飲食店成功の知恵(125)業種編 焼肉店

1998.02.16 146号 17面

焼き肉店は素人でも簡単にオープンできるからと開業希望者の多い業種だが、開業事例は意外と少ない。また、成功事例も多いとはいえない業種である。

焼き肉店は他業種に比べて客単価がぐんと高く、しかも高度な調理技術とは無縁の業種である。それなのになぜ、開業しにくく成功へのハードルも高いのか。このことを十分に理解し、「楽して儲かる」といった幻想を持たないことが、この業種での成功の最大のポイントになる。

まず開業事例が少ない第一の理由は、適性立地を求めにくいことである。物件は見つかっても、初期投資額が高くなりすぎて手が届かない、というケースが圧倒的なのだ。どうして投資額が高くなるのかというと、この業種はフリ客が見込める立地でないと成り立たないからである。

問題は、お客の来店頻度にある。焼き肉は人気メニューではあるが、重食であって日常食ではない。だから当然、お客の来店頻度は低い。常連客といっても、せいぜい月に二、三回も来てくれればいいという程度でしかない。客数を稼ぐにはフリ客を当てにしなければならないという宿命がある。

しかも、焼き肉店は一般に四人掛けテーブル席が基本(いうまでもないが、無煙ロースターを使用するのはいまや常識である)になるが、そうするとお店の規模は最低でも三〇坪は必要になる。フリ客が十分に見込める立地でこれだけの坪数が必要になれば、投資額がかさむのは当然のことなのだ。

次に、成功へのハードルが高い理由だが、これは、焼き肉という商品の持つ特性に原因がある。

焼き肉はお客が自分で焼いて食べる商品である。だからお店は肉を切ってたれと一緒に出すだけでいい。確かに技術不要というのは大きなメリットである。そこで素人は、これなら簡単にできると思い込んでしまう。しかし、このメリットはお店にとってのもので、お客にとってのメリットではない。お客にしてみれば、価格が同じならどこのお店でも大差ないということになるのだ。

要するに、明確な差別化をしにくい業種なのである。完成した料理を提供する場合と違って、自店の独自性をアピールしにくいのである。しかも、使用する牛肉のランクによって業態がほとんど決まってしまうために、他店との競合は予想以上に厳しいものとなる。

牛肉輸入の自由化以後、牛肉の価格は劇的に下がっている。ひと昔前までのごちそうイメージはいまやない。当然、お客が家庭で焼き肉を食べる機会はぐんと増えている。しかも、焼き肉店は牛肉を生のままで提供するわけだから、スーパーの食肉売場との比較もされやすい。

そこで、どれだけ当店独自のお値打ち感を表現できるか、ということが厳しく問われているのである。かつてのような高級イメージに依存するだけとか、安いことをアピールするだけのやり方では、お客のハートをつかめない時代になっているわけだ。

また、焼き肉店はサービスという面でも、取り組み方を考え直さなければならない時代になっている。お客が自分で焼くことから、この業種はサービス業という意識が希薄なきらいがある。はっきり言って、サービスの手間を省けるというのが常識になっている。しかし、これからのお客にそれは通用しない。価格に見合ったサービスがあるかどうかは、お客にとって大きな関心事になりつつある。

例えば、これだけの客単価を取っているにもかかわらず、本当にビールをおいしく飲ませるための努力をしているお店は非常に少ない。焼き肉という商品での差別化がむずかしければ、サービス面で差別化する。飲食業としての原点に立ち返ることである。

(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)

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