨、浸透して継続。ワクチン開発までは自己防衛の外食自粛は続き、家庭内食の機会は増えたまま。内食増を好機にして主用途のトッピング拡大、だし取り復権を果たしたい。
ヤマキは今下期から減塩や野菜の摂取促進といった「だしの7つのいいところ」を明示する「だし活」を本格化。業界では当然のだしの減塩効果も世間一般では意外と知られていないと判断し、強みの液体調味料との同時提案、SNS活用などだしの機能・情緒メリット、和食メニューの魅力をスムーズに伝える。マルトモは看板商品に育てた高付加価値の「プレ節」TVCMを投下。業界全体でも珍しいCM放映によって市場を盛り上げる。
家庭用の好況の半面、業務用市場は苦戦。特に開店もままならなかった外食店向けが厳しく、3月中旬の外出自粛要請から外食向け削り節販売はおおむね半減したとみられる。5月から徐々に開店数、営業時間が増えて業績が上向く兆しも見えてきた。
カツオ相場は昨年末から上昇し、不漁とコロナ禍の労働力不足で徐々に高騰。ツナ缶がカツオの世界消費を支え、感染防止の缶詰需要の伸長は容易に想像できる。上限は17年のピークのkg250円と想定され、今は200円前後。19年の150円推移から原料高への歩みを着実に進めている。物流費の増大傾向も加速する一方。確実なコストアップと外食復活に時間がかかれば、使い切りパックの成長だけで補うにも限りがある。業務用市場の深掘りや新事業の立ち上げも急務。新たな乾物開発といった芽吹きも見え始めている。