飲食トレンド:デニーズ、健常者共用型点字付メニューを全店に導入

2001.05.21 228号 16面

昨年秋の「ハートビル法」施行を機に、飲食業界でも新規店舗を中心にバリアフリー化が進められている。だが、大多数の既存店は売上げ低迷で対象外。このような厳しい状況下、(株)デニーズジャパンが視覚障害者と健常者の共用型点字付メニューブックを全店一斉に導入した。低価格競争によりコスト削減が不可欠のファミレスチェーンで、大きな負担を覚悟の果敢な行動に出たデニーズに業界内外から注目が集まっている。

(株)デニーズジャパンは、バリアフリーの先進企業であるイトーヨーカ堂グループの一社。かねて店舗のバリアフリー化を推進してきたが、今回、その一環として全店(五三六店舗)に配備している文字情報だけの紙製点字メニューブックを刷新。先月末から一般のカラーメニューブックにラミネート加工の点字印刷を施し、健常者との共用型にした。

従来の紙製点字メニューブックは汚れを掃除するのが困難で、使い古すと点字の突起がつぶれ読みづらくなる。ラミネート加工による点字の突起は、汚れても拭き取りが簡単で衛生的。耐久性にも優れ、点字の突起がつぶれる心配もない。

また、健常者共用のため、ホールスタッフがメニュー写真を確認しながら正確にオーダーを取れる。

現在、デニーズには五種類のメニューブックがあり、今回、全店で四万ページにも及ぶ点訳や印刷を要した。しかも、一部を除きリニューアルは年四回以上もあり、手間や経費は定期化する。にもかかわらず、メニュー制作を統括する芳本充博マネジャーは、「提供する側の自己満足ではなく、実際に使う人が喜ぶことこそ真のバリアフリー」と当然のように語る。

確かに、利用者からの反応は、「こんなに読みやすい点字は初めて」「介添者と同じメニューで選べて楽しい」と大変好評だ。

点字のラミネート印刷を請け負った(有)ティラブティの中井幸久社長は、「今回導入した点字加工技術とクオリティーは比類なきもの。今後の主流になるでしょう」と胸を張る。

意外に知られていないが、ラミネート加工の点字印刷は、従来の技術では難しい。また、一見同じでも、突起の高さが足りずに読みづらいものが多い。こうした改善策として、今秋にも点字印刷のJIS規格が制定される予定だ。これまで使われてきた「アリバイ証明用の偽善的点字」は消え去る運命にあるだろう。

他の飲食チェーンでも、デニーズと同じ試みが次々と内定しており、この方式が二一世紀のフードサービスにおけるバリアフリー化のグローバルスタンダードとなりそうだ。

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