ニュースの裏側:米BSEで外食に明暗 牙城崩れる吉野家、マック攻めの戦略

2004.02.02 280号 20面

先月18日の日曜日、全国のマクドナルドはいつもより多い客で賑わった。日本マクドナルドが打ち出した、無料引換券一〇〇〇万枚を配布する「マック・ハンバーガーデー」のキャンペーン効果だ。この日は「通常の日曜に比べ二六%アップの売上げ」(広報)を記録したという。

日本マクドナルドがこうした無料引き換えキャンペーンを行うのは初めてのこと。オーストラリア産牛の使用をアピールし、「ハンバーガーの安全性とおいしさを再認識してもらいたい」と、BSE騒動をバネにしてPRに打って出た。

二〇〇一年の国内のBSE発生時と異なり、消費者の風評被害は少ない。昨年12月の既存店売上げは一・六%増と三ヵ月連続の増収。

BSEによる売上げへの影響は小さいという。

一方、様相を大きく変えているのが牛丼チェーンだ。吉野家には見慣れぬ「カレー丼」の垂れ幕がかかりはじめた。2月には米国産牛肉の在庫が底をつき、吉野家のほとんどの店頭から牛丼が消える。

かつて安売り競争を仕掛け、デフレの寵児といわれた両者に、BSEは異なるてん末をつきつけた。明暗を分けた理由は両者の危機管理意識の差だ。

グローバル企業のマクドナルドは、英国のBSEの洗礼を受けている。当時の英国ではハンバーガーに牛の脳を混入することが許されていたため、BSEとの関連性を疑われて売上げが激減した。このときマクドナルドは、牛肉の調達ルートの変更を行い、ナゲットやポークリブといった牛肉以外のメニューの多様化、カフェやサンドイッチなどハンバーガー以外の業態の多角化を進めた。

日本のマクドナルドもメニュー構成でみると、牛肉への依存率は三割足らずに過ぎない。

またマクドナルドには有名な「グローバル・パーチェシング」という全世界からの食材調達システムがある。これが日本で五九円という激安バーガーを可能にしたわけだが、世界中から同一品質の食材を手当てできるこのシステムは、リスクを分散する究極の危機管理対策でもある。ミートパテはオーストラリア、ニュージーランド、米国のどの国からも調達可能だ。またイスラム、インドなど宗教色の強い国のために開発した植物性タンパクのパテもある。日本ではポテトを揚げる油に牛脂をつかっていたが、今回すばやくそれを植物油に切り替えできたのも、すでにこうした代替品をいつでも使えるからだ。食材から調理システムまで、一から開発しようと思えば一年以上はかかるだろう。

そして、まさにその対極にあるのが吉野家だ。単品メニューで合理化を図り、利益率を高めるという政策が裏目に出た。安部社長にしてみれば、リスクを承知の上で、トップブランドを死守するための賭けだったに違いない。他の牛丼チェーンが、国内でBSEが発症した時から牛肉以外のメニューに力を入れてきたのに対し、「うちは定食屋じゃない」と突っぱねてきた。米国以外の調達ルートの開拓も実質行ってはいなかった。

牛丼がなくなった後は代替メニューでしのぐというが、吉野家の厨房には、牛丼用の鍋と湯煎器だけしかなく、競合の松屋が本格的なグリドル、大型電子レンジ二台などを備えているのに対して、メニューの幅も味にも限界がある。

安部社長は「牛丼がなくなっても、資金は潤沢にあり、経営の不安はない」と豪語するが、弱体化した吉野家がこのままでいられるはずがない。松屋やすき家にとっては、吉野家との差を縮める千載一遇のチャンスだ。

米国産牛肉の輸入は、1月末現在、日本政府は米国の安全対策が不十分として、全頭検査と同等の対応を求める方針は変えておらず、再開のめどは立っていない。仮に禁輸が解けても、以前のような二八〇円の牛丼を出せる見込みは低く、牛丼業界の地図が塗り変わる可能性がある。

また、吉野家を買収し傘下におさめようと虎視眈々と狙ってきた食品メーカーや商社が動き出す。これまで吉野家は高い収益性、高効率化で、安部社長の強いリーダーシップの下、他の企業に介入する隙を見せなかった。

しかし今後は、安部社長の責任を問う声も出るなど会社の弱体化は否めない。

株価が下がったら買収のチャンス。みなそれを狙ってくるはずだ。筆頭株主の西洋フードシステムズと大株主の伊藤忠グループの動き、だれが吉野家を買収にかかるかが今後の焦点になるだろう。

(王利彰、阿多笑子)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら