食の視点 一点勝負・御・パン(その6)「パン・パン・パン」

1997.01.20 119号 20面

●いろんなパン

さて、コメに対するパンはどうだろう。戦後の一時期、パンはおやつであって、主食にするのは物足りないものであった。店先で、コッペパンに薄くジャムを塗ってもらった、おなかをすかせた子供のころの思い出。木村屋のあんぱんをもったいなく食べたころを越えて、パンは庶民の食卓にも徐々に入り込んでいった。

朝はパンでという家庭も増えて、朝の食事は、朝ご飯でもなく朝メシでもなく、朝食となった。ついにパンは、日本人の主食のニューフェースの座を獲得した。そして最近では、神戸屋やサンマルクといったベーカリーレストランチェーンの食べ放題のパンと、ちょっとした料理でもって昼食を楽しむOLも少なくない。

グルメやヴィクトリーなどサンドイッチのテークアウトストアも随分と増えた。コンビニでもサンドイッチや調理パンをたくさん置いている。そして、色とりどりのペストリーで、店全体がファッショナブルな雰囲気にあふれるパティスリー。

●変わるパン

朝食と昼食にパンの進出を簡単に許した背景には、バブル期の忙しい、時間欠乏症の日本人のライフスタイルにマッチしたことがある。手軽につまめて、比較的安くてバラエティーもある。そのパンの手軽さが、最近焼き立て人気で少しずつ変わってきている。より高級な、より味の良いものを、より新鮮に手に入れたいという消費者のニーズが強まって、パン業界が活気を帯びてきた。

パン屋と一口に言っても、いろいろあるようで、個人店にしても、昔ながらのお菓子屋さんが製造パン業者のパンを売っているスタイルから、独特のコンセプトと技術に支えられて店内でパンを焼き上げる店までさまざまだ。ドイツやフランスにパン焼きの修業に出るという脱サラ組もいる。

チェーン店でも、山崎製パンのような専門のパン製造業者に仕様発注したパンを置く店もあれば、自前の工場で焼いたものを各店に配送するチェーンもある。カミサリーで作った冷凍のパン生地を店舗内で焼き上げる方式もある。フランスパンや食パンは工場のものを入れるが、そのほかは店内で焼き上げる店もある。サンジェルマンのようにすべて店舗内でパンを焼くチェーンもある。

●華やかなパン

エジプトの遺跡から化石が発掘されたように、数千年からの古い歴史をもつパンが、東の果て、ジパングで一気に花開いたとも言えそうだ。もともと日本には、室町時代に鉄砲と一緒に入ってきたとされるパン。織田信長や秀吉も食べたのだろうか。パンに異国情緒とロマンを感じさせる時代。

今は、一般の食事としてだけではなく、おいしいパン屋だけを特集するテレビ特集番組やグルメ雑誌も目につく。料理本は自分で焼くパンをまとめ、ホテルではホームメードのパンをショップ狭しと積み上げている。

地元に密着したパン屋。時代の注目を浴びてもいる。かまどを使って焼くパン。独特の材料や発酵法を看板にする店。海外のさまざまなパンが紹介される。ユダヤ、ギリシャ、インド、イタリア、中国……。

二〇年ほど前、天国に一番近い島、ニューカレドニアの首都ヌーメアのスーパーで何気なく買ったフランスパンのおいしかったこと。これが、パンの文化を持つ国なのだと感じ入ったことを忘れられない。それが、今では、日本のパンのおいしさは世界に認められている。

パンが日本の食のシーンに本当に根付き始めたことを感じさせる。そして、パンが文化にまでなるには、もう少し待てばいい。

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