高度成長する惣菜・デリ 食品企業・外食企業のリストラ策
中食マーケットは、消費者の食生活の多様化がもたらした急成長市場である。その背景には、①食習慣に対する固定概念の希薄化②有職主婦の増加による調理省力化志向の拡大③CVSの台頭④食品のクオリティー性、コンビニエンス性の充実‐‐などが挙げられる。
九三年を振り返って見ると、中食マーケットの将来性に着目した食品企業、外食企業の参入が相次ぎ、「内食VS中食VS外食」の激しい攻めぎ合いが顕著となった年であった。
長引く消費不況の環境下に外食産業は、七〇年代から八〇年代にかけての飛躍的な成長が沈静化し、それに加えて地価の高騰、同業態の地域内競合の激化、人材不足などの要因も相まって、来店数の落ち込みとともに業績悪化を招いている。
食品産業も例外ではなく、内食の伸び悩み傾向は顕著である。食嗜好の多様化から、ヒット商品不作の時代が続いており、各社とも研究開発費の削減なども影響して、新製品開発意欲の低下や安易な便乗型商品の投入が多く見られる。
そうした中、それぞれの持ち場で、経営不振の打開策を模索する上で、必然的に成長市場である中食マーケットへのアプローチを具体化するようになっている。
食品企業の場合、一つには、冷凍食品メーカーを中心に、スーパー、CVSベンダーなどへの食材供給の強化が挙げられる。これまでも中食マーケットに対し、コロッケ、魚フライ、とんかつなど揚げ物類を中心とした業務用冷食の開発、販売を行ってきたが、現在では和惣菜、中華惣菜などバリエーションが広がっている。特に、今年の傾向としては、スーパーのインストア加工におけるローコスト・オペレーションに対応し、フライヤーを使わない、スチームコンベクション対応の食材や、ボイリングパックの食材、解凍の手間のかからないチルド惣菜などの開発が活発であった。
二つ目には、味の素と米穀卸木徳との合弁による「あじとき」、ニチイとの合弁の「グルメロード」や、一〇〇%子会社の「デリカエース」、中部食品との合弁の「中部デリカエース」、弁釜との合弁の「弁釜デリカエース」、森永乳業との合弁の「熊本デリカエース」などのように、惣菜・デリビジネスへの直接進出を果たす食品メーカーも多く見られるようになった。特に大手CVSチェーンと手を組んだベンダーとして、キユーピー、プリマハム、ニチレイ、日本水産、ニチロ、ハウス食品、山崎製パンなど、そうそうたる大手NBメーカーが参入している。
最近の例では、今年8月、雪印乳業がミムロと合弁で「㈱フードピア」を設立、惣菜・デリ分野での共同事業展開を発表した。雪印乳業が二〇年来手掛けてきた調理冷食の開発技術と乳業メーカーならではの品質管理、コールドチェーンのノウハウ。それとミムロが持つ惣菜の生産、供給力と農産品の調達力をうまくかみ合わせて、惣菜・デリビジネスを推進しようというものだ。
食品メーカーの中食マーケットへの進出は、業務用食材の供給、家庭用商品の開発のための情報収集、事業の多角化の三分野でアプローチでき、それぞれにシナジー効果が期待できるというわけである。
一方、外食企業の場合は、テークアウト事業の強化を打ち出すケースが多い。ファストフード(FF)の各社に見られるテークアウト強化のための米飯メニューの投入が代表例だ。また、最近話題を集めているFF「バーガーキング」でもイートイン・スペースを最小限に抑えたテークアウト重視の業態店となっている。
これまでの外食企業のテークアウト事業は、来店客に対する付帯サービスの域に過ぎなかった。品揃えもレストランPBのドレッシングやソース類、デザート類が主で、商品化の方向は内食をにらんだ加工食品分野であった。「ピエトロ」「ビッグシェフ」など専門店の“のれん”の力で、食品事業として成功した例もあるが、大手ファミリーレストラン(FR)、ディナーレストラン(DR)では、それ自体でビジネスとして成立している企業は少ない。
内食の伸び悩み、外食機会の低下が進む中で、外食企業が取り組むテークアウト事業は、テークアウト業態店の開発と、来店動機につながるテークアウト商品の開発と言えよう。この二つの傾向は、今年特に多く見られた。
前者は、先にも紹介したテークアウト重視のFF「バーガーキング」や牛丼チェーン「神戸らんぷ亭」、かに道楽「夢どうらく」など、実験店的位置付けのものも含めると数多い事例がある。さらに、テークアウトと同様に、家庭内外食需要を狙ったケータリング事業導入としては、日本KFCの「ピザハット」や和風弁当「菱膳」がある。特に、弁当事業の参入に当たり、その陰に大手水産会社のニチロとの業務提携があることに注目しておきたい。
また、既存の外食店において、中食メニューを意識したテークアウト商品を導入したのが、大手DR「レッドロブスター」の「かにめし弁当」である。
この分野では既に成功している企業もある。「ステーキのあさくま」の惣菜一〇〇品目の販売がその代表例だ。システムを簡単に紹介すると、一店舗平均四八〇人のパートの中から、約二〇人の販売員を選出し、アイドルタイムを利用して店内で試食会を行い、商品のラインアップを固めていく。店内販売とともにカタログ販売へも着手。惣菜のパンフレットを一店舗当たり約三〇万部単位で、各店舗の周辺住民に配布し、一人の販売員で約五〇〇人の顧客を組織化していこうというものだ。
既存店舗を惣菜の生産、販売拠点と位置付けた、外食企業だからこそ取り組めた中食ビジネスと言えよう。
以上のように、成長著しい中食マーケットをめぐって、食品産業、外食産業ともにそれぞれのポジションから、それぞれの経営資源をフル活用した形で、果敢にアプローチしてきている。これまでは中食マーケットのあまりの急拡大に立ち遅れまいと、取りあえず実験的にでも参入し、ビジネスチャンスを模索していたが、今年になってからは本格的ビジネスとして成就させることを意図したケースが多く見られた。
食品産業、外食産業の低迷が長期化する中で、リストラ策の一つとして、惣菜・デリビジネスの期待はますます膨らんでいる。