業界future:飲酒業態の客単価アップ サードプレイス需要に期待感
●コロナ以前との売上げ比 現場感覚では「8割」
ようやく外食需要も回復基調に向かっている。日本フードサービス協会の外食市場動向調査では、2022年5月の外食全体売上げは前年比20.4%増で、3年ぶりの行動制限のないゴールデンウイークにより家族客を中心に客足は回復。コロナ以前の19年5月比の数字でも4.6%減となっている。一方で飲酒業態は法人需要や夜間の客足がまだ戻っておらず、19年5月と比較した22年比ではパブ・居酒屋業態は売上げ45.3%減、ディナーレストラン業態は10.8%減に。多くの飲酒業態における現場の肌感覚でも、コロナ以前の売上げの「8割程度」と、他業態と比べて回復が鈍い。
NPDジャパンの外食・中食データサービスCRESTの調査でも、フルサービスレストランにおけるコロナ以前の19年4月と比較した22年比の数字では「アルコールを含む外食の食機会数(客数)」は50%減と集客数は半減のまま。平均グループ人数も40%減り、「5人以上のグループでの飲酒機会」は77%減。さらに、「21時~翌5時台のアルコールを含む外食の食機会」は82%減で、やはり団体客の会食需要と深夜の客足が戻らない事実がうかがえる。そして、長引く外食自粛の影響で消費者の行動様式が変容し、「8割」以上にはもう売上げは見込めないだろう、という悲観的な見方が強い。
●フードメニュー充実で客単価18%増
それでも飲酒業態にとって、多少の明るさを感じさせる変化も現れている。コロナ以前と比較して、居酒屋やディナーレストラン業態に「客単価アップ」「1人客の増加」傾向が見られるのだ。
コロナ下で、外食での飲酒が感染拡大の諸悪の根源のようにやり玉に挙げられたことから、居酒屋業態が「食事を楽しむ店」のイメージを強調する動きが一時、顕著だった。例えば、「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」は店名から「酒場」を外し、居酒屋の「塚田農場」は「つかだ食堂」に、「東京MEAT酒場」は東京・浅草橋の旗艦店の店名に「イタリアン食堂」の冠を付け、ワタミは居酒屋から脱却して「焼肉の和民」への業態転換を推進。「酒を飲む場」から「酒類も提供する食堂」「専門業態」へのチェンジを図ることで来店のハードルを下げ、呼び込む層のボーダレス化を目指した。
こうした転身に伴い、フードのクオリティーアップも実現。フードの充実が、結果的に客単価のアップにつながったと推定される。前出のNPDジャパンのデータでも、コロナ前の19年と比較した22年4月の同月比で「1人当たり客単価」は18%増加し、「1メニュー当たりの平均単価」は23%増となっている。
もちろん、外食機会が減った中で「せっかくの外食」を奮発して楽しみたい、と考える消費者心理も、客単価アップに影響しているだろう。実際、「以前はお酒をパーッと飲みたいという人が多かったが、今は『おいしい料理をしっかり食べながら飲みたい』というお客が増えた」(埼玉県大衆酒場店長)、「クラフトビール人気も奏功し、単価が高めのお酒がよく出るようになった」(都内バル店主)、「飲み放題の団体客に代わって、ワンランク上のお酒を静かにゆっくり味わうようなお客が増加している」(都内高級中国料理店オーナー)といった声が上がっている。
●飲酒業態で広がるサードプレイス利用
もう一つの変化として、「以前はほとんど見られなかった1人客が、今では当たり前になった」(都内老舗焼肉店店長)という声を筆頭に、「1人客が増えた」と多くの飲食店は口を揃える。特に飲食店を、自宅でも職場、学校でもない「サードプレイス(第三の居場所)」と位置付け、来店が習慣化する1人客が増えているという。新規オープンする飲酒業態でも、「1人客大歓迎」の姿勢を打ち出してカウンター席を広く設けたり、1~2人客をメインターゲットに据えた小規模店舗が目立つ印象だ。
「サードプレイス」需要はコロナ以前から注目されていたが、コロナ下で会食が制限されたことで1人で外食する風潮が浸透し、それがサードプレイス需要の急拡大に結びついたのだろう。また元来、酒客には昔から、なじみの飲み屋で1人楽しむ習慣がある。この習慣が、より多くの消費者にライトに広がったというわけだ。
共に食べ、飲んで人とつながる会食の文化が、このまま消え去ってしまうことは考えにくい。しかし、大人数が集うかつての熱気ある酒場の光景を取り戻すには、まだ少し時間がかかるだろう。その中で急速に広がっている「サードプレイス」の潮流。この新しい文化の盛り上がりは、外食産業にとってコロナ打撃における一つの福音となってくれるかもしれない。