対談・期待されるシャリスト 田島眞氏・梅谷羊次氏

2006.04.03 312号 18面

食物系、食文化系の大学や短期大学では、フードスペシャリスト養成課程を設け、フードサービス業、食品小売業など食品界の最前線で即戦力として活躍できる人材を育成しようと、フードスペシャリストの資格制度をスタートさせ、熱心な取り組みが行われている。

今回、大学でフードスペシャリスト養成課程を担当する実践女子大学教授の田島眞氏と、就職の受け入れ先であるフードサービス業のロイヤルホールディングス(株)執行役員の梅谷羊次氏が、「フードスペシャリストの教育とフードサービス業で求められる人材」というテーマで熱く語ってもらった。

田島 フードスペシャリストというのは、およそ10年前、日本フードスペシャリスト協会がつくられ、大学や短期大学に呼びかけて、フードスペシャリスト養成課程が新設されたのですが、そこで所定の科目を修得し、任意試験に合格すれば、卒業とともに与えられています。

この資格制度をスタートさせた背景のひとつに栄養士という問題がありました。栄養士を取得できない短期大学などは、就職面でなにかと不利だということがあった。

栄養士に代わるなにか新しい資格をということで、フードスペシャリストが誕生しました。2006年度3月現在で、フードスペシャリスト養成課程をもつ大学は63校、短期大学は108校で、資格認定証交付数は合計2万8820人に達しています。

毎年、就職活動で履歴書にフードスペシャリストと書くのですが、面接担当者が一体これは何の資格だというんですね(笑)。非常に認知度がない。

梅谷 フードコーディネーターというのは、一般的に認知されていますよね。

田島 フードコーディネーターの資格は、誰でも試験だけで取得できるんです。一方、フードスペシャリストは大学・短期大学で所定の必須科目8科目21単位を修得し、認定試験に合格して大学を卒業しなくちゃ取得できない。かなりハードルが高いんです。しかし、一般での知名度は低い。

梅谷 栄養士や管理栄養士は、キチッとした資格で、ひとつの信頼性がありますよね。私ども給食事業もやっていますが、管理栄養士を置かなければならないと決められ、ひとつの権威として確立しています。

しかし、フードスペシャリストは、民間のため、権威としての格付けがない、と思うんです。そういう意味では、国家資格だとかいうことではなくて、こういうことを勉強しましたよということの、ある種の民間認証みたいなものが大事かも知れませんね。

カリキュラムの内容や取得単位などみますと、非常に幅が広く、1科目2単位が多い。ただ、どれだけの深さがあるのかなというと、ちょっといまいち分からない。

田島 これは短大を意識して、カリキュラムを設定しているため、単位が少ないんです。

梅谷 いま、給食施設では栄養士とか管理栄養士はキチッとしたスキルがあって、栄養成分を分析したりするほか、食の安全性を担保するようなことが必要になってきています。

またレストランでは、広い意味でのサービス的側面が強くなってくると思います。お客さまの気持ちとか心、あるいは心理的なものですね。接客に対してそういう気配りなど幅広くもてるような人材が必要になってきます。

ただ、外食の場合は365日、外食ばっかり食べているわけじゃないので、栄養のバランスがどうこうは重要じゃない。それよりも、お客さまにおいしさを味わってもらうとか、楽しんでもらうというような視点が必要になるんですね。

テーブルコーディネーションなどで演出していく、そういう人材というのは、これからものすごく求められると思います。たとえば、ワインのソムリエというのは、ワインの専門知識を持っていて、サービスができる人ですよね。

そういう意味で、フードスペシャリストは、ちょっと幅広過ぎるかもしれませんが、ワインソムリエのような要素を持っているというか、食事としての専門的な知識と、おもてなしをするとか、そういうことに対するスキルがあると、フードサービス業ではすごく使えると思います。

梅谷 私ども他の外食レストランに先駆けて、食材の原産地表示をやっています。お客さまに安全を訴えるだけではなくて、この食材はどこで取れ、おいしさはどうか、など説明できるような人が、これから求められるんです。

もうひとつ。民間の認定機関で、野菜のソムリエにベジタブルマイスターがある。

田島 ベジタブルマイスターは、うちの学生も結構取っています。

梅谷 ベジタブルマイスターの取得者は必ずしもレストランでサービスをするとか、食品会社に勤務しているとかいう人じゃない。およそ3割が食品会社の関係者、7割が無関係なんですよ。

田島 ほぉー。趣味というと変ですけど。

梅谷 やはり教養を高めたいというのがある。特に女性は多いですね。私どもの会社も女性が多い。食品に関する知識の中でも、野菜とかワイン、それとスイーツなどの知識はおしゃれなんですね。日本酒とか焼酎の知識があってもあまり自慢にならない。単なる酒飲みとしか思われませんから。(笑い)

いま、原産地表示をしておりますので、しっかり勉強しようと思うのは、男性よりも女性のほうがありますね。

そういう意味で、これからのフードサービス業は、本当にお客さまの感覚とか、日常のライフスタイルだとか、そういうものをきちんと理解したマネージが必要だと思うんです。マネジャーじゃなくて、アシスタントでいいんです。

田島 そのとき、フードスペシャリストがそういうことをやっていけばいい。

梅谷 以前は商品企画をやりたい、メニュー開発をしたいという人が多かったですが、いまはフードビジネスコーディネーターをしたいという人が多い。接客サービスを含めて、フードビジネス全般のマネジメントがしたいという。

田島 多いですね。就職のアンケートを取ると、外食産業に勤めたいというのがいっぱいいるんですよね。

梅谷 アメリカには、4年制の調理師学校がある。カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ、CIAですね。そういう学校へ行って、帰国して日本でレストランを開いている人もいる。まさにレストランプロデュースですね。そういう人たちもちらほら増え始めた。

田島 フードサービス業で働きたいフードスペシャリスト向けに、今のカリキュラムをちょっと変えなければならないかもしれませんね。

梅谷 心理学的なこと、あるいはデザイン的なことまで広がっていくと豊かな食環境が見えてくる。そのベースに専門的な食に対する知識を持っているとかが大事ではないでしょうか。

梅谷 この10年間で、世の中がずいぶん変わりましたが、実はチェーンレストランはあまり変わっていないんです。以前は、レストランといえば、ある種のハレの場であったわけですが、今はそうではなくなった。

アメリカをみると、高付加価値を求めていっているレストランだけが勝ち残っているという現実があります。

今後は外食業からライフスタイル提案業というか、そっちに変わっていかなければいけないと思います。

これから、少子高齢化が進み、団塊の世代などは3世代でのコミュニケーションが増えますよね。

そういう場を提供するというのが、僕はレストランの役目だろうと思うんです。おじいちゃん、おばあちゃん、子どもまでがカジュアルな雰囲気で楽しめる場ですね。

素材はすごくいいものを使っていて、サービスする人も、食に関する幅広い知識を持っていて、本当にもてなしてくれる。そうすると、1時間や2時間がすごく楽しい。つまりハレの場になるんですね。

田島 そうですね。

梅谷 コンセプトでいうと、私はセカンドダイニングという言い方をしているんです。ファーストダイニングの家庭に代わる場としてのセカンドダイニング、ちょっとハレの場ね。

その場合に、それができるマネジャーだとか、アシスタントだというのはどんな人なのかと。商品企画だとか、先の野菜のソムリエだとか、そういう人は男性よりも女性が適しています。女性は、心から取り組むところがあります。

僕は食に関していえば、大学で学ぶ、つまり、教室で学ぶのにはある種の限度があると思うんですね。

大学では、たとえばこれが栄養成分だよ、おいしさの素ですよと教えても、まさに非実学の世界なんですね。これが旬だとかおいしさというのが、実物でなければわからない。

私はよく調理現場の人や野菜ソムリエの人を農家に連れていくんです。たとえば、その有機栽培の野菜はおいしいんだと頭で分かっているわけですよね。

この堆肥が有機肥料ですよと言ったら、近づけないんですよ。熟成ができていない堆肥ってすごいにおいがするわけです。ハエもたかっているしね。そして、熟成した有機肥料というのは、今度はものすごく香りがよくなりますよね。僕は手で握って、鼻でかぐと、気持ち悪そうな顔しています。それが実態です。

「こういうふうにして農家の人が作ってくれているんだな」ということが実感できない限り、お客さまには本当に自分の言葉で話せないですよ。

大学で学ぶことと、実学で体験したことがガチッと一致すると、完全に頭に入る。そういう、ある種の農業体験をいれたカリキュラムが大事ではないでしょうか。そういう人が、これからのレストランのマネジメントもできるようになると思う。

田島 それですね。現場での生きた授業というのが必要だと思います。それでなければ、単なる知識の固まりになってしまいますから。

梅谷 広く浅くで、一応、単位は取っているけれども、実学として、いま言ったように、なかなか生きてこないと思います。経験すると、本当に身に付くということです。

田島 産学連携しながらカリキュラムを変えていく必要がありますね。

梅谷 いま、フードサービス業では、栄養士よりもワインソムリエとか、野菜ソムリエとか、そういう資格を取っている人の方が有効に活用できる。そういう人は、ワインや野菜のことだけに知識があるわけではなく、食に対する深い想いのある人なんですね。

だから食育もできます。うちで食育を担当している人は、一番に野菜のソムリエの資格をとって、メニュープランをやっている。

要するに、お店でお客さまに接することもできるし、マネジメントもできるし、商品企画もやるという形ですね。これは男性よりも女性のほうが適性はあります。

田島 フードスペシャリストのひとつの方向性として、フードサービス業での活躍が期待されるということですね。

◆日本フードスペシャリスト協会とは?

●設立の趣旨

食に関する広い視野と深い見識を備え、食のフィールドの充実、発展を担う専門家として、また国民の豊かな食生活、食文化を推進するリーダーとして、流通や消費の分野で活躍できる人材「フードスペシャリスト」の養成が緊急の課題と確信し、食に関する研究者、教育者、実務者の有志が発起人となり、1996年12月、日本フードスペシャリスト協会を設立。

●目的

日本フードスペシャリスト協会は、食べ物に関する高度の専門知識および技術を有するフードスペシャリストの養成を図り、その研鑽と振興を期するとともに、会員相互の連携を保ち、わが国の食と食生活の向上に資することを目的としている。

●事業内容

(1)「フードスペシャリスト」養成機関の認定

(2)「フードスペシャリスト」資格認定証の発行

(3)「フードスペシャリスト」養成のための教科内容の研究並びに助言

(4)「フードスペシャリスト」に関する資料の収集および会報等の発行

(5)研究発表会、研修会、見学会等の開催

(6)その他本協会の目的を達成するために必要な事業

●会員組織

日本フードスペシャリスト協会は、正会員(本協会の認定を受けた大学、短期大学)、特別会員(学識経験者)、賛助会員(本協会の趣旨に賛同する団体または個人)および個人会員(フードスペシャリスト資格取得者)をもって組織されている。

正会員=大学63校、短期大学108校/特別会員=9人/賛助会員=1団体/個人会員=586人

◆日本フードスペシャリスト協会(東京都港区三田3‐4‐28、電話03・5476・6860/http://www.jafs.org/)

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