地域ルポ 九段下(東京・千代田区) 文化・パブリック・学校多面的な都心の街

1995.08.21 83号 6面

九段といえば靖国神社をイメージするが、ここは観桜名所の牛ヶ淵および千鳥ヶ淵をはじめ、多目的施設の武道館、北の丸公園などが点在する都心有数のレジャー、文化、スポーツゾーンだ。また、これらレジャー、スポーツスポットに加えては、千代田区役所、区立図書館、公会堂、九段会館といった公共施設のほか、日本債券信用銀行、さくら銀行本店などのオフィスビルも点在しており、一方においてはパブリックとビジネスの街という顔も合わせもっている。地域の中心ゾーンは靖国通りと目白通りがクロスする九段下で、ここには地下鉄東西線、半蔵門線、都営新宿線の三線が乗り入れており、交通の利便性は高い。一日の乗降者数約一四万四〇〇〇人。近接地には専修大や二松学舎、九段高校、暁星、白百合学園などの学校施設も多いので、ビジネスマンに加え学生の来街も多い。

飲食施設については、とくにここ二、三年来九段下交差点から目白通りの九段北一丁目にかけて集積が進んできており、モスバーガー、ダンキンドーナツ、ドトールコーヒー、サブウェイ、丼丼亭といった大手飲食チェーンを目にすることができる。地域のサラリーマンやOL、文化、レジャー客の飲食ニーズに対応した喫茶、FF系の店舗展開ということになるが、通りから一歩裏通りに行けば、“オジサン族”のための居酒屋も軒を連ねており、独自の飲食ゾーンを形成している。

九段下の交差点は南北方向の目白通りおよび内堀通り、東西方向の靖国通りがクロスする交通の要所だ。

地域のランドマークである靖国神社は九段坂の上にあり、坂下からも大きな鳥居が見える。靖国通りの西側は皇居の堀(牛ヶ淵)で、田安門をくぐれば武道館や北の丸公園に通じる。

九段下の交差点を内堀通りにいけば、右手に九段会館と千代田区役所、左手にはさくら銀行の本店が存在する。

区役所には公会堂、図書館を併設しているので、このエリアは人の往来が顕著だ。

しかし、目立った商業施設はない。九段会館に喫茶、グリル、バー、和洋レストラン、すしなどの飲食施設が六店舗出店するのみで、来街者が気軽に利用できるような飲食店舗は存在しない。

同じビルの二階に焼鳥チェーン「串八珍」が出店している。豊創フーズ(株)(本社=東京・新宿)の直営店でオープンして一五年になる。

店舗面積二〇坪、客席数は四八席。炭火焼きの焼鳥、串焼きが看板料理だが、そのほか刺身、煮物、揚物、サラダなど合わせてトータルで三〇~三五品目(一二〇~三六〇円)をラインアップしている。

営業時間は平日が午後4時から同11時、土曜日が午後2時から11時。客層はサラリーマンが主体なので、会社が休みになる日・祝日は定休になる。

客単価は二三〇〇円前後、店の立地条件はビジネス街ということだが、直営店が都内に九段店を含め一一店、このほかに委託経営で二店と計一三店舗を開設しており、チェーン化を推進中だ。

委託経営は勤続五年以上の社員を対象とする「のれん分け」で、人物が適正であれば、自己資金の三倍までの金額を本部が融資するという「開業資金貸付制度」も導入している。

店舗の標準的規模は一五坪、二四~三〇席で、月商五〇〇~六〇〇万円。

九段下の交差点に戻る。左に曲がって坂を上がれば靖国神社および牛ヶ淵。その反対側、右に行けば首都高速五号線をくぐって神田神保町方面へ出る。

交差点を直進して目白通りを飯田橋方向に行けば、左の角地に地上一四階建ての日本債券信用銀行がたつ。地域では有数の大型ビルだ。

このビルの前から目白通りを横断する。交差点の角地にハデなファサードの牛丼専門店「げんき家」が目につく。今年5月にオープンしたばかりの地域のニューフェースで、吉野家、松屋、神戸らんぷ亭に次ぐ、“第四勢力”の牛丼チェーンだ。

店舗面積一〇坪、客席数三〇席。以前そば屋だった場所で、経営者が高齢化で廃棄してしまったので、そこを借りての出店だ。

直営店が東京・桜田上水、埼玉・越谷にあるが、この店は三号店目の出店だ。一〇年前からのチェーン展開で、FC店が杉並、久米川、また、沖縄、台湾など海外市場にもあり、地味だが着実に出店を伸ばしている。

メニューは牛丼並四〇〇円、大盛五〇〇円、特盛六〇〇円の三本柱が基本で、もちろんイートインに加えて、テークアウトサービス(四〇〇円)もおこなっている。

営業時間は朝8時から夜11時まで。ワインに漬け込んだコクの深い肉とオリジナルのタレが売りもので味では大手先発の吉野家にもひけをとらないという意気込みにある。

客層は地域のサラリーマンや学生が主体。

「げんき家」の並び、ビルの一階に、そば・うどんの「満留賀」が出店している。満留賀といえば、組合方式で都内に約三〇〇店を展開しているが、この店はオープンして三〇年になる。

地域では老舗格の飲食店舗で中高年のサラリーマンをはじめ、靖国神社参拝客、九段会館利用者などに多く利用されている。

メニューはかけ四五〇円、きつね、たぬき五〇〇円、大もり五五〇円など。

「満留賀」からさらに東寄り。九階建てビルの一階にエレガントな雰囲気の喫茶「カフェドクリエ」が出店している。青山や六本木あたりにみるような感性ゆたかなカフェで、今年7月に入ってオープンした新装店だ。

メニューはブレンドコーヒー一八〇円をはじめ、アメリカン二〇〇円、カフェオレ、カプチーノ二三〇円、エスプレッソ二五〇円など。

ドトールコーヒーに対抗して「低価格コーヒー」を売りものにしているが、ドリンク類に加えフレンチサンド(四種)二三〇円、フレッシュサラダ(二種)三九〇円など六種も提供している。

店舗は名古屋五店、東京五店舗を合わせて計一〇店を出店しており、この店もチェーン化を推進中だ。

「モスバーガー」は東西線地下鉄入口に隣接する好立地で、昭和61年6月オープンの直営出店だ。店舗面積二四坪、客席数三六席。年中無休の運営形態で、朝6時から深夜12時までの営業。

チェーン店ではないが、モスバーガーが入居する同じビルの二階に、西洋料理店「二葉亭」が出店している。

一〇年前にオープンしたコンパクトな店だが、平日はビジネスマンやOL、土曜日はレジャー客に利用されている。夜の客単価は四五〇〇円前後。営業時間は午前11時30分から午後1時30分までがランチタム、ディナータイムが午後5時~11時まで。

基本的にはオフィスワーカーがターゲットなので、日・祝日は定休日にしている。

モス、二葉亭の南隣の木造二階建ての店は割烹料理「やすくに」だ。昭和43年のオープンで、かつては政治家や社用族の利用も多かったが、低価格志向の現在は客数、客単価ともに大幅に落ち込んでおり、経営的には苦戦を強いられる状況にある。

昼はすき焼定食九〇〇円、てんぷら、刺身定食一〇〇〇円、夜は刺身、割烹料理一人前一五〇〇~五〇〇〇円前後を提供。

店舗面積は一、二階合わせ三七坪、客席数一階四〇席、二階五〇席。

ドトールコーヒーは、ご存知「一八〇円コーヒー」を武器に、ハイテンポで出店数を伸ばしており、都心部での出店は珍しくなくなってきている。

九段下店はFC店で平成4年2月のオープン。店舗面積三一坪、客席数六五席で、朝7時30分から夜8時までの営業。

場所柄サラリーマン、OLの利用が主体で、客単価は三〇〇~四〇〇円前後。月商八〇〇~一〇〇〇万円。

ドトールコーヒーの南側交差点の角地にはダンキンドーナツが出店している。六年前のオープンで、二〇歳代の若い女性や学生に支持されており、ドトールの客層とは異なり、“共存”しているという印象だ。

ダンキンの隣は天丼専門の「丼丼亭」が出店している。平成6年7月オープン。店舗面積一五坪、客席数二四席、グルメ杵屋(本社・大阪)の直営店で、都内に一二店を開設している。

先発の「てんや」に次ぐ第二の勢力になるかは不明だが、都心の繁華街やビジネス街で出店をみかけるようになってきた。

客単価六八〇円。一日二五〇~三〇〇人の利用で、日商一七~二〇万円強を確保している。午前10時~午後10時までの営業で、年中無休。土・日は平日に比べ二、三割客数が減少する。

「丼丼亭」から九段交差点寄り、四〇mほどのところに、サンドイッチチェーンの「サブウェイ」が出店している。

昨年6月にオープンしたFC店で、店舗面積二一坪、客席数二一席。

定休日なしの営業形態で、平日は午前10時から午後10時まで。土・日は二時間短く、夜8時までの営業だ。

客単価は、六〇〇~七〇〇円前後。月商五〇〇~六〇〇万円といったところだが、これはまだ目標を下回っている数字のようだ。

九段下交差点から九段北一丁目辺りにかけて、大手飲食ビジネスやチェーン志向の飲食企業が軒を連ねているという構図だが、目白通りから神保町側に一本入った通りには、「養老乃瀧」「949」「まぐろ家」などの居酒屋も点在しており、九段の“飲み屋街”といった様相を呈している。

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