チェーンストアのここに学べ:ハンバーガーは“おにぎり”だ(上)
米国チェーンのジャンルの中でハンバーガーが最大のマーケットを持っているが、日本のハンバーガーマーケットはそれに比べるとまだまだ小さい。米国人にとって、ハンバーガーはおにぎりで、コカコーラは味噌汁、フレンチフライはお新香という風土の違いがあるからだ。しかし、若い世代の洋風化傾向を見てみると、ハンバーガーマーケットはまだまだ伸びるだろう。そこで、ハンバーガーとは何かをよく見てみよう。
豪邸で食べるハンバーガー
筆者はハンバーガーは単なるスナックで、食事だとは思っていなかった。ましてや、タコベルなどのメキシカンファストフードであるタコスなどは、料理の前に食べる前菜だと思っていた。
一四年ほど前に米国に駐在していた時のことだ。米国に日本からわざわざ来たというので友人が家に招待してくれた。友人の家は、たどり着くのにトウモロコシ畑を一時間ほど走らなければいけないほど田舎のシカゴの郊外だった。ぽつんとした十字路にマクドナルドの小さな店が現れた。それが友人の経営するマクドナルドの店舗だった。
そんな田舎だから売上げ規模は小さく細々とした経営状態だった。せっかく遠くから来たのだから家で食事をと招待された。家について驚いた。家の前には大型のモーターボートが止めてあり、部屋数は一〇部屋以上もある豪邸だった。聞いてみたら店は小さいが二店舗も持っており、土地も安いのでこんな豪邸がもてるということだった。
「今日はせっかく遠くから来てくれたから、家族全員集まって豪華な食事をしよう」というから期待して食事時を待った。友人の父母も集まって食事になった。最初に出たのは大きな皿に盛られたタコスだった。
おいしかったのだが、最初からいっぱい食べるとメーンディッシュが食べられなくなると思って、軽く食べて次は何が出るかと期待していた。次に出たのは大きなチョコレートケーキのデザートだった。何とタコスがメーンディッシュだったのだ。なんて貧しい食事だと思ってしまった。
また、ある時は会社の上司から家に招待された。シカゴの裕福な郊外にある家だった。ここでも筆者を歓迎するために家族全員が集まってバーベキューをしようという。これはステーキでもたっぷり食べられると期待していたら、出てきた料理はハンバーガーのバーベキューだった。
肉、付け合わせにこだわり
米国の普通の家庭ではタコスやハンバーガーはごく日常食であり、ハンバーガーを庭で炭火で焼いて食べるのはごちそうなのだというのを知ったのは、米国に数年滞在して分かった経験だ。
食事というのは家族の団らんであり、主婦は招いた客をもてなすのに厨房にこもりっきりで調理に懸命になるのではなく、いかに招いた客と歓談するかということに気を配る。料理そのものは二の次なのだ。
集まって食事を楽しむのが主な目的であるから、食事そのものはいかに簡単に調理できるかが重要であり、タコスやハンバーガーなどの日本人にとってスナックとしか思えないものがメーンの食事なのだ。だから、たかがハンバーガーといっても彼らには日本人のおにぎりと同じでこだわりがある。
肉がおいしいとか、付け合わせのピックルスの味や、ぱりぱり感、オニオンが生でなくてはいけないとか、オニオンの種類など、細かいことに気を配る。おにぎりのコメの種類や炊き方、梅干しの品質にこだわるのと同じなのだ。
栄養バランスよりも安全性
ではファストフードを食事であるという観点からもう一度冷静に見てみよう。
ファストフードというと、早いだけの、脂ぎった、安っぽい、貧しい食事であるという風に思われている。例えばハンバーガーなどはジャンクフードの代表として軽べつされているようである。ジャンクフードとは何であろうか? 単に脂ぎった商品を意味するのだろうか?
従来、外で食べる食事の条件は、バランスのとれた栄養、カロリーのたっぷりある食事であった。しかし、現在の豊かな世界では栄養バランスや、カロリーよりも大事なものがある。それは安全な食事であるかどうかということである。
安全とはどういうことなのであろうか? 食品添加物を最小限しか使用していない、農薬の残留濃度がない、毒性のある重金属類の検出がない、ホルモン剤の残留がない、塩分の濃度が低くコントロールされている、原材料中に有害な食中毒菌が付着していない、調理後の食品に有害な細菌は付いていない、などであろう。
現在の一般的なファミリーレストランなどではメニュー数は一〇〇種以上あり一つのメニューの原材料の構成数は二〇以上になる。ということは、およそ二〇〇〇品目の原材料の安全を確認する必要があるのである。
実際にレストランの商品管理で、そこまでの安全確認をしているところは少ない。ほとんどは外部の業者から購入する際に、商品に付いたラベルを見るくらいで、実際に全原材料の成分検査、細菌検査を実施しているチェーンは少ないであろう。商品数が多ければほとんどやれないのである。
ファストフードのように商品アイテム数が少ないのは、原材料の安全管理からも重要な要素なのだ。
ちなみに、ファストフードの代表的なハンバーガーの構成を見てみよう。
バーガーの構成は、バンズ、ひき肉、ピクルス、ケチャップ、マスタード、オニオンとシンプルである。ハンバーガーのひき肉は、肉の脂の成分を一定量にコントロールする。
さらに、肉をひき肉にする際のメッシュと温度を正確にコントロールする。肉の成型は機械で自動的に行う。全行程において温度コントロール摂氏〇度C以下でその作業をする。
そして成型されたハンバーガーパティはすぐに窒素ガス冷凍し、マイナス二〇度Cまで急速冷却される。そのため、食品添加物を使用して保存期間を長くする必要はないのである。
また、肉をつなげるための結着剤の使用も不要なのである。冷凍保管するので当然のことながら、色をきれいに見せる発色剤も不要なのである。大手ハンバーガーチェーンで使用するハンバーガーパティは一切無添加なのである。
いや、レストランは冷蔵の食材を使っているのに対し、ファストフードは安い冷凍食材を使っているのでジャンクフードなのだという人もいる。
それでは、レストランで販売するハンバーグミートパティを冷蔵で、サプライヤーから購入しているとどうなるであろうか。冷蔵で流通するために、保管期間を長くする必要があり、数種の合成保存料を使用しなければならない。
発色をよくするための発色剤、肉質が柔ら軟らかくなる水分保留剤、細菌が発生しないよう合成保存料、においをよくするための香料と、最低でも五種類の食品添加物が入っているのではないだろうか。
最近では、冷凍食品に対する考え方が変わってきている。例えば、共同農場を運営する山岸などは、ハム、ソーセージ、豚肉、ギョウザなどは、冷凍で流通している。理由は保存のための食品添加物を使用しなくても良いからといっている。
冷凍食品の宅配で急成長しているシュガーレディーも同じである。安全のために食品添加物を使用していないので、高級な冷凍品であるといって売上げを伸ばしているのだ。
また、いつでも同じメニューを提供するために、安定した原材料の供給を図らなければならない。そのためには、世界各国から食材を購入する必要がある。現在多くのレストランで使用されているフレンチフライは、多くが冷凍で輸入されている。
フレンチフライを生から作るには、皮むき、カット、ゆであげ、一次揚げ、二次揚げと複雑な手間が必要なのである。さらに産地、収穫時期により、糖分の含有量が変化し、揚げ色が変わるなどデリケートな商品でもある。
生のままで輸入すると発芽を抑えるため、ポストハーベストなどの農薬を使用せざるを得ないので、産地で一時加工後冷凍し日本に輸入した方が安全であり、一時加工の排水処理や、廃棄物などの公害問題の処理もスムーズなのである。また、冷凍食品であるので、日持ちが良く安定した値段で購入でき、お客さまに安価に提供できる。
(次号に続く)
((有)清晃代表取締役・王利彰)
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