トップインタビュー 服部栄養専門学校 服部幸應理事長・校長
‐‐料理人を志す若者が増えているとお聞きしておりますが。
服部 調理士専門学校は全国で二五八校を数えますが、全体的に見るとここ数年は、志願者が三割増えています。テレビや雑誌などメディアが発する料理に刺激された若者が多く、そのほとんどが著名な料理人を目標に掲げるなど具体的な将来の夢を抱いています。私自身いくつかのメディアに関わっていますが、なかでも「料理の鉄人」の与える影響力は飛び抜けていますね。いままでの料理に関する番組は、揃えた食材で決まったメニューを作ったり、グルメを主題とする企画がほとんどを占めたが、「料理の鉄人」はショー的な要素が多くて料理を創造的に捉えている。封建的で恐いとされた料理界の既存のイメージを緩和すると同時に志願者を広げる役割を果たしたと思います。
‐‐かなり高い視聴率だそうですね。
服部 常に二〇%台をキープしておりテレビ番組の記録を次々に塗り替えているようです。正直いって視聴率の影響力には驚いています。以前宮沢りえさん主演の「東京エレベーターガール」という人気番組がありましたが、放送以後、エレベーターガールの志願者が一〇倍に跳ね上がったと聞きます。同じく高嶋政伸さん主演の「ホテル」放送以後には三倍になったと。世間はメディアに躍らされている気さえします。
いずれにせよ料理界が注目され、若者が興味を持ち始めたことは、今後の外食産業のレベルアップにつながると思います。
‐‐昨今はどの業種への人気が高まっておりますか。
服部 以前は洋食が圧倒的な人気を誇っていましたが、現在は和食、中華への人気が高まりつつあります。比率でいうと、以前は洋食六五%、和食三〇%、中華五%だったのが、現在は洋食四五%、和食四五%、中華一〇%に変わっています。
‐‐就職状況の方はいかがですか。
服部 バブル時に比べると厨房の余剰感は否めず、引く手あまたというわけにはいきません。ですが、今後は一次、二次産業が空洞化する傾向にあり、雇用の受け皿として三次産業が伸びるのは間違いありません。外食産業も同様です。さらに質の高い料理人が大量に求められる時代になるでしょう。
‐‐片や料理人を目指す女性も増えていますね。
服部 わが校では昔から女生徒は多い方なのですが、やはり年々増加しています。現在は二〇%が女学生です。他の学校でも女学生が二~三倍に増えたという事例は珍しくなく、男子校を共学に変える動きも出ています。
フードコーディネーターやコンサルタントなど、外食に関する女性の進出は以前から目覚ましく、調理師もその一つと考えられます。進学率のアップによるキャリア志向の女性が増えたのが要因ですね。
‐‐かつては厨房作業は女性には無理といわれましたね。
服部 いままでの厨房は3Kの典型でとても女性が働ける状況ではありませんでした。ですが、最近は厨房の機械化や、熱源をガスから電気に転換する電化厨房への取り組みが活気を帯びており、作業環境は著しく改善される方向にあります。女性の受け入れを前提に厨房改革を試みる機運がホテルやレストランで高まっています。また、専門書が増えたおかげで、“料理は見て覚えろ”などという封建的な教育が緩和されつつある。長い修業を要した料理技術もやる気さえあれば短い期間で習得できるように変わってきている。
これは結婚や出産を控える女性にとって大変好ましい風向きでしょう。残された課題は重たい鍋をどうするかくらいではないでしょうか。
しかし、こうした環境改善がすべての厨房で行われているわけではなく、旧態依然なままの方が多いのが現状です。女性を生かすには受け皿が改革意識を持つことが先決です。
‐‐料理のセンスに男性と女性の違いはありますか。
服部 味については何ともいえませんが、盛り付けなど見た目に関しては女性のキメ細かさが目につきますね。例えば花をあしらったり色どりなど。女性に潜在する美意識は今後の料理界のレベルアップにとって必要不可欠となるでしょう。
‐‐他に女性ならではの利点がありますか。
服部 女性がいるだけでとにかく厨房の雰囲気がやわらぎますね。女性蔑視と誤解を招きますが(笑い)。
‐‐今後の女性の進出についてはどのように予測していますか。
服部 出生率が下がっており今後の労働者不足が懸念されます。男性だけでは人手不足になるのは目に見えている。一〇年後には女性が料理人の三分の一を占めることになるでしょう。料理人への志願も会社のOLに就職するのと同じ感覚になると思います。
‐‐今後女性を生かすためには、受け入れる側が電化厨房に取り組むなど厨房のハードな部分を見直す必要がありそうですね。
服部 その通りだと思います。
‐‐ありがとうございました。
服部幸應(はっとり・ゆきお)氏、昭和20年東京生まれ。立教大学卒。現・学校法人服部学園・服部栄養専門学校理事長・校長。
東日本料理学校協会会長やフランス料理アカデミー協会理事なども務める一方、フランス料理やワインなど数々の協会、団体から勲章や表彰を受けたり国際的にも活躍。「料理の鉄人」「TVチャンピオン」「世界まる見えテレビ特捜部」など多くの料理番組を企画、また自身が出演するなどテレビでもおなじみの食の探究者。(文責・岡安)